第778話 23枚目:防衛状況

 その後色々やってみて、雪像型モンスターには火属性を付与したお札が、氷像型モンスターには、ちょっと意外だが土属性を付与したお札がよく効く事が分かった。氷属性に特大優位があるのは火属性なので、これは不思議な結果だな。

 なお1波の最後に居る大きな氷像型モンスターだが、これ相手には素の状態のお札でないと跳ね返す事が出来ないという事も確定した。逆に言えば、素の状態のお札なら跳ね返せるし、大きさがある分だけ跳ね返されるダメージも大きいらしく、ダメージ床自体の効果が高かったんだけど。

 ちなみに他の場所で効果があった対策としては、少し地面を凹ませて対寒冷地性能に特化した油を流し込んだり、壁を越えない程度に急な坂道を作ったりだったそうだ。油は雪像が吸ってしまうんじゃないかと思ったが、その分だけ他の場所まで塗り広げる形になって結構な効果が上がったらしい。


「坂道の下った所に限定すれば、金属製の棘山も大きな効果を上げるでしょうし」


 何せ雪像と氷像だ。坂道を上るには勢いをつけなければならず、勢いをつけて登ったら途中では止まれない。登り切って気付いた時にはもう遅いって事だな。

 そんな感じで、どうにか馬鹿じゃないのかと言う数のモンスターの群れを凌いでいた召喚者プレイヤー達。私ももちろん頑張ってお札をたくさん作っているが、問題はだな。


「内部時間で1日に1回、しかも後になるほど大きくなるって、これはちょっとキツいんじゃないですかねぇ……」


 現在も(大人しく後方で生産作業をしているとは言え)私の近くにエルルとサーニャが居ない理由であり、これだけの大騒ぎになっている原因だった。何の事かと言えば、それはもちろん、流氷山脈からはがれた、特大の流氷だ。

 どうやらエルルとサーニャは、各防衛範囲……大陸の南側、北側、そして氷の大地に各1個ずつ流れてきている特大の流氷を、海の上で迎撃しているらしいのだ。

 確かにあんなのが漂着してモンスターになったら、防衛陣地が滅茶苦茶になるどころではない。漂着する前、ただの氷の塊の間にどうにかしてしまわないと、かなり厳しいだろう。


「ただ問題は、海の上でちょっかいを出すという事の難易度ですよね。相変わらず、あの謎の行動制限は生きているみたいですし」


 その行動制限があるうえで、あの特大の流氷を相手にして通用する火力を持つ、となると、私を除けばエルルとサーニャぐらいになる。もちろん召喚者プレイヤー可能な範囲で参戦してはいるが、基本的なステータスの違いがね。

 私がログインする内部時間前日、つまり土曜日の0時から朝6時までの間は、比較的早期に流氷を砕く事が出来たそうだ。だが現在、土曜日の朝6時から昼12時までの内部時間1日は、その半分がとうに過ぎたあたりでようやく大陸の南側に迫っていた流氷が砕けたらしい。

 そしてなお悪い事に、あの巨大な流氷、超遠距離からの魔法は反射する性質があるようだ。つまり、私が遠くから魔法で殴ると、自滅するしかないって訳だな。


「……エルルとサーニャ用に、本気の支援バフを込めたお札を作っておくべきでしょうか」


 単純に質量兵器としても使える氷の塊って事で、結構苦戦しているようだ。温度が低いからか丈夫なんだってさ。他にも理由はあるかも知れないけど。特殊な力が働いているとか、移動中は防御力が上がっているとか。

 しかしこの調子では、事前に砕くのはすぐに不可能になるだろう。と言う事は、接岸からの上陸を許してからの迎撃になる。……が、そうすると、大分不安だな。主に大陸の防衛状況が。

 まぁ、氷の大地はそもそもの防衛陣地の完成度と、集まっている召喚者プレイヤーの実力の平均値が言わずもがなだし、最終どうしても無理そうなら私が最前線を張ればいい。


「しかし、大陸の南側は新人召喚者プレイヤーが多いと言うだけではなく、そもそも寒さが苦手な種族の召喚者プレイヤーが集まっていますからね。もし気候や気温を変える特殊能力があったら一発アウトですし」


 なお大陸の北側だが、こちらもこちらで万全かと言うとちょっと疑問が残る。何せ、防衛の要となる砦がクランごとに独立しているからな。流石に大物を前にして召喚者プレイヤー同士でもめる事は無い、と思いたいが、ある意味ちょっかいのかけがいが一番ある場所だ。

 つまり、大陸の南側は運営のギミック次第で全滅の可能性が、大陸の北側はゲテモノピエロの動き次第で機能不全に陥る可能性がある訳だ。そしてどちらも有り得ないとは言えないというか、これまでの事を考える限り、まぁあるよなぁ……としか思えない訳で。


「まぁだから、恩寵洞窟やポリアフ様の雪山には、それぞれ「第一候補」達が守りについている筈なんですけど。ルージュやショーナさんも引っ張り出したんですから、少なくとも戦力的な意味での突破は相当に難しい筈ですし」


 とは言え、正面からの喧嘩で勝てないのはそれこそ百も承知だろう。そして厄介なのは、それ以外の搦め手こそが相手の得意とする手段だって事だ。

 ……もし戦線が少しでも揺らごうものなら、すぐにでも仕掛けてくるだろう。もちろん、大陸の方を気にしていて、氷の大地の守りがおろそかになっては意味が無いのだが。

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