第828話 24枚目:難題解法

 どうやら鹿(トナカイ)の姿をした動物神にお供え物をすると、外部からのメールを受信する事が出来るようになるらしい。鳥の姿をした動物神とあわせて、メールならやり取りが出来る様だ。

 なので私は司令部で大人しくしつつ、【王権領域】を展開して、外部とのやりとりを助ける係に回っていた。他の召喚者プレイヤーは、最低限の予備戦力はまだ残ってるけど、大半がダンジョン【酷寒の凍檻・獄】に向かっている。あちらは罠もモンスターも満載の、純粋に難易度が高いダンジョンみたいだし。

 そして外部とのやりとりが出来ると言う事は、他のイベントダンジョンの情報も入って来るって事だ。同時並行で攻略は進んでいるからね。


「なるほど。隠し扉があってその奥に本当の最深部があるのはどこも同じだったんですね」


 どうやら「氷」「雪」「凍」の3つは完全に攻略が出来たらしく、通常の野良ダンジョンと同じく、内部に居る召喚者プレイヤーと関係者が脱出した後に崩れて消えたそうだ。

 まだ「獄」は最深部まで辿り着けていないが、「封」と「冷」は最深部に隠し扉があるという事が確認されている。「冷」はその奥に階層があって探索中だし。

 で、その隠し扉だが、「氷」と「雪」は仮の最深部を守っていたボスを倒すと鍵がドロップしたそうだ。一方で「冷」と「凍」は一見すると用途不明の謎アイテムがドロップし、それを隠し扉があった場所に使って、ミニゲームという名の問題を解く事で隠し扉が開いたらしい。


「……地雷除去と詰将棋ですか。参考にはなりそうにないですね」


 ちなみにどちらもミスすると、謎アイテムを取りに行くところからやり直しだったらしい。問題の内容は変わらなかったみたいだけど、変わってたら鬼だな。

 本当の最深部はそれまでのダンジョンの構造や仕組みに準じるらしく、例えば「氷」ならオーソドックスなダンジョンだったようだ。それはある意味安心だろうか。特別な追加対策が必要って訳じゃないから。

 ……が。問題は、未だ解ける様子の無い「封」のボス部屋(?)の問題なんだよな。


「たぶん今まで分かっている事から、正攻法じゃなくて何か頭を捻るか、発想の転換が必要なんでしょうけど……」


 ただ、それも難しいんだよな。魔法を待機させて一度に発動する、というのは、コンマ数秒のズレが出るらしく失敗。氷の柱を減らすとか動かすというのは、ダンジョンは破壊不能という仕様で不可能。

 どうやら柱を増やしても手順は減らせるらしいのだが、こちらも床が壊れないからか、柱と認識されなかったようだ。軽く手詰まりである。


「いえまぁ、私ならモンスター諸共、なんならダンジョンごと氷漬けに出来るでしょうけども」


 ステータスの暴力を舐めてはいけない。というか、今こうやって待機している間も【王権領域】に経験値が入っているし、「竜鉄塊」という腕輪の形をした素材にリソースを突っ込んでいるから、その回復力も鍛えられている。

 というか、スタミナを突っ込んでも消費した扱いになるらしく、私の場合は神の祝福ギフトのお陰でスタミナを消費して回復すると、ステータスが加算される。そりゃステータスの暴力が捗るよね。ってな話なのだ。

 そんな私が本気を出して、竜族の得意なぶっ放し系の魔法を叩き込んだら、いくらモンスターが身代わりになろうと防げるようなものじゃない。だから、クリア自体は出来ると思うんだよな。思いっきり力技だけど。


「氷の柱を全て凍らせる。手順自体は確定していても、手数制限が越えられない。氷の柱そのものの増減は出来ない。……部屋自体を調べても、特段ヒントの様なものは無し」


 うーん、と考えながら問題文が書かれた看板のスクリーンショットと、部屋の入口から撮影されたスクリーンショットを眺める。問題文は変わらない。氷の柱を、減らしてはいけないとか、増やしてはいけないとか、そうは書いていないから、ルール違反では無い筈だが……。


「この部屋にある氷の柱を全て凍らせよ……」


 一番上の文章と、下の条件の文章の間に空白があるから、その間に何か文章を彫りこむか、もしくは「全て」の部分を「1本」に書き換えればいいのだろうか。とか思ったが、ダンジョンは破壊不能。氷の柱を全て一度に凍らせようとした時にモンスターの攻撃が当たっていたようだが、傷1つつかなかったそうなので、これも出来ないのだろう。

 いくら「自由」を謳っていても、ちゃんと制限するべき時は制限しているんだよな、フリアド。今回は制限がきつすぎてどうすればいいのか分からなくなってるけど。

 相変わらずヒントの出し方下手過ぎなんだよなぁ……。と思いながら、【王権領域】を維持したまま2枚のスクリーンショットを眺める。少なくとも他の場所の結果を聞く限り、この謎は解ける前提だ。それも真っ当に、方法さえ分かれば誰でも。


「氷の柱……氷の柱? 「この部屋」にある氷の柱を「全て」凍らせよ?」


 2枚のスクリーンショットを眺める事しばらく。引っ掛かったのは、氷の柱の「本数」が明記されていない事だった。だから増やしたり減らしたりできるのかと思っていたが、それは「ダンジョンは破壊不能」という特性で封じられている。だから、明記しない事に対する意味は無いと言っていい。ミスリードでなければ。

 氷の柱を凍らせる、これは実際に凍ったので問題ない。では、本数が明記されていない理由は。「自由」を謳うが故の抜け道を示唆する物でないのなら、何の為だ?


「…………氷の柱。まさか」


 もう一度、入口から撮影されたスクリーンショットを見る。……そうか。だからこんな妙な形をしていたって事か!?


「すみません、ボス部屋に向かいます!」


 周りの人に一声かけて【王権領域】を解除。一緒に居てくれて雪玉を作っていたルミを抱え上げ、割り出されていた最短距離でボス部屋へと移動する。

 途中で部屋をいくつか通る時だけ一時停止して、後はノンストップだ。辿り着いてみると、やはり手数が足りないのか、一度リセットする為に元『本の虫』組の人達が出てくるところだった。

 その人達に、1手貰えないかと言って了承を貰い、閉じたばかりの扉を開いて中に入る。そう。この部屋は、背の低い山形食パンの様な……四角と丸を組み合わせた形をしている。


「ルミ、看板の棒に・・・・・雪玉を投げて貰えますか」


 抱えていたルミを看板の正面に下ろし、念の為自分にバフをかける。この後戦闘にならないとも限らないし。はぁい! と元気に片手を上げたルミは「雪玉袋」から雪玉を取り出すと、見事な正確さで、問題文の看板、を、立てている、氷で出来た棒・・・・・・に投げつけた。

 ルミの持っている雪玉は、当然ながらルミが作ったものなので、「必凍状態」が付与される効果がある。そして、雪玉で氷の柱が凍る、というのは、既に確認されている事だ。

 パキンッ! と、軽い音と共に、看板が氷漬けになり。


「……「氷の柱」という言葉に、大きさや位置の指定が無い事に、もっと早く気付くべきでしたね……。あと、この部屋だけが、妙な形をしている意味に」


 そのまま、「弧を描く壁の前に並んだ」氷の柱が、全て一度に氷漬けになったのを見て……思わず、そう呟いていた。



 あぁ、そうだな。そうだよ。

 いくら氷の柱同士の間隔が微妙に違ったって、円の中心から端までの距離は等しいもんな!

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