第932話 30枚目:探索模様

 この難易度がおかしい野良ダンジョンだが、実は10階層ごとにボスが出現し、そいつを倒すとそこから帰還する事が出来る。またその帰還ポイントは神域ポータルからの転移先として登録され、そこから再挑戦が可能になるのだ。本当にテンプレートなダンジョンだな。

 注意事項としては、神域ポータルからの転移は一方通行。ダンジョン内では神の加護が封じられる=神域ポータルが利用できなくなるので、再びどこかのボスを倒すしかない。上層に戻ってもいいが、構造が変わっているので探索はやり直しだし、その道中でどちらにせよボスと戦う事になる。

 それに加え、ダンジョン自体はインスタンスな空間だ。つまり、パーティ以外の援護は期待できない。……その仕組みに、やはりエンドコンテンツでは? という掲示板の声が根強いが、ともかく。


「ボスを倒すのに一定以上貢献しないと、帰還は出来ても再挑戦が出来ませんからね。ティフォン様の事ですからこれも一種の試練と見なされるでしょうし、神器の紛失は竜族にも過失があります。なら、越えなければ神器は出てこないでしょう」


 ばっきりと折れた剣をインベントリに放り込み、次の予備の剣を取り出す。しかしまー次から次へと色んなモンスターが出てくるもんだ。出来るだけ剣を使うようにしてはいても、ついうっかり魔法を使ってしまいそうになる。

 エルルがインベントリからの抜き打ちとか出来るようになった理由がよく分かるよ。分かっていても戦闘中に武器が壊れるって言うのは隙になる。私はうっかり魔法を使ったり蹴ったり殴ったりしてしまうが、剣での戦いを継続しようと思えばインベントリからの抜き打ち技術は必要だ。

 念の為10階層ごとに撤退しつつ進んできたが、今がえーと、36階層だったかな。時間の都合上、途中で来た道を戻ったりもしたし。


「というか、普通に難易度が高いのですが」

「そうですね」

「難易度と言うより殺意と悪意と言うべきな気もしますが……ところでカバーさん、このダンジョンの現在の最高到達階層ってどれくらいでしたっけ」

「昨日時点で60階層です」

「なるほど。……50を越えたという事は、100はありそうですね。テンプレート的に」


 メンバーをそれぞれの都合に合わせて入れ替えながら進んでいる、つまりメンバーによって同じ階層を何度も攻略し直しているとは言え、本当に進みが遅い。それだけ難易度が高いって事なんだけど。モンスターも罠も多い上にレベルが高いんだ。

 今日のメンバーはフライリーさんとマリー達だから、余計に私が前に出てるって言うのもあるんだけど。タンクは2人いないと安定しないんだよ。


「大丈夫っすか先輩!? なんかさっきデカいの食らってなかったすか!?」

「防御力は落ちても回復力は落ちてません。大丈夫です」

「それダメージ自体は入ったって事っすよね!?」

「図体に似合いの攻撃力はあったという事ですね。痛打にはなってませんが」


 仕方ない。トロール的な通路ギリギリの大きさの奴に殴られたんだが、あれは私が受けなきゃマリー達がまとめて吹っ飛ばされてたから。狭い所で面攻撃を使ってんじゃないって話だ。こっちもモンスターの群れの中に火属性の壁魔法を設置してやったけど。

 まだ鎧は出来てないからな。装備より中身の方が丈夫だから。それでも今着ているのは仕立て直して貰った探検服だから、私が持ってる中だと一番防御力が高い装備となる。それでダメージが通ったから、やっぱり私が受けないとどうしようもなかった。


「こうなると盾が欲しい気持ちが分かりますが、私より丈夫な盾が出来るにはまだまだかかりそうなんですよね」

「能力が下がったとは聞いていましたけれど、あの数倍ではきかない相手と正面から殴り合っていたのを見た以上、信じられませんでしたわ」

「殴り返せなくは無かったでしょうけど、その後に追撃がありましたからね。そちらに反応できなくなるところでしたから」

「あ、殴り返せはするんすね。……ところでカバーさん、追撃ってなんすか?」

「ミクルルス……毒蛇型のモンスターですね。大きな拳の陰に隠れるようにして飛び掛かってきましたので、フライリーさんの位置からでは見え辛かったかと」

「どくへび。……先輩、噛まれたっすか!?」

「私に状態異常は効きません」

「かっけー!」


 種族スキルと装備に加えて「月燐石のネックレス・幸」があるからな。搦め手対策はばっちりだ。ありがとうボックス様。それに、タンクが状態異常で落ちたらシャレにならないし。

 しかしそれにしても、難易度が本当に高いな。これ、攻略させる気あるか? ……それとも、竜都の大陸と同じく平行タスクで、その正体はエンドコンテンツとかか?

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