第850話 25枚目:目的地突入

 いつまでも部屋の前で様子見をしている訳にも行かないし、そもそも様子見の間も部屋の中から流れ出てくる冷気に晒されている訳だ。つまりスタミナの方の体力を削られてるって事だな。大変よろしくない。

 ので、入り口から見る分には何も分からないし変化しない、という事を確認して、エルルと一緒に部屋へ入ってみる。扉が結構でかかったが、観音開きなのですぐにその幅ぐらいは行き過ぎて……とりあえず、すぐ閉まる訳じゃ無いんだな。

 そのままさらに進んで、入り口と部屋の中心の中間あたりに来たタイミングで、パキン、という音が聞こえた。当然即座に構える。場所は……部屋の中央か?


「と言うより、上――?」

「お嬢、下がれ!」


 半球型になっている天井を見上げかけて、エルルからの警告にすぐ部屋の中央から距離を取る。ちらっと背後を見て扉が開いたままな事を確認し、部屋の入口ぎりぎりまで後退した。

 エルルはその数歩先で構えている。その向こうに見える部屋の中央に、ゴン、と、天井から降って来たらしい氷の塊が落ちてきた。床に落ちた状態でパキパキと音を鳴らし、今まで以上の冷気を撒き散らしながら形を変えていく。

 やがて青色の混ざったその氷は、エルルより少し小さいぐらいの所で変化を止めた。……完全に予想外の形で。


「……メイドさん?」


 そう。ここまで分かりやすいボス部屋で、部屋の中にある程度入ってから出現した何かは、白と青の濃淡で色づけられたメイドさんだった。しかもスカートは膝丈で各所にレースで飾りが付けられた、若干コスプレっぽい姿だ。

 こちらが混乱している間に、丁寧な所作で一礼するメイドさん。氷で出来ているからか、肩までのまっすぐな髪が動きに合わせて流れる事も無く、とても人形感の強い姿だ。が、つい入口まで下がったまま、こちらも軽く頭を下げた。


「お嬢……」

「いえ、つい」


 気配で私の動きを察したか、警戒したままのエルルから何やってんだみたいな声が飛んできたが、条件反射ってあるじゃない?

 とは思ったものの、100%氷で出来ているからか、敵意を感じないんだよな。作り物感が強いし分類としてはゴーレムになるだろうから、敵意って言う物自体が無い可能性もあるんだけど。

 そんな感じでこちらが先制攻撃を躊躇っている間に、姿勢を戻したメイドさんは、というと。


『――オじょうさまノぎゃらりーヘオこシいただキ、まことニアリガトウゴザイマス』


 ギギギ、と、そこだけは妙に不自然な動きで、そんな言葉を発してみせた。

 は? と思わず反応を忘れて動きを止めていると、そのまま不自然な発声による言葉は続いた。しかし何語だこれ。エルルと私だとほとんどの言語スキルは持っているから、検証にならない。

 そして作り物感が強い氷のメイドさんによって続いた説明は、半ば予想通り、正面の一番奥にある巨大な牛、の姿を取る誰かについてだった。

 村の位置や周囲の状況の説明の後に続いたその説明によれば、どうやら彼はモンスターから逃げる仲間を守るために、殿として1人モンスターの群れと相対したのだそうだ。それはいい、んだが……。


『ソノゆうしヲオじょうさまハイタクオきニいリニナリ、ソノすがたヲコウシテ、とうじノママとどメおカレマシタ。いじょうデコノさくひんニツイテノかいせつヲしゅうりょういたシマス。ゴせいちょうノほど、アリガトウゴザイマシタ』


 …………どこからどうツッコめばいいものか。

 とりあえず再び氷で出来たメイドさんが頭を下げたので、こちらも軽く頭を下げておく。たぶん先制攻撃をしない上で最初の一礼に反応したからこの解説(?)フラグが立ったんだろうし。

 対応に迷っている間にメイドさんは姿勢を戻し……見ている間に皹だらけになって、ガシャン、という音と共に、その場に崩れ落ちた。えぇ……。どうしろと……?


[アイテム:何らかの残骸

説明:何かの形を模っていた残骸

   完全に壊れてしまって本来の能力はおろか、形すらも分からない

   人の手による修復は不可能]


 それ以上の動きが無かったのでエルルの隣まで戻って、そこから【鑑定☆☆】をメイドさんだった氷の塊に対して使ってみると、そんな表示が出た。えぇ……?(混乱)


「……ひとまず今の「説明」は大神の加護で記録しましたし、とりあえず、あの牛の人と……この残骸を持って帰れるか確認してみますか」

「そうだな。……しかし、何だったんだ?」


 控えめに言って訳が分からないよ。助けて、検証班。

 ……あぁ後、回収出来たらこの部屋自体の破壊だな。床下に関節部っぽいものがあるから、そこまで壊せるかどうかは確認しないと。

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