第771話 23枚目:イベント準備

『「第三候補」! 装備を進化させるのに試練の中で使いまくってるんだって? 俺もまーぜて!』


 という連絡が「第四候補」からあり、うちの子も呼んで(試練で出てくるモンスターそっちのけの)籠城戦の練習をしたりなんかしている間に、無事に小槌は「築城の小槌」へと進化した。まぁ城と言っても、構造としては前線基地みたいな簡単な物なんだけど。

 恐らくここから更に使い込むことで作れる城の複雑さが上がっていくのだろうが、あいにくとそこまでやっている暇はない。どっちみち使いまくるのには違いないから、その内それなりに複雑な物も作れるだろう。

 どうやらあの設計図にかかれていた兵器を作る事は出来たらしく、特に大砲の方はそこそこ大きな船なら乗せられるという事で、結構頑張って作っていたようだ。なのでそれらの兵器を私がインベントリに入れて、北国の大陸へ移動である。


「イベント自体は月の半ばとは言え、事前準備ができるならやった方が良いですからね」

「それにしても相変わらずの寒さっすね……」


 大陸の南側では、しっかり防寒具を整えたみのみのさんこと『牛肉工務店』を筆頭に、建築系のクランが総出で防衛ラインとなる砦や防壁を建築している。万が一に備えて、あちこちに点在している村の防御を底上げしたりもしているようだ。

 対して大陸の北側だが、こちらもこちらでせっせと召喚者プレイヤー達が働き、主に氷のブロックを積み上げて防壁を作っていた。どうやらあの雪合戦イベントで砦を作った経験が生きているようで、クランごとに砦を作り、その間を防壁で繋ぐという形で防衛ラインを構築しているらしい。

 そして氷の大地だが、こちらは冷人族の人達が全面協力で防衛ラインを構築していた。元『本の虫』組の人達もその構築に噛んでいるようで、恐らく構造的な難易度だけで行ったらここが一番だろう。


「とは言え、人手が足りていませんからね。やはり構築速度は他より遅いですか」

「だから先輩が来たんすよね?」

「まぁそうなんですけど。どう考えても、此処が一番戦力を必要としますし」

「落とされたら終わりは条件が厳しいと思うっす」


 と言う事なので、カバーさん達が合流した司令部の指示に従って「築城の小槌」の出番だ。ゴッ! と地面を殴れば氷でできた高い壁が出来上がる。うーん、作れる種類を制御する訓練しといてよかったな。大きさは無理だったけど。

 なおこの「築城の小槌」だが、出来上がる建造物の素材は、殴った地面の材質に依存する。……何が言いたいかと言うと、ここに、鉄筋コンクリートもどきで出来た1m四方のタイルがあるだろう?

 で、これを氷の大地の上に置いて、「築城の小槌」で殴るとだな。


「鉄筋コンクリートもどきの城が出来上がるという寸法です」

「地面の判定ガバガバっすね!?」

「まぁやり過ぎると、装備者の魔力と小槌の耐久度が危険域に入るんですけど」

「先輩で魔力が危険域に入るってどんだけっすか!?」


 ははは。ステータスの暴力で無理を押し通した感じだな。ちなみにちゃんと寒冷地対応の材料を使っているから、寒さで自壊するって事は無いぞ。魔法やスキルってすごいなぁ。

 とは言えタイルも無尽蔵にあると言う訳ではないので、恐らくカバーさんからの説明があったのだろう司令部からの指示によって、要となる部分にだけタイルを使い、後は普通に氷の大地を殴って防衛ラインを構築する事になった。

 ……途中で誰かが閃いたらしく、いつかヒラニヤークシャ(魚)に食わせるつもりで空ぶったのと同じ、山ほどヤバい混ぜ物をした氷のタイルが届いたので、途中からはそれで壁を作る事になったが。


「……これ、耐久度的にはどうなんすかね?」

「……どうなんでしょうね? 司令部曰く、氷だけだとすり抜けられたりモンスターにされたりという危険があるから、その対策だそうですけど」

「じゃ、何で混ぜ物の壁の内側に爆発する罠が仕掛けられてるんすか?」

「まぁ、吹っ飛ばしてダメージを与える為でしょうね。ある程度削られたらという前提でしょうけど」


 タワーディフェンスとして見た時の、陣地の作り方がガチである。流石元『本の虫』組の人達だ。油断も隙もありはしない。頼もしい。

 ……ガチと言えばルフィルとルフェルもなのだが、確か2人は大陸の北側の司令部に合流していた筈だ。と言う事は、大陸の北側の防衛ラインには、あの2人の手が入っているという事になる。


「…………。まぁともかく、うんざりするほどの数が、広域殲滅技を使えない状態で来ることはほぼ確定しているんです。いくら備えはあっても困らない筈です」

「え、先輩どうしたっす? 何か不安でも見つけたっすか?」

「いえ何も」


 不安は不安だが、逆方向なんだよな。何せコトニワ時代、うちの「庭」の防衛に関してメインを張っていたのはルージュだが、その構築は私と双子の合作だ。私が迷路を作り、そこに双子が罠を仕掛ける、という形で。

 そしてその経験が反映されたのか、フリアドにやって来た双子は、罠に関するスキルをたっぷり習得していた。その上ルディルという状態異常のスペシャリストが近くに居て、様々な素材が使い放題、となれば……。

 ……ま、まぁ、最終防衛ラインが堅固である分には何も問題はないな。その辺りの手綱は、『アウセラー・クローネ』に来ている元『本の虫』組の誰かがとっているだろうし。……たぶん。

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