第847話 25枚目:情報伝達
さて特に進捗が無く、レイドボスの内部が物凄く広いものの、一応空間が歪んだりはしていないらしいっていうのが確定した時点で、8月は残り1週間を切っていた。いや、大丈夫かこれ。大丈夫じゃないだろ。
幸いと言うべきか、私が居るタイミングで一気に加速をかけたかいはあったらしく、足元にある飛石状の氷の塊はその数を大分減らしている。まぁ4つ足がある部分をどうするかはまだ考え中なんだけど。
とりあえず出来る範囲で、出来るだけ頑張ってレイドボス「沈め捕える無温の氷晶」の攻略方法を探す、もしくはその手伝いをする、という方針で、特級戦力として動いていた訳だ。
「おーっほっほっほっほ!
「………………何やってんですか、マリー」
「反応が鈍くありませんこと?」
「今私が何やってると思ってるんです」
「巨大な氷の狼と、正面から殴り合っているように見えますわね!」
「はいその通り。余波まで防ごうとすると結構きついんで下がっててください」
正面から殴り合うってどういう事かって? ……どうやら流石に私が邪魔だと認識してくれたらしく、連続犬ゲフン狼パンチをお見舞いされてるんだよ。こっちに構っている間は足元がお留守になるから頑張ってるんだけど、主に装備の付け替えが結構ギリなんだよね。タイミング的に。
今私は自分で空気の足場を設置して、その上で狼パンチを正面から迎撃している。エルルは最初、私を1人で置いていく事を渋っていたけど、このボーナスチャンスに少しでも氷の塊を減らしてくれれば無茶する時間が減るって言ったら動いてくれた。
で、そこへマリーの声が後ろから聞こえてきたんだが、うん、ごめん。今振り返って呑気に喋ってる余裕は無いんだよなこれが!
「あら、思ったより追い詰められているんですの?」
「現状に貴女が居る場合はそれで間違っていませんね」
どうやら自分で箒に乗って飛んで来たらしいマリーは、猫姿の時と同じ真っ白な髪をツインテールにした上で縦ロールにしていた。翠の目も強気を表してか丸いのに目の端がつり上がってるし、何より真っ赤なドレスにブーツなんだけどそれ寒くないの?
色んな意味で全く期待を裏切らない姿だったが、私はそう返事をしながら狼パンチを迎撃している。ゴッッ!!! と衝撃波を伴う重量音に混じって、積層式の手甲が砕ける甲高い音が響いた。
間髪を入れず反対側の前足が迫っているので、空気の足場を踏み込んでタイミングを合わせ、回し蹴りを合わせて相殺する。ドガッッッ!!! と凄まじい音が響き、走った衝撃波で空気の足場に皹が入った。
「と言うかマリー、バトラーさんはどうしたんですか。置いてきたとかじゃないでしょうね」
「貴女まで皆さんと同じ事を言うんですのね。
「念の為の確認って奴ですよ、えぇ、分かってはいますけど。バトラーさんを置いてきただけではなく、うちの子も全員振り払ってここまで来たんでしょう?」
「大正解ですわ!」
足元に魔力を流し込んで空気の足場を修復し、再度狼パンチを迎撃。だろうと思ったよ! マリーのいる場所に衝撃波を通さないように食い気味で迎撃してるから、余計に忙しいんだけどなー!?
「と、冗談はここまでにして……」
「今の会話のどこに冗談があったんです?」
「
「それが会話の全てだったような気がしますが。後私は下がってくださいと言っているのに無視されているんですが」
「やっぱり結構追い詰められておりますわね」
煽っているように聞こえなくもないが、これ、素なんだよなぁ……。つまり、怒っても理解してくれない。しかし本当に何の用で来たんだ、マリー。保護者枠を全員振り切ってドがつく最前線である私の所に来るとか。行動力はともかく、流石にそこまで常識を無視する子じゃ無い筈なんだけど。
「まず、結構重要なご連絡ですわ。貴女、誰とも連絡が取れない状態になっているようですけれど、自覚はおありですこと?」
「いや流石にこの迎撃しながらでは厳しいですね、誰からもウィスパーすら来ないなとは思っていましたが」
と、思ったら、本当に重要な連絡だった。狼パンチを相殺しながら意識をメニューに向けてみると……うわ、ほんとだ。誰にもウィスパーが繋がらない。マジか。
「ダメですね。いつの間に」
「
「あぁなるほど、耐性が高い私に動員が掛かった訳ですね」
「足元の調査を一旦緩めて注意を引きますので、一度撤退してくださいまし」
「分かりました」
それに加えて、そういう発見もあったらしい。何でマリーなのかっていうのはともかく、メッセンジャーとしては本当に必要だったみたいだな。それを聞いて改めて周囲を見てみると、なるほど、確かに動きが変わっている。
しかし連絡手段の途絶、私だけ、となると……ターゲットにされている間は阻害されるって感じの能力か? 厄介な。
「で、なんでマリーだったんです?」
「他の方々が忙しい中、浮いた駒だったから、と言われましたわ!」
「マリー、それは褒めてません」
なお、一番気になった点についてはそういう事らしかった。……さては【人化】が完璧に出来るようになって浮かれているな?
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