第791話 23枚目:中間結果

 エルルとサーニャに加えてルウの活躍もあり、どうにか日曜日最後の巨大な流氷も、モンスターの形になりかける所で撃破する事が出来た。月曜日なので寝なければいけないのだが、日付変更線直後にちょっとだけログインして確認した所、新たに巨大な流氷は来ていないそうだ。

 それに合わせて流氷に乗ってやってくるモンスターの群れもぐっと数が減ったらしく、防衛としては何も問題が無い状態に戻ったらしい。まぁ平日だしなぁ。ようやく運営が難易度を自覚してくれたようで何よりだ。

 とは言え、問題が解決したわけではない。この分だとイベント最後の土日にやってくる巨大な流氷は今まで以上の大きさになるだろうし、それに合わせて攻めてくるモンスターの群れもさらに大規模になるだろう。その準備を、平日の間に整え切らなければならない。


「まぁ、何が問題って、最初の大陸がそれどころじゃないって事なんだけどな……」


 一応、召喚者プレイヤー達の全力をイベントに突っ込めるのなら大丈夫そうだ。が。問題は、イベント以外の部分に召喚者プレイヤーの力を、それも結構割かなければならない状況になってるって事でな。

 あれから元『本の虫』の人達が情報を集めてくれたところによると、どうやらあの自爆テロ、月曜日に入ってからもまだ続いていたらしいんだ。死傷者の数は、既に考えたくない領域に入りつつある。

 しかもきっちり細部まで手を抜かないゲテモノピエロらしく、自爆テロの実行者はその国以外の種族がやっていて、何なら自爆直前に「今から自爆するぞ」とアピールしていたらしく、国同士、種族同士の疑心暗鬼の加速っぷりがヤバいようだ。


「北国の大陸がまだ解放され切ってないのに、最初の大陸が戦国時代に突入するとか、本当に最悪極まるんだけど」


 ……本来なら神が出張って抑える場面の筈だが、その神からの啓示を受け取ったり託宣を聞いたりする場所や人物がピンポイントで狙われて壊滅状態になっているので、余計に疑心暗鬼の加速が止まらないらしい。

 一部、それこそオンラ様のように、高位の神格がその辺に常駐しているような場所の場合だと、その自爆テロの実行者が“破滅の神々”の信徒だというのがすぐに分かる為、混乱はすぐに収まるようだが……そんな場所は、本当に極一部だ。

 “破滅の神々”の信徒というあいまいな存在より、目に見えて絶対に逃げない国ってものを敵にした方が、内側の不安を吐き出すのには丁度いいんだろうけども。


「完全に手の上で転がされてるっていうな」


 一応、ここまでに稼いだ信用がある召喚者プレイヤーや、それこそ個人的に『勇者』と親しくなった召喚者プレイヤーによる説得で、どうにか最後の一歩を踏みとどまっている、という感じになっているらしい。

 その裏で情報戦も繰り広げられているようで、最初の大陸は現在、本当に大変な事になっている。それこそ、北国の大陸を、多少は放っておく必要がある程度に。


「けど、本当に放っておいたら、絶対こっちにも仕掛けられるし」


 なので、緩い筈の平日にもかかわらず、ログイン時間の指定があった。まぁ特級戦力を遊ばせておく余裕は無いよな。それが、威嚇のための切れない切り札だとしても。

 全く厄介な事になっているが、この辺も現代竜族と合流できて、古代竜族が復活したらどうにかなんないかな。世界的抑止力が居れば、せめて何でもありの血みどろな戦争じゃなくて、はっきりした「ルール」の上で動くゲーム染みた戦争にはなるだろうし。


「で、その為には北国の大陸を守らなければならず、結局人員的なリソースが足りなくなると」


 本当に、考えれば考える程、メインシナリオの妨害としては花丸満点だな。もしこのまま戦争勃発まで行けばゲテモノピエロは大満足で高笑いを上げるだろうし、そうなればもう実質詰みだ。

 世界を救う前に生き残っていた住民が全滅とか、その理由が疑心暗鬼と不安からの戦争とか、最悪の結末バッドエンド以外の何物でもないからな。

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