第849話 25枚目:目的地到着
一応エルルの様子を見ながら進んでみたが、どうやら影響自体はあるものの、エルルも大概ステータスが高い。だから、影響があるかどうかに注意していれば分かるが、とりあえず普通の動きに支障はない、との事だった。
何かと自分の不調を隠すというか飲み込む癖のあるエルルだが、流石にここで隠すとどうしようもなくなるっていう類の不調はちゃんと言ってくれるので、たぶん大丈夫という言葉に嘘は無いのだろう。
まぁ今この場でエルルの調子が悪くなったら、私が運んで帰ることになるしな。なお現在の私は、銀髪銀眼のロリっ子が白くてふわふわモコモコした防寒着に身を包んでいる、という姿だ。
「とは言え、身長差がありますから、手足の先ぐらいはこすってしまいますよね……」
「お嬢? 何想像してんだ?」
自分より大きいものを運ぶのは難しいよねって話だよ。(目逸らし)
とか言っている間に、目的地に辿り着いたようだ。……ここまで曇っている白色の濃淡の差はあれど、氷は氷だった。それがここにきて、突然青く染まって全面に装飾のある両開きの扉と来れば、確かに重要そうだ。
そしてその扉の前に立つと、しっかり防寒対策をしている私でも寒さを感じた。なるほど、これは撤退して正解だな。ここまでの道のりも相当に大変だったとしたら、更に酷い冷気なんて突入不可能だ。
「まぁ私は多少寒い程度で、動きに支障は無い訳ですけど。エルルはどうですか?」
「とりあえず問題ないな」
エルルがいるからとりあえず前衛はお願いして、私は後方支援兼魔法火力だな。軽く自己バフだけをかけて、エルルへの
「さて何かのギミックか、あるいは
「本来はお嬢がやる事じゃ無いんだからな?」
「人手も実力者も足りませんからねぇ」
確認代わりに念を押してくるエルルには正直に返し、積層型装備は無しだが軽く【徒手空拳】における自然体の構えを取る。戦闘準備完了、の状態にエルルは頭が痛そうに眉間にしわを寄せて、それでも警戒しつつ、扉を開いた。
滑らかに内側へと開いた扉からは、扉越しに感じていた冷気が流れ出してきた。……扉のこっちに出てきたらキラキラしてるんだけど、これもしかしてダイヤモンドダストか? 空気中の水分まで凍るって奴。
って事は、普通の人間だと生存自体が危ないのでは……? と思ったが流石ファンタジー世界におけるファンタジー種族。その中でも特にしぶとい種族の一番死に辛い血脈であるこの
「思った以上に気温が低いですね。耐性が低ければ、呼吸をするだけで肺が凍るのでは?」
「マジか。……なら余計、俺らで何とかしないといけない訳だな」
「そういう事ですね」
そして見えた部屋は、どうやら円柱型になっているようだ。ズン……、と振動が伝わって来たので下を見てみると、どうやら床の下にレイドボスの足の根元、その関節に相当する何かがあるらしい。
部屋自体は広く、恐らく標準の5パーティ、30人ぐらいなら余裕で入るだろう。壁際にも、正面にある1つを除いて何もない。天井も半球型で高いし、分かりやすくボス部屋だな。
で。これだけ分かりやすくボス部屋の形をしていて、扉の正面、一番奥に当たる壁際には、明らかにそれがメインだと分かる何かがあるんだが。
「…………まぁ、妥当ってもんでしょうけど」
それは、一見すると「必凍状態」になった住民や
耳と目の間にある外に向いたフックのような形の角は短いが、太さがあって丈夫そうだ。恐らく頭を突き上げれば、あの角で肉を抉られる。どんな相手でも控えめに言って致命傷だろう。凶悪なんだよな。
だが、おかしい。違和感がある。確かに壁際にあって見え辛いのは確かだが、恐らくあれは、凍っている「訳ではない」。
「――影が無い」
「ん?」
「正面の……恐らく【獣化】した獣人族の方です。凍っているだけなら、外から光だけは通って明るいこの場所で、影が無いのはおかしいです」
「!」
自分の足元を見れば、ちゃんと影は付いてきている。全体が明るいから影が出来ない、という訳でもない。フリアド内時間は日中なので、太陽の光の方が強い。だから影が出来るなら足元で、私もエルルも足元に影がある。
だからあの、突進する前段階のように足を踏ん張り、頭を低く下げている大きな牛がおかしいのだ。だが幻と言う訳でも無いだろう。わざわざこんな分かりやすいボス部屋に、壁際とは言えぽつんと存在しているのだから。
息を1つ。恐らく、あの巨大な牛……の姿をしている誰かが救出対象なのだろう。「何らかの塊」になっていた人達と同じく、ポリアフ様達の神殿に運んでワイアウ様にお任せすれば、戻れる筈だ。
「ともあれ。あの人を助けて、足元の仕掛けを壊して。まず1本、足を機能不全にしますよ、エルル」
「了解、お嬢」
さぁて、一体何が出てくるのやら。
――何が出てきても、潰すけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます