第913話 29枚目:イベント進捗

 地道に言葉を交わし、協力し、好感度を稼いで友好関係を築いていく。どうやらまとめられていく情報を見る限り、それは他の封印がある場所でも同じようだ。まぁ新しい場所に行ったらいつもそうなんだけど。

 そして封印を維持していた「見慣れない種族」だが、どうやら大半はあまりに長い隔離状態というか、特定の環境に特化する形の進化をした既存種族だったらしい。まぁ同じ種族とは思えないほど変異してるって事なんだけど。

 ……大半は、であって、この封じられた竜都にいた竜人族の人達と同じく、これはもしかしてもしかすると……、って感じの種族も、一部、いるみたいだけど。


「まさか、逃げる時のどさくさに紛れて、っていうのが、他にも起こっているとは思いませんでした……」


 何と言うか、召喚者プレイヤーが喚ばれた当時の状態になる下地はあったんだなぁ……って感じ、かな……。それを分かっているか、見て見ぬ振りした神が居る可能性も含めて、うわぁ……としか言えない。

 そういう種族がいる場所は、揃って当時の神に近かったり指導者の立場だったりする人が封じられている可能性が高いから、もうこれはこっちで補助して封印を解除して、中に居る人達に裁きをお任せするしかない、という結論になっている。

 もちろん封じられた竜都である此処もそれに倣うよ。だって、あの日記を残していた、北国の大陸にあった竜都を治めていたアキュアマーリさん。現代竜族の竜都に残っていた資料によれば、この、最初の大陸にある竜都に移動してたみたいだからね。


「……ここまでの生活で、子々孫々に渡っての十分な罰が与えられている、と、判断してもらう事を祈るしかありませんね」


 動機が何だったのかを知る事は既にできないが、その後の生活がどんなものだったかは痕跡から推測できる。経った時間も長いとはいえ、自分達が何者なのか分からなくなる程目の前の事に必死になり続ける、というのは、私には想像も出来ない。

 しかも。本人だけならともかく、孫世代以降は何も知らないだろう。何も知らない状態で、その血筋に生まれたからというだけで、ここまでの生活を続けてきたんだ。恐らく、何世代も。

 異世界の人間の感覚からすれば、十分にオーバーキルなんだよなぁ……。


「まぁその為に、今こうやって頑張らなければいけない訳ですが。……というか、オーバーキルが過ぎて苦労してる訳ですが」


 で、私は何をやってるかって? とりあえず分かってる範囲の谷底の地図をカバーさん経由で検証班に渡して、その後は戦闘訓練も兼ねて不思議な土地の中に湧いて出る野良ダンジョンの攻略だよ。

 谷底と同じ、名前に必ず「竜」が入っている難易度の高いダンジョンだから、一緒に来た召喚者プレイヤーの人達が嬉々として攻略にかかってるんだけどね。……どうやらいつかの超巨大な亜空間で、“細き目の神々”の領域に挑み損ねた人達らしい。なるほど、竜系素材が目当てか。


「いえその、それが……一部、非常に特殊なエンカウントを期待している方が、一定数居るようでして」

「はい?」

「……ここまで情報が揃ったうえで少し考えれば、まぁ、ちぃ姫さんとエルルさんがどこで出会ったか、というのは、すぐ分かりますので……」

「…………あー」


 どうやら一部、私がエルルを引っ張り出したように、封じられた竜都から古代竜族の人を、先行して引っ張り出せないか、と期待して挑戦している人がいるらしい。なるほど……なるほど。

 しかしカバーさんが教えてくれたって事は、それなりに期待している人数は多いらしい。……なる、ほど? まぁ、エルルの強さを知っていれば、あわよくばそのまま仲間になってくれるんならって、期待する……のか?


「まぁ、現代竜族の人達が、ちゃんとご飯を食べて順番に加護と祝福を賜るようになったら、見る間に強くなっていくのを間近で見ていたでしょうしね……」


 なお順番になのは、神殿で神官の人から1人1人儀式をしないといけないからだ。その辺を一気に出来るようにするのがあの神器の効果なんだろう。もしくは、竜都で生まれたら自動的に祝福と加護を与えるとか。竜皇様の統治下で生まれたら、かも知れない。

 まぁともかく、特級戦力わたしという形で竜族の強さを知った召喚者プレイヤーだが、それでもまだどこかに、「召喚者プレイヤーだから特別」という意識があったのかもしれない。それが現代竜族の人達と直接会い、その強くなっていく様子を見て、仲間になってくれるのなら、と、どんな可能性にも飛びついているのだろう。

 ……冷静に考えれば完全にイレギュラーなケースなので、運営としてはこれ以上のフラグの乱れは避けるべきであり、既に修正されていると思うんだが、それは言うまい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る