第792話 23枚目:優先順位
月曜日、火曜日ともに警戒しながら生産作業をしていたが、北国の大陸と氷の大地は、いっそ不気味なほどに平和だった。その分、最初の大陸の混乱具合が酷い事になっていたが。
自爆テロは宗教的に重要な場所・人物だけにとどまらず、とうとう大きな街を結ぶ街道の破壊にまで及んでいた。事ここまで至ってもまだ相手の移動手段を追いきれないという事で、流石に何か、先月のイベントでその辺りが劇的に変化したんだろうという推測が立っている。
今までは主にエルルとサーニャのお陰でこちらに利のあった行動速度だが、ここに来て上回られたというのは、正直面白くない。……の、だが。
「何と言うか、ここまでくると、その速さをわざと見せつけているような気がするんですよね。油断は良くありませんが、実際は何かコストとして消費する物があって回数制限が付いているか、別の手段を使っているのでは……?」
という懸念がちょっとあったりした。まぁ推測にしか過ぎないんだし、実際に行動速度が上がっていると思って行動した方が良いんだろうけど。でも、そうやって見えている情報通りに動くと何か引っ掛けられそうなんだよな。
で、水曜日。今日も生産三昧かと思ったのだが、今日はどうやら違うらしい。
「流氷、というかモンスターの群れの、事前処理、ですか?」
「はい。流石にここまで混乱具合が深まってしまっては、
「あぁ、戦力が足りなくなるんですね。そして、私が動いてみせる事で、何かあったらすぐに叩ける状態が維持されているぞという事を見せると」
「そういう事ですね。よろしくお願いします」
そういう事らしい。……若干そうやってどこにいるか分からない私をつり出すのが目的じゃないか、という気もしたが、だったとしてもそれ以外に方法は無い。ここで動かなければ、それこそ国同士の信用ってやつに、致命的な皹が入るだろう。
液体火薬の性質もだいぶ分かって来たので、仕掛けられる場所もかなり絞られてきている。そして該当する場所はしっかり見張られているので、少なくとも新しい火薬ないし爆薬が出てこない限りは大丈夫だろう、との事だ。
そして私がやる事も、いつかやった雪玉による爆撃だからな。あれが一番、雪雲とモンスターの群れへ一度に対処できる効率的な方法だから。エルルとサーニャへの言い訳もばっちりである。
「と言う事は、以前と同じように、北と南で雪玉を受け取りながら往復すればいいんですね?」
「はい。何かありましたらご連絡しますので、基本はそういう感じでお願いします」
だった。……確かに、そろそろ除雪が追い付かなくなってるもんな。土日で山ほどモンスターを倒したから、雪雲も大分広い範囲に被さってきているし。
次の土日に、また巨大な流氷がやって来るのはほぼ確定している。それに加えて追加のギミックが……例えば手付かずの雪がモンスターになるとか……無いとは言えないので、司令部としてはこの水・木・金の3日で、一旦雪雲と積もった雪を一掃したいらしい。
流氷に乗ったモンスターの群れは大分まばらになっているのだが、メインは雪雲を削り取る事だ。だから正直、命中するかどうかは考えなくていい。雪玉を雪雲に投げて出来る氷の塊はモンスターにならない、どころか、攻撃魔法と同様、割とすぐ消えると言うのも分かっているし。
「これ以上敵が増えたら対処できませんからね。分かりました」
「そうですね。こちらも、可能な限り早急にあちらの大陸の混乱を抑え込むつもりです」
とりあえずは目の前のイベントを成功で終わらせなきゃいけないが、その間に足元がガタガタになっていては意味がない。両方に対処するには手分けが必須だが、そうなると警戒が薄くなってしまう。
現状を考えれば考える程厄介度合いが増してしまうが、とにかく、やれる事からやっていこう。エルルとサーニャはもちろん、ポーション作成で前線を支えているルディル、罠設置の相談役をしている双子、陸上限定の特級火力となったルウと、うちの子もそれぞれに頑張っているんだし。
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