第786話 23枚目:依頼と報告

 その話を聞いた時点で、正直に言うと、島ごと跡形無く吹っ飛ばしてしまおうかと思った。だって絶対面倒な事にしかならないじゃないか。

 でもそうすると何かこちらにとっての不都合になる、そんな仕込みがある気もしたので、少なくとも正体を確認するまでは強硬策は取れない。万に一つだけど、どっからか逃げてきて保護を求めている誰か、って可能性もある訳だし。

 しばらく考えて、とりあえずカバーさんに連絡を入れる。考える事がさらに増えてしまうが、確かにこれは緊急性の高い問題だ。


『このタイミングで、クランハウスの周囲に不審な人影ですか。確かにそれは警戒しなければなりませんね』

『とはいえ、ちゃんと対応しなければいけない罠は仕掛けてあるでしょうし……』

『間違いなくあるでしょう。出来れば、穏便に接触したいところですが……』


 流石のルールでも、監視カメラのように画像を録画するというのは無理だ。それにその不審な人影はルールの管理領域の外に居る。よほど近づかなければ、知っている相手……一度でも島の中に招かれた事がある相手かどうかも分からない。

 一応島にはマリーとバトラーさんもいるのだが、彼らは基本的に夕方から夜にしかログインしないし、したとしても現状は完全な保護対象なので前には出せない。【成体】以上になっていれば交渉事は任せられたんだろうけどな。

 しかしカバーさん達を司令部から引っこ抜く訳にはいかないし、他の重要拠点を守っているメンバーや、最前線を張っていたり戦略助言をしたり生産スキルで前線を支えていたりするうちの子を呼び戻す訳にも行かないんだよな。


『まぁ仕方ありませんね。細心の注意を払いつつ接触を試みます』

『後の事は可能な限り此方で対処しておきますので、よろしくお願いします』


 なお後の事=エルルとサーニャの説得である。不審な人影との単独接触とか、絶対怒られる案件だからね。今は緊急事態だけど。それに、流石に研究者の魔族さん達に体張ってくれとは言えないだろう。

 と言う訳で、一旦研究施設の魔族の人達に声をかけ、しっかりとこっちを向いて返事をしたことを確認してから【飛行】を使っての大ジャンプ的な感じで移動する。

 島についてからは竜族の人達に説明と確認だ。話を聞いてみたら、やっぱり彼らも不審な人影には気づいていたらしい。ただ、こちらの様子を窺うばかりで一定以上近付いてくる様子が無い事から、どう対応すればいいのか決めかねていたようだ。


「となると、やっぱり様子を見るしかありませんね」


 とりあえず、竜族の人達に案内してもらって、隠れながら問題の島を観察できる位置へと移動だ。この島にも森はあるし、今住んでいる竜族の人達は罠が得意なので、こちらの姿を隠すようになっている。だから向こうからは大変気付きにくい。筈だ。

 とは言え、木が生い茂っているのでそれはそれで難しいんだけど。視力がどうこうではなく、単純に視線が通らないって意味で。ある意味隠れ潜むのにはとても適した島だからな。

 物理的に見えないのではどうしようもない。もちろん物理的な視界以外の「見える」系スキルはメインに入っているんだが、こちらは視力としてカウントされる距離が短い、つまり、私の視力からすればド近眼と言ってもいい範囲しかはっきり見えないんだよな。


「……ん?」


 なので、見えないのを承知で隠れたまま眺めるしかないのだが、しばらくした所で、何故かタイミングよく動きがあった。島に隠されていたと思しき小船が出てきて、こちらへ近づいてきたのだ。しかも真っすぐに。

 竜族の人達がざわついているから、姿は隠れている筈だ。が、これ、どう考えてもこっちが見えてるよなぁ……。

 若干首を傾げながらもほかの人達には下がって貰い、もう少し足場として動けるかつ船を近づけられる場所がある西側へ移動する。……うん。船も方向を修正してついてきたから、やっぱり見えてるな?


「隠蔽が見破られた、となると、それ専用のスキルを持っていると見るべきですよね。確かに隠密系スキルを上げる為には、相互に隠れながら見破るのが一番効率は良いでしょうけど」


 私もルール(時々ルシル)相手にやってるしな。

 が、それにしては接触の方法が穏便、と思うべきだろう。となるとゲテモノピエロの配下ではない可能性が高いが、それならそれでどうして正面玄関から来ない? という疑問が残るし。

 穏便な接触、と見せかけて不意打ち。そういう可能性も十分あるだろう。それでも見た目穏便に接触してこようとしている以上、こちらは歓迎するしか無いんだけど。


「……さて。いったい何者なのやら」


 まだ私は姿を隠している状態を継続している筈だが、迷う様子もなくこちらへ近づいてくる小船と。そこに乗っている、フード付きマントですっぽり全身を覆い、遠目からでは正体が全く分からない数人の人影。

 怪しさしかない訳だが……話をする気があると言うなら、聞くだけは聞こうじゃないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る