第731話 22枚目:空間探索

 文句を言ってもギミックが解決する訳ではないので、反対側に移動して、同じく作られていたらしい階段を通って地面まで降りる。対岸からの灯りでもそれなりに照らされていたし、ベテラン召喚者プレイヤーは各自で灯りを持ち込んでいるからね。

 で、さっそくと柱の根元に向かったカバーさん達を見送って、こちらにも光のドームと大きな灯りの合わせ技をセットする。わらわらと付いて来ていた召喚者プレイヤーの人達が、明るい場所を使って種を回収し始めた。

 で、私はと言うと。


「空間異常が解除されるに越した事はありませんし、小さくなった“影の獣”が水路に落ちる可能性があるのなら、体積ぐらいは減らしておくべきだと思うんですよね」

「建前はそうだろうが、どっちかっていうと魔力を使おうとしてるな?」

「鍛錬は必要ですし……」

「姫さん? まさか図星?」


 ちょっと考えて、サーチライトの出力を最大活用しようと、内海側に水路を辿ってみる事にした。高い所まで張り出すようにしている宿光石の鉱脈をサーチライトで照らして光を蓄積しつつ、“影の獣”に挟まれないようにして探索可能な範囲を広げていく。

 もちろん他の召喚者プレイヤーの迷惑にならないように気を付けながら、対岸も照らしている。宿光石に光を蓄積するのは、結局のところ“影の獣”ことレイドボスへの削りダメ……というより、行動制限系のデバフの方が近いか。まぁ、邪魔にはなるから。

 通常時空で点けて見た時はものすごく遠くまで光が届いていたが、それはこちらでも有効だ。なので、有るかどうかわからない天井方向もしっかりと照らし出しつつ移動する事しばらく。


「……“影の獣”、ではありません、ね? どっちかというと、あの、地上にあった宿光石の大岩の表面を覆っていたものに近いような……?」


 サーチライトを向けると、光が放たれている方向は真っ白になって何も見えなくなる。だが今までは消したら見える範囲が広がっていたのが、いくら照らしても変わらずに黒い部分が見つかった。

 何故か【鑑定☆☆】が通らないので正体は分からないが、何となくランタンの光で見る感じはあの宿光石の大岩の表面を覆っていた「“影の獣”の欠片」に似ている気がする。

 となれば、強い光か、影を消し去る特殊な光で消える筈なのだが。


「その割に消えませんね。これ以上強い、影を消し去る光って無い筈なんですけど」

「本当に同じものなのか?」

「【鑑定☆☆】が通らないので分からないんですよね。……流石に大きさが違うから、強い光に認定されないんでしょうか」

「確かに、かなり上の方まで続いてる感じがするね」


 そこから水路を挟んで左右も照らしてみたのだが、宿光石の鉱脈は変わらず光を蓄積する事が出来たし、最大拡散モードでたっぷり5分照らしてみても変化が無かった。まぁ水門(推定)を覆ってると考えれば大きさが違うんだろうけどさ。

 もしかしたら大岩を覆っていたのと同じく、弱く小さい光でも長時間当て続ければ破れるのかもしれないが……流石に、あの大岩に対する焚火や松明とはちょっとサイズ感が違う。それこそ、光の柱を何本も設置しないと無理があるだろう。

 足元をもう一度確認してみると、水門(推定)からここまではほぼ同じ幅のまま続いていた水路が、途中でぶっつりと途切れる形になっている。……ここが境界線、という事だろうか?


「外から見た島の南側は、山がぴったりとくっ付いていました。と言う事は、ここがもしかしたら、山の南の斜面に当たる位置なのかもしれません。こう、水路と内海の境界線みたいな」

「……それはまぁ他の奴らに伝えるとして、ここで粘ってこの黒い壁を破ろうとか思ってないよな、お嬢」

「…………」

「お嬢?」

「姫さん?」


 ごめん。ちょっと思った。

 とは言え実際にそんな大きな動きを無断でやったら、レイドボスの動きが読めない以上大迷惑だろう。ここは大人しく戻って情報を共有、対処方針が決まるまでは「人工空間獣の種」を回収していよう。

 それにちゃんと情報を共有して、それが有効だと分かって司令部から正式にGOサインが出たらエルル達も(渋々とは言え)動いても怒らないんだから、それまではぐっと我慢だ。


「……水路が本体だとするなら、まず両端である水門を空間異常から解放するのが順路だと思うんですよね」

「そうだとしてもまずは周りに相談してからだ」

「と言うか、相談しても他に手段がありそうだったらやらないで姫さん」


 とりあえず、地面と宿光石の鉱脈から分かる境界線のスクリーンショットを撮って、カバーさんに連絡だ。メールが使えないって本当不便だな。

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