第832話 24枚目:イベントのお知らせ

 幸いと言うか何と言うか、今年のメンテナンスは7月末の丸2日で済むようだ。イベントが終わった数日後に届いた次のイベントのお知らせにくっついてきたメンテナンスの予定によれば、だが。……緊急メンテナンスでは無いから、まぁ、大幅に延長される可能性は低いだろう。たぶん。

 で、7月が終わる1週間前にイベントのお知らせが届いたって事は、8月イベントは丸1ヶ月かかる、長期パターンのイベントだって事だ。知ってたけど。何せ2周年の節目だからね。

 その辺の流れは、去年を知っている召喚者プレイヤーはもちろん、『アナンシの壺』のまとめページにも載っているから、第三陣以降の召喚者プレイヤーも知っている筈だ。


「いつの間にか先輩の頭の上が激戦区になってるとか初耳っすよ!?」

「なんか皆寄って来るんですよね」

『膝の上はわたくしの専用席でしてよ』

「その上ライバルが増えてるっす!!」


 果たして【人化】する気があるのだろうか、と思う程に心から猫ライフを満喫している様子のマリーはともかく、霊獣や属性精と押しくらまんじゅうをした末に、どうにかフライリーさんは私の頭の上を勝ち取ったようだ。そこ、そんなに居心地いいの? あとカバーさん、後で押しくらまんじゅうのスクショ下さい。

 もういっそ【人化】を解いた方が上に乗れる面積が広がっていいのだろうか、とも思ったが、それはともかく。メインストーリーの大きな節目でもある、8月イベントのお知らせを確認してみよう。

 イベント会場は既に分かっている通り、流氷山脈だ。と言ってもどうやら上陸してどうこうという訳ではなく、今度もまた防衛戦に近いものになるようだが。とりあえず、バックストーリーを確認してみよう。



 召喚者を介して謎の力の高まりを調査した神々は、それらの力が、大陸に起こった異常の原因が打ち込んだ、自身の気配を隠し、またその力を行使する為の中継地点となる、楔の様なものである事を突き止めた。

 調査に動いた召喚者の働きにより、その力は大陸から見事排除された。その結果を喜ぶ暇もなく、神々は即座に、楔が外された事で緩んだ異界の力の排除に取り掛かった。

 だが、長年支配され続けた大陸から異界の力を排除する事は、その源が健在である以上は非常に難しい。今回ばかりは、と、神々は手分けをして協力する事にして、召喚者に協力を求める託宣を下すのだった――。



 どうやらようやく仲直り(仮)したか、それとも邪神の信者による引っ掻き回しによってマジで余裕が無いのか、ここまでずっとあった競争要素が無いらしい。先月のイベントすら、モンスターの討伐数とかダンジョンの踏破率とかがランキングになってたからな。

 で、実際に何をするかと言うと、どうやらイベントページが設置され、そこにタスク形式でやるべき事が並ぶんだそうだ。例えばモンスターを倒すとか除雪するとか、神様へ捧げものをするとかだな。

 その進捗、というか、達成値は全召喚者プレイヤーとその関係者で共有。ただしただのやって終わりというタスクではなく、元凶との綱引きになるらしいんだ、これ。


『……つまり、どういう事ですの?』

「例えばモンスターの討伐であれば、討伐数が増えればこちらが有利になり、逆に少なければあちらが有利になる、というのは分かりますか?」

『それはそうですわね』

「全ての項目において、そういう綱引きの状態になる、という事です。まんべんなく達成値を上げていれば押し切れず、かといってどこかに集中すると他が押し込まれるという……一言で言えば、総力戦ですね」

『なるほど、理解致しましたわ。つまり、全ての項目で勝てば宜しいのでしょう?』

「まぁそうなんですけど、相手のリソースがどれだけあるかが分かりませんからね……」

『それ以上の手数と物量で押し潰せば良いのですわ』

「こちら側にその余裕が無いと言うのが一番の問題なんですよ、マリー」


 相変わらず敵となったら徹底的にやるマリーらしい意見だが、まだ秩序属性の神々陣営はガタガタしている。そちらの防衛も手を抜く訳にはいかないからな。むしろ、信仰という意味では直接関与してくる可能性もある。


「……あの、先輩。いっこいいっすかね」


 細かい作戦はカバーさん達にお任せする事になるが、忙しくなりそうだ、と、お知らせを見ながら思っていると、髪の毛を軽く引っ張る感覚と共にフライリーさんの声が聞こえた。


「いいですよ。どうしました?」

「いやその、総力戦、になるんすよね? あっちの大陸を完全に取り戻して、たぶん「モンスターの『王』」と戦う感じになるやつっすよね?」

「まぁそうなるでしょうね。今までの情報からして、間違いなく居るでしょうし」


 何か心なしか引きつってる声で確認してくるフライリーさん。え、どした。何か問題のありそうなことが書いてあったっけ? どれだ。


「その……あれからちょっと、色々こう、神話とか調べてみたんすよ。ハワイ神話って言われてもさっぱりだったんで……」

『あら、勤勉は美徳でしてよ』

「ど、どもっす? えっとそんで、ポリアフ様とか今まで聞いた話とか、確かにそのまんまだったんで、先輩すげーってなったんすけど……」


 んん、と、若干言い辛そうにフライリーは言葉を濁したものの、いつもに比べればもにょりつつ、口に出す事には。


「……あの、大陸の南側に居るって言う、火山の女神様も……起こして、参戦してもらうんすかね……?」


 ……。

 …………。


 そういえば、そっちの問題もあったなぁ…………。

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