第871話 26枚目:竜皇謁見

 で、そんな不安要素を抱えながらも、謁見に臨んだ訳だが……。


『すげー! めっっっちゃ見られてんじゃん「第三候補」!』

『予想通り過ぎるんですよね。穴が開きそうです』

『あら~。「第三候補」に穴が開くって事は~、防御貫通属性かしら~』


 クランメンバー専用広域チャットで頭脳班の人達とやりとりしつつ「第一候補」が喋っている後ろで、ものすごく視線を感じながらそんな会話をしていたよ。ははは、大神の加護特典って便利だなぁ。

 もちろんこの会話はログインしているクランメンバーの召喚者プレイヤーであれば誰でも聞けるので、フライリーさんやソフィーさん達がこちらを気にしていれば聞く事が出来る。

 まぁそれはともかく、だ。問題は現在、「第一候補」の口上を聞いているのかかなり怪しいレベルで私の方に視線を向けている、金髪金眼のナイスミドルさんでな?


『そりゃ普通は信じないでしょうけども、ちょっとは信じて欲しかったですねぇ……』

『それな!! どーすんだこれ、なぁちゃんと話聞いてるよな?』

『聞いてはいると思うわよ~? それはそれ、これはこれっていうのが出来る人みたいだし~』


 それに、竜皇って事はステータスも相応に高い筈だ。召喚者プレイヤーと違って、ステータスの高い住民は頭の回転や使い方という意味でも賢い。私はいくらステータスが上がろうと複数の人の話を同時には聞けないが、住民ならそういう事も出来る筈だ。

 なので、まぁ、視線を痛い程こちらに向けていても、「第一候補」の口上が終わるなりすっと話の続きに戻れているので、聞いてはいたのだろうし、その内容についてちゃんと考えてもいたのだろう。

 流石に話をしている時に相手を見ないと言うのはフリアドでも失礼に当たるらしく、こちらも事前に聞いていた定型文通りの返答が述べられている間は平和だった。しかし視線が痛かったな。無意識に魔力かなんか乗ってたんじゃないのか。


『これで終われば平和なんだけどなー。後日文章で返答とかにならねーかなー!』

『私としてもそれが一番平和ですが、そうもいかないでしょうね……私だけ後日個別で謁見とかよりマシですけど』

『その可能性もあるけど~、たぶんこの謁見中に聞かれると思うわ~』


 だよねぇ。同じくクランメンバー専用広域チャットで真面目な相談してるカバーさん達の予想もそっち方向だし。

 見た目には静かに顔を伏せて控えながら、クランメンバー以外には聞こえない方法でそんな会話をしていると、再び竜皇の視線が私に向けられた。視線が痛いからすぐに分かる。分かりたくなかったけど。

 面を上げよ、と、言われてしまえば顔を上げるしかない。出来るだけ平静な無表情を意識しつつすっと顔を上げると、ばっちり視線が合った。まぁそりゃこれだけ視線を向けられてんだから目ぐらい合うか。


「…………成程。我ら皇に連なる血の子がいると聞いた時は、有り得ぬ事だと思ったが……」


 かと思えばそう呟き、ふーっとかなり深い息を吐いて一度目を閉じた竜皇様。まぁ言っちゃ悪いが、野良皇女わたしの存在を信じてなかったのは予想通りだな。紛れもない事実なんだけど。

 しかしまぁエルルやサーニャ、ショーナさんの反応から、竜族の皇女っていうのは文字通り「見れば分かる」事だ。たぶん魔力とか種族オーラ的な何かが違うのだろう。あと、竜族、というか、「本物」を知ってるかどうか。

 ちなみに、種族によってキャラメイクとは違う色になる、というのはフリアドでは常識である。……だから、銀髪だけとか、銀眼だけの召喚者プレイヤーはいなくもないが、銀髪銀眼っていうのは、とりあえず今の所私だけらしい。閑話休題。


「……事実として有り得ているのであれば、是非もない。名は?」

「ルミルと申します」

「そうか。名付けの儀も違うのであったな。では、今この時より召喚者ルミルを正式に我らが血に連なる子だと認め、皇女としての全権限を振るう事を許可する。詳しくはこの後、護衛を兼ねた教育係を派遣するので、その者に聞くように」

「ありがとうございます」


 広域チャットで言われた通りにお礼を言ってすっと頭を下げる。何かさらっと権力が転がり込んできたぞ。いやまぁ今まで無かった方がおかしいんだろうけどさ。主にエルル達的には。

 しかし護衛を兼ねた教育係かー……エルル達とぶつからないといいんだけどなぁ……。

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