第875話 26枚目:昔語り

 まぁヘルトルートさんの戦闘力はちょっと置いておいて、まずは話を聞こう。エルルについて聞くのはその後だ。当時を知る人って事で、封じられた竜都についての話もするんだし。

 背後の気配の違和感は気になるが、カバーさんも既にスタンバイ完了してるし、それが今回の本題だからな。それにこの話を聞いておかないと色々準備が出来ないし、たぶんだが必要フラグが立たない。

 なので、一体どんな桁が出てくるのかと、しっかり覚悟を決めて話を聞いたのだが――。


「……え」


 文字通り、過去を体感してきた人の話、というのは、貴重なものだ。思った以上にヘルトルートさんの語り方が上手かったというのもあって、引き込まれてそのまま一通りの話が終わるまで聞き入っていた。



 その話によれば、どうやらあの世界規模スタンピートが発生してすぐ竜族は対処に動いたが、流石に規模が規模だったので根本からの解決は不可能と判断、他の竜都とも連絡を取り合いつつ、とりあえずこの大陸においては竜都のある山を守る形で、東側に半円の防壁型の砦を築いたのだそうだ。

 その辺りで当時の竜皇の判断で、北国の大陸の竜都から撤収、最初の大陸とこの大陸に竜族を集め、徹底防衛する態勢に入ったらしい。そこで一気に人数が増えた事と、その内訳に竜族以外の種族も多数含まれていたことから、防壁型の砦を半円から3分の2ほどまで伸ばし、海岸まで横断させて、この大陸の一部も一緒に守る形にしたようだ。

 いつかは終わりが来る、という前提で防衛戦をしていた竜族だが、その内北国の大陸との間に、周辺の重力を異常に増幅させる巨大な氷が発生して大陸間の移動が出来なくなり、最初の大陸との連絡も途絶して、他の大陸の状態が全く分からなくなった、との事だった。



 実際の所は、恐らく大元となっている「モンスターの『王』」をどうにかしない限り無限湧きだから、耐久していても終わりは来ない。だがそれに竜族が気づいたのは結構な時間が経った後で、その頃には諸々の事情で押し返せるだけの力が残っていなかったらしい。

 そして他の大陸でも同じような状態になっていた場合、最悪生き残っているのはこの大陸だけなのでは、という推測もあって、種族として息切れしないことを重視しながら、終わりの見えない耐久タイプの防衛戦争をしのいできた、と言う感じで、現在に続くようだ。

 ……で。問題は、その始まりがどのくらい前か……って、話なんだが。


「1万年前……!?」

「なんと……」


 ……だ、そうだ。

 いやちょっと待て、確かに竜は万年生きる事が普通とかティフォン様は云ってたけどな!? だからと言って本気も本気で1万年耐久戦続けてたとか竜族マジか!? いくら準備と種族特性があったってそりゃ無理が来るわ! よく援軍が来る当てもなく終わりも見えないのに耐えられたな!? 現在進行形だけど!!

 流石に付き人ですって空気で私の後ろに同席してたカバーさんも驚きの声が漏れてるよ! まぁ納得したけどね!? 1万年も経ってれば信仰どころか文化すら1欠片も残らないから!! むしろよく滅ばなかったな!?


「わはは。まぁ、かくいう私も、己の年を正確に知ったのは、『万年竜』という称号を得たからなのですが」


 なお『万年竜』という称号自体は既に知られていて、ヘルトルートさんも自分の年齢が1万歳を越えた事に気付いたようだ。……そうでもなければ具体的な年が分からないって、竜族は本当に妙な所が雑だな。笑うとこじゃないだろ。

 ……ここで、恐る恐る背後の気配を確認。ニーアさんは特に反応なし。フェルツェーニク君はお爺ちゃんの昔語りを聞けて嬉しそう。で、扉の外で待ってる筈のエルルとサーニャは……。

 ……あれ、気配が1人分しかないぞ。どっちがいないんだこれ。まぁどっちにしてもかなり動揺してるな。そりゃそうだろうけど。……あ、ヘルトルートさんに自己紹介してもらった時の気配の違和感はこれか。て事は、いないのはエルルかな。


「……流石に、そこまでの長きに渡って戦いが続いているとは思っていませんでした。ですが、まずは貴重なお話を聞かせて頂いた事、感謝いたします」

「とんでもない。この老体の話が役に立ったのならば何よりです」


 とりあえずお礼を言って、とても軽く頭を下げる。下げ過ぎたらダメなんだってさ。皇族の威厳ってやつの関係で。

 ……いや、しかし、その、封印された竜都の解放は、封印されていた時間が長い程難易度が上がるって、エキドナ様に云われてるんだけど……まさかの1万年とは……。

 えぇー……どうしよう、これ……。

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