第954話 32枚目:周辺探索

 地上では大神の加護特典が普通に使えるので、掲示板を覗いてみると、案の定情報を知った召喚者プレイヤー達で大騒ぎになっていた。主に頭を抱える方向で。まぁそうなるよな。

 それに加えて司令部は、大火力で吹っ飛ばそうとすると、何かカウンターがあるかも知れない、と警戒していた。砦を作るだけの知力があって、神殿に蓄積された空間の歪みへ干渉できるなら、その辺も何か対策しているかも知れない、との事だ。

 非常に納得できたので、私と「第一候補」の組み合わせで大規模攻撃を行う為の儀式の準備は取りやめとなった。もし万が一反射されたら、被害がすごい事になる、ではきかないからね。


「ですが、それならそうとして、一体どうやって削ればいいんでしょうね」

『素直に砦を建設し、戦線を押し上げ、向こうの影響力を抑制して、少しずつ地道に削っていくしかあるまいな』

「正道ですね。むしろズルによるショートカットが封じられたという感じでしょうけど」

『で、あろうな』


 そんな訳で探索を進めていった訳だが、やっぱりというか何と言うか、「拉ぎ停める異界の塞王」の方にも、ほぼ同じ距離に同じような砦があったそうだ。まぁあるよな。

 わざわざ2体が左右対称にいるんだ。「お約束」を大事にする運営の事を考えれば、そういう差がついている可能性は低いと思った。


「だから上手く同時撃破しないと、もう片方を取り込んでパワーアップしたり、そこまで行かなくても応援が来て撃破出来なくなったりするんですよね」

『少なくとも、応援と言う名の挟み撃ちには遭うであろうな。片方だけに構っていては、相手諸共纏めて押し潰される可能性も高い』

「……そうか。協力者ですらないんだったな。お互いに。むしろ何かあれば蹴落とす対象か」


 なお本日の探索目標は、あの肉の壁型砦の大きさ確認だ。……水竜族と海竜族の人達が、召喚者プレイヤーの乗った小舟を運びつつ海から沿岸を確認してくれたんだけど、そちらでは確認されていない。

 っていう事は、まぁ、そういう事なんだろうなー……と思いつつ、肉の壁型砦を左手に見つつ南下する。肉の壁型砦から同じ距離を保って移動していけば、召喚者プレイヤーにはオートマップ機能がある。それで大体大きさが分かる筈だ。

 ちなみに近寄ることも検討されたのだが、私と「第一候補」が全力で影響を軽減していても行動に支障が出る程の状態異常が積み込まれたので、周辺探索だけにとどめている。


「もうちょっと相手の影響力が削れるか、こちらの影響力が強まらないと無理なんでしょうね」

『そして近寄れもしないと言う事は、遠距離からの攻撃もほぼ通らないと言っていいであろう。対策の内では大人しいものであったが、厄介である事に違いは無いであるな』


 そんな会話をしながら何時間か歩き、途中途中で神の加護を封じる仕様のダンジョンへの挑戦者を見送り、その分の補充要員を迎え入れつつ、南へと移動していった結果。


「海岸までは辿り着けませんでしたし、肉の砦に沿って回り込むことも途中までしか出来ませんでしたが、これは同心円状の形をしていると見て問題ありませんね?」

『問題ないであろうな。東に行くほどあちらの力が増すのは理が通る故、陸地から回り込むのは無理であったが。しかし、あの砦が見えぬほどの距離、海岸付近であればまだ影響も少ない故、海から回りこんでぐるりと囲むように神殿を建てるべきであろう』


 と言う事になった。海の近くなら、最初は海の神の神殿を建てるべきかな。ものによっては海に面している必要があるし。この大陸には3ヵ所渡鯨族の港町があったようだから、足掛かりとするならその辺りからじゃないかな。

 それが終わったらまたどの神の神殿を建てるかでひと悶着ありそうだが、その辺はうまく司令部が調節してくれるだろう。誰も建ててはいけないとは言っていないんだし。

 ただし邪神は除く。知ってるんだぞ。有志の見回りで、今でもちょいちょい予定にない場所に邪神の神殿が建てられてるっていうのは。既に建ってる神殿の別棟とか生活スペースです、みたいな顔して小さい邪神の神殿がこっそり建てられてるのも知ってるんだからな。


「……一応はこちらの神である分、神殿が建ったら向こうの影響力がそれなりに削がれるというのがまた」

『……全くであるな。本当に、どうしてその手際を真っ当な事に使わぬのか』

「最近、もう中立ないし秩序であるなら人間種族の神殿でもいいのにと思うようになりました」

『その存在がある、というだけで神経が削れるであるからなー。全く、敵方としては非のつけようがない』


 なお、最初の大陸における、種族間の対立戦争の火種もちょいちょい手を出しているらしい。本当に地味な嫌がらせを忘れない。その裏で、一体今度は何を企んでいるのか。


「正直、どこに何を仕掛けられても困るので、狙いが絞れないんですよねぇ……」

『いずれにせよ、こちらの想定の斜め上である。突発的なものに対処できるよう、余力を残しておくぐらいしかできぬよ』


 古代竜族の人達が復活すれば、その圧力でどうにかなる、と、思っていた時期が私にもありました。

 ……実際戦争が起こればもちろん動くのだろうが、その辺を上手い事、ギリギリ戦争にはならないが関係は険悪になる、に調節してるんだよなー。本当にその辺りは上手い。それ以上に腹が立つが。

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