第762話 22枚目:超高速攻略

 流石に1日目の昼に水門を開くまでは行かなかったものの、1日目の夜は完全にただの稼ぎ時になっていたし、夜の探索も順調に行えていたようだ。司令部の本気ってすごいなぁ。(2回目)

 そんな感じだったので、2日目の昼に水門を開き、特殊条件を満たす事が出来たのはもう予定調和だろう。私は経験値ポーションが3個だった。何も問題は無いな。流石にこれ以上トンデモ精霊との契約を増やしても、悩みの種が増えるばかりだし。

 やはり風に乗って西へ行くことを決断した現地竜族の人達を見送り、向かうのは当然、前回と同じく、黒く染まった内海だ。


「危険物の回収ですから、関われる人が限られるんですよね。そういう意味でも頼りにしていますよ、「第四候補」」

「まーかされた。動き自体は単純作業だからな。相手が危険物だからその難易度が上がってるってだけで!」


 危険物、というのは嘘ではない。その危険と判断された内容が、直接的なものではないだけだ。

 と言う訳で、さっそく私は自分で防御を張って海中へゴー。そしてぽんぽんと黒い海水を凍らせていく。氷は水に浮かぶ、という物理法則が仕事をするのは分かっているし、絶対に安全な手数を使える「第四候補」が待っているので、凍らせる系の小規模な魔法を連打だ。

 どうやら「第二候補」も潜って凍らせる側に回っているらしく、そちらに負ける訳にも行かないし。何だったら「第四候補」をキャパオーバーさせるつもりでかかろう。


「どうせ夜になったら増えるのが分かっているんですから、少しでも素早く削らないと、文字通り何時まで経っても終わりませんからね……」


 ちなみに内海で危険物の回収が行われている間、一般召喚者プレイヤー達は宿光石を採掘したり、光を蓄積したり、氷を削りだして箱を作ったりしているらしい。

 まぁ確かに、夜になったら再び橋が下りるのは分かってるからな……。そこから再び削る必要があるし、手に入るのは神々によって増やされたアイテムが出てくる普通の種だ。

 流石にこの段になってもまだ精霊獣が足りないとか言う召喚者プレイヤーはいないだろうし、そんな迂闊な召喚者プレイヤーに変質した宿闇石の事を教えられる訳が無い。間違いなく危険物なんだから、少しでもゲテモノピエロを筆頭とした「敵」に渡る可能性があったらアウトだ。


「それもあって、早回し推奨なんですけど」


 手を出される前に回収しきって、1つ残らず開けてしまう事。これが一番平和に済む。その為にも、どんどん黒い海水を凍らせていこうか。




 そして、3日目の昼、午前中。「第四候補」の奮闘もあり、内海はかなりの深さまで透明さを取り戻していた。大分底の方までよく見える。

 1度夜を挟んだから多少黒い海水は増えてしまったが、それでもどうにかここまでこぎつける事が出来た。若干の感慨と共にそんな事を考える私がどこにいるかと言うと。


「これ、私でなければ取り込まれてアウトだったのでは? まぁ、私だから捕まったという可能性も無くはないですけど」


 その、「大分底の方」から、そこそこ頑張って防御を維持しつつ水面を見上げる形で、その「大分底の方」にいた何かに捕まっていた。ははは。やってしまった。まぁある程度想定はしていたけど。

 私を防御ごと捕まえているのはもはや見慣れた感じもある生物的な動きの黒いものなので、これが恐らく「最初の1体」にして、レイドボス「伸び拡がる模造の空間」の本体なのだろう。やっぱり内海の底に居たか。

 一応防御を抜かれる感じはしていないものの、今回は連絡手段である「通信小瓶」は持っていない。そして命綱兼連絡手段として使われていたロープは、多分これ、取り込まれたな。ずるるっと吸い込むようにして。


「さて、どうしましょうか。サーチライトもサーニャに預けてきましたし」


 ランタンは持ち込んでいるし今もシャッターを全て開けて周囲を照らしているが、効果があるかどうかは微妙、と言ったところだろうか。まぁ仕方ないな。今回は流石に相手が悪い。

 同じように捕まえられていたとして、まぁ「第二候補」は大丈夫だろう。他の人は分からないが、1人でも無事に逃げていれば地上に状況は伝わる筈だ。なら、カバーさん達が何か対策を考えてくれる。

 となると、大人しく待っていてもいずれ状況は動くだろう、が……捕まったままっていうのもちょっとなぁ。


「とりあえず、氷属性の封印魔法から試してみましょうか。封じた所が千切れて水面に上がれば儲けものですし、邪魔にでもなればオッケーですし」


 ……エルルやサーニャからはまた怒られるかもしれないが、予想された緊急事態だからな。何とか説得されている事を願おう。

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