第881話 26枚目:隙間祭り

 さてそんな訳でリアル9月末。平日なので私は夜のログイン分しか参加できないのだが、最初の号令を掛ければ後は他の人が動いてくれることになっているので問題ない。

 竜族は細かい事が不得手だが、どうやら建築は細かい事に入らないらしく、私がおねだりしたボックス様の神殿はさくっと建設された。規模としてはそこまで大きくないとはいえ、仕事が早いな。

 どうやらソフィーナさんから『可愛いは正義』に連絡が行き、そこから生産系クランの同盟にまで話が広がったらしく、何故か炊き出しの予定が竜系モンスターの肉を使ったお祭りに変わったが、まぁたくさん料理が供給されるのは良い事だ。


「今回行われる祭りの主催である、召喚者にして皇女のルミルです。それでは既に準備は万端なようなので、手短に。――これより、第1回、料理コンテストを、開始します!」


 何か思ったより大規模になったな? と内心首を傾げながらだが、開会を宣言する。ん? 第1回って事はこれこの後も続くの?

 なおコンテストと言っているが、ルールとしては売上勝負だ。屋台1つに付き料理の種類を3つまでに制限して出店してもらい、最終的に売れた数を競うという形になる。

 とはいえ基本は竜族の人達への炊き出しなので、お金は取らない。食べる側、つまり審査員として参加する側はまず入り口で回数券の様なものを受け取り、その券と引き換えで料理を貰うのだ。そして、その券の枚数が最も多い料理が優勝、という事だな。


「まぁ料理の素材は基本的にこちらの持ち出しですし、普段の料理よりずっと安いとはいえ、最終集計時に券は換金しますからね。経験値とお金がもらえるなら参加しますか」


 つまり、使い道がなくて余りまくっていた現金資産を放出するって事だな。規模と、売り上げという形の賞金こそ大きい(というか青天井)だが、一応はプレイヤーイベントだ。

 たぶん10月に入ったらすぐイベントのお知らせが届くだろうし、その準備も考えて、期間は水曜日の夜から土曜日の昼までを予定している。内部時間で10日程だが、流石にそれだけあればとりあえず一旦竜族全体に行きわたるだろう。たぶん。

 ちなみに、このお祭りに私は参戦しない。そりゃそうだ。皇女わたしが立ち寄った店に皆並んで勝負にならなくなる。


「さて、それではこちらも開始するとしましょう。料理コンテスト・裏――食材調達と言う名の、試練を舞台とした、狩猟祭を」


 私が参加するのは、こっちだ。もちろん私と一緒に行動するのはエルルとサーニャを始めとしたうちの子達である。なお他の召喚者プレイヤーも参加しているが、今回は助っ人あるいは追加戦力として、竜族の人達を誘うのは自由となっている。というか、予備戦力として待機していた人から希望者を集めて貰って、声掛け待ち状態になって貰った。

 行き先? 当然作られたばかりのボックス様の神殿だよ。「第一候補」に頼んで祭壇を作って貰ったから、ボックス様への信仰値がある召喚者プレイヤーなら問題なく試練に挑めるぞ。もちろん捧げる箱庭は各自で作らなければならないが、その素材はこちら持ちだ。当然全部“細き目の神々”の領域で手に入った素材で揃えてある。

 参加者は貰った素材で試練に挑めるし、こちらは山積みになって使いどころに困っていた素材がはける。良い事しかないな!


「お嬢にはあの神殿があるのに、わざわざこっちに挑むのか?」

「でないとお祭りになりませんからね。それに、条件が同じ程度で勝てると思われても困ります。私が特級戦力であり続ける理由、ここでもう一度明示しておきましょう」

「……なるほど」


 アラーネアさんが改良に改良を重ねて、間違いない最新装備となっている探検服と良い勝負な性能の軍服(レプリカ)を身に纏い、インベントリにはせっせと作り溜めた竜系モンスターで溢れた箱庭をしっかりストックしている。準備は万端だ。

 エルルはちょっと疑問だったようだが、私がそう返すと、一部召喚者プレイヤーから感じる挑戦的な視線に気づいたらしい。ちなみにニーアさんは諸々の調節役兼審査員として料理コンテストに参加している。

 ソフィーナさんとルフィルとルフェルは料理コンテストに屋台側として参加しているが、それ以外のうちの子は揃っている。ソフィーネさんとフライリーさんもいるので、ほぼフルメンバーだな。マリーは流石にレベルが足りない。


「狩猟祭の勝負基準は可食部分の重量です。大物を、数多く、可能な限り綺麗に仕留めますよ!」

「「「おー!」」」


 号令をかけて、並んだ列の順番に挑戦だ。久々に身内だけの戦闘、はりきっていってみよう!

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