第836話 25枚目:変化と準備

 このまま順調にタスクをこなしていけるかと思われた状況が変わったのは、私が進学予定の大学で行われているオープンキャンパスに参加して、ぐるっと建物を見て回って説明を聞き、何事もなく帰って来た日、つまり、10日だ。

 一部気合の入った社会人召喚者プレイヤーは7日から16日までが連休になるように休みを調節しているらしいので、一気に加速が掛かったようだ。実際、司令部が推奨しているモンスターの討伐と除雪のタスクは進捗が加速していた。

 だからこのままなら、少なくとも地上からモンスターと積雪を一掃して、野良ダンジョンの攻略や神様への捧げもの作製に集中できるかな、と思っていたのだが……。


「そうですね。確かにお知らせを確認しても、「イベントの途中でタスクが追加されない」とは書いてませんからね……」


 何がトリガーだったのかは分からないが、ともかく。夏休み中にも関わらずいつもの平日と同じく外に出て、早めに帰って来たものの宿題にトドメを刺していた私は、今日の日中はログインしていない。

 だから夜のログインで初めて状況を知った訳で、ちょっと頭を抱えるぐらいは許してほしいんだ。いや、急いで参戦するべきなのは分かるんだけど。

 で、結局何が起こったかって?


「タスク「巨大モンスターの撃破」が追加、それに応じて、ウェーブの最後に出てきた氷の巨人や、推定弱体化した「凍て喰らう無尽の雪像」の襲来とか、聞いてないんですが……!?」


 っていう、事だ。しかもどうやら野良ダンジョンが発生するタイミングと判定の一部に加えられたらしく、北国の大陸のほぼ全土で発生が確認されている。

 今の所何とか周辺被害を押さえて撃破出来ているようだが、タスクの達成値を表すバーが進んでは戻っているので、出現数は増え続けているようだ。完全に綱引きになってるんだよな。

 しかしこれも相手のリソースを削る事になっているので、それなりに底はある筈なんだが……。


「……最終、原因を引きずり出すには余裕を削り切る必要がある。それはこちらでも変わらないようですね。地道に除雪も進んでいるようですし、頑張って削りますか」


 まぁともかく。クランメンバー専用掲示板にログインを書き込んで、参戦するとしよう。特に氷の巨人は、一撃が大きい上にちゃんと狙って攻撃を入れないと倒せないからね。




「だからお嬢! 何で最前線に来る!?」

「いくらなんでも火力が足りないでしょう。1体でも逃せば周辺被害が大変な事になりますし」

「それでもだ!!」


 と、やはりちょいちょいエルルに怒られながら(サーニャは別行動なので)大物の撃破に回る事、リアル3日ほど。どうやら雪雲が一定以上ある場所にしか大物は発生しないようで、除雪が追い付いてきたらだんだんと出現頻度は下がっていった。

 やっぱり数の力って言うのは大きいよね。流石に秒殺するという訳にはいかない以上、特級戦力とは言え手が足りない。特に劣化版の白熊は、巨大化させる手間は無いが、雪雲を生み出す能力はそのままだったからな。少しでも放置すれば、周辺のモンスターの数が大変な事になる。

 一方で、苦戦していた動物の捕獲も徐々に進みだしたようだ。雪が無くなってモンスターの出現頻度が落ちたら、人魚族や渡鯨族の人達が動けるようになるからね。もちろん小人族の人達も含めて、召喚者プレイヤーは護衛に集中できているとの事。


「で、住民の人達が動けるようになれば、神様への捧げものも捗る訳ですよね。防衛力の強化は冷人族の人達が手伝ってくれていますし、防衛陣地も、もうあの場に残してしまう方向で、がっつりと作る様子ですし」


 その後何に使うんだって? うーん、恩寵洞窟の入り口が防衛陣地の範囲に含まれてるし、東側には元々あんまり目立ったものは無いって事で、緊急避難先とかを兼ねて、複数の種族で行うお祭りとかの会場に使うんじゃないかな?

 あとは、クランメンバー専用掲示板に載っていた「第一候補」の書き込みによれば、ポリアフ様達“雪衣の神々”と、クラーケン一族を窓口とした海の神の準備も順調に進んでいるらしい。うん。やっぱり準備が必要だったみたいだよ。


「タスクの進捗に応じて、あの謎の結晶が小さくなっているのは確定していますから……恐らく、推定女神が溶岩に触れれば、目覚めるんでしょうし」


 どうやらフライリーさんに指摘された懸念も、どうにか対処できるようになりつつあるらしい。雪像を作って捧げれば良い捧げものになる、という法則も生きているので、私もせっせとお供えしてたけど。

 ……うん。その後始末をしなきゃいけない可能性もあるって事で、イベントは早回しするに限るな。

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