第772話 23枚目:イベント仕様

 イベントが始まるまでの僅かな時間を使って、防衛準備を整える。その合間を縫って、召喚者プレイヤーの有志が東側に聳える流氷山脈を偵察しようとしたらしい。

 ところが流氷山脈に近付くにつれ、まずは空を飛ぶ動きで消費する魔力が加速度的に増加。この時点で空を飛んで近付く事は出来ないという結論が出た。……いつか北国の大陸でも起こっていた現象に近いから、これは予想の範疇。

 ならば船はどうかと言うと、どうやらそちらも一定ラインを越えると、一気に船自体の耐久度が減っていくらしい。そして最終手段とばかり泳いでいこうとした召喚者プレイヤーは、寒さからのスタミナ切れで船より先にダウンしたそうだ。


「まぁ素直に防衛戦しろって事ですね。流石に向こうのリソースにも限界があるでしょうし」

「あの大きさだから相当だろうし、大きさが当てになるかどうかも分からないんだけどな」

「ははは。私は動ける時間に限りがあるので、頼りにしてますよ、エルル」


 今回のイベント期間は2週間。一応慈悲なのか、常にモンスターの群れが来る訳ではなく、ある一定の範囲にログインしている召喚者プレイヤーの人数に応じた数が来ると言う仕様になっているらしい。つまり人数が少ない所は攻めてくる数も少ないって事だな。

 私も思った通りタワーディフェンス的な戦いになり、流氷1つが1波、と言えるだろう。まず上に乗っているモンスターがやってきて、締めに流氷そのものが1体の巨大なモンスターとなって襲って来る、という訳だ。

 事前調査では流氷山脈に近付く事は難しかったが、ある程度打って出て「先に減らす」事は可能だと言う事が分かっている。そして「先に減らす」場合、流氷は動く事なく、ダメージの蓄積でそのまま消えるようだ。


「とは言え、流氷自体は足場としてそんなに良くありませんし、モンスターの群れに突っ込むことになりますから、タイミングと相手をよく考えないと逆に袋叩きにされて戦力が削れますからね。例の、モンスターを倒すと雪が降って来るという効果もあるようですし」

「あぁ、そこら中に尖った屋根を付けたあれか」

「あれです。積もった雪がモンスターにならないとは限りませんから」


 それにまだ未検証だが、火属性を使うと更に雪が降ってくる可能性もある。なので、せっせと除雪しつつ防衛戦をしないといけない訳だ。

 ちなみに除雪した雪は冷人族の人や、以前のイベントでテイムした雪像達に任せれば「必凍状態」になる雪玉に変えてくれる。あれはモンスターにも通用したし、こういう防衛戦で敵の動きを止められるというのはとてもありがたい。

 と言う事で、私が居る氷の大地だけではなく、全ての防衛ラインに召喚者プレイヤーが動員できるだけの雪像達が居る筈だ。もちろん冷人族の人達も、可能な範囲で防衛ラインを回ってくれるとの事。


「遠目から見る限り、向こうはすっかり準備万端のようですからね。少なくとも此処を落とされる訳にはいかず、その分だけ苛烈な攻勢をかけられるのが分かっているんですから、気合を入れていきましょうか」

「前に出る分は俺らがやるから、出来ればお嬢は後方にいて欲しいんだが?」

「状況次第です」


 雪雲が発生したら、また上空から雪玉爆撃する必要が出てくるかもしれないからね。基本は罠に使うお札を作る事になるだろうけど、司令部からの指示があれば出撃するぞ。

 とはいえ特級戦力だから、余計な消耗や想定外の動きは避けた方が良い。つまり、私が1人で勝手に動く事は無いって訳だ。それだけでもエルル達としては大分気持ちが違うんじゃないかと思うんだけど。


「…………抑え込めばお嬢は出てこないんだな?」

「基本はそうですね。他の場所の応援とかで呼ばれなければ」

「1度も危ない場面が無ければ出てこないんだな?」

「理論上はそうなりますね」


 私個人としては退屈だが、まぁ、特級戦力が活躍せずに済むのならそれはそれで歓迎すべき事だ。そもそも特級戦力が無いとどうしようもないっていう難易度はおかしいんだけど。

 まぁエルルが気合十分なのはありがたい事だ。でもイレギュラーや想定外はつきものなんだから、無理はしないようにね?

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