第729話 22枚目:加速の変化

 色々収穫()があった1日目の昼が終わり、1日目の夜になった訳だが、こちらはあまり変わりが無かった。みのみのさんが作った箱の塔のお陰か、それとも源泉と呼べる場所を削ったからか、若干広がる速度が落ちたような気がしなくもなかったけど。

 どうやら一度箱の中に出現した「人工空間獣の種」は、後から追加で“影の獣”が同じ箱の中に入り込んでも消えたり持ち出されたりはしないらしい。いつの間に調べたのか、というのはまぁ他のステージだろうから、私は夜の間、みのみのさんが作った箱の塔をサーチライトで照らしに行っていた。

 1日目の夜ならまだそれなりに低い所を飛んでも安全なので、最大拡散モードのサーチライトでガッと照らしては、ざわざわと“影の獣”が集まるのを待ち、また照らし、というのは、うん。正直に言うと、ちょっと楽しかった。


「入れ食いってこういう事を言うんですね。問題は、箱の中に種がみっちり詰まったらどうなるのか分からない事ですが。エルル、視界の方は大丈夫ですか?」

『大丈夫だ。ちゃんと見えてる。……しかし何と言うか、本能のままに動いてる感じだな』

「下手に知性があったら手に負えませんけどね」

『まぁそうか』


 なお夜の間に、恐らく空間がおかしくなっていると思われる島の真南も照らしてみたのだが、そちらは昼と変わらない地面しか見えなかった。あの空間異常はやっぱり、山の中から入って内部からどうにかするしかないようだ。

 ちなみに途中から箱の塔に対する“影の獣”の集まり方が悪くなってきたので、拡散範囲を最小に絞って、光の柱を設置していた穴の1つを照らす方に回ってみた。

 宿光石の鉱脈に、夜の間に光を大量追加したらどうなるのか、と思った訳だが、流石にこれだけ“影の獣”で溢れていれば効果は薄くなるらしい。少なくとも外から変化を確認する事は出来なかった。


『いや、あの精霊獣の巣に対する動きがマシになったから、一応効果は出てるぞ』

「それはやりがいがありますね」


 どうやら私より広い範囲を見ていたエルルからはそんな言葉があったので、効果はあったようだ。流石対“影の獣”決戦兵器。これは伝えたら「第四候補」は大喜びするだろう。自分の作ったものが、ばっちり効果があったっていうのは、作り手としては一番嬉しいやつだろうし。

 ちなみに光の柱の再現をしていると、“影の獣”が詰まっているらしい箱をもって他の召喚者プレイヤーが寄ってきて、サーチライトの光に箱を通していた。眩しいだけで攻撃力が無いから、まぁ、こっちの方が平和と言えば平和だ。

 と言う訳で、昼に引き続き入れ食いだった1日目の夜。3日目の夜にレイドボスが出てくるのはもう分かっている。だから、それまでに少しでも削っておこうというのは、少なくともベテラン召喚者プレイヤーの共通認識だ。


「……何か動きがおかしいような気がするんですが、気のせいですかね」

『気のせいじゃないな。お嬢、移動するぞ』


 なのだが。……2日目の朝が見えてきたところで、なんか、島の真南に当たる場所から、ボコボコと水が沸騰した時のように“影の獣”が湧き出してきてるんだよな。一応エルルに声をかけてみたが、見間違いとか気のせいとかじゃ無かったらしい。

 どうやら他の召喚者プレイヤーも動きに気付いたようで、慌てて島の上空から退避しているのが見えた。……箱の塔はちょっともったいないと思うが、無理に回収しようとして無限キル状態に陥る訳にはいかないからな。仕方ない。

 私もサーチライトを消して肩にかけ直し、エルルの背中に戻って離脱だ。もちろんエルルも前回のステージの事を覚えているので、しっかりと島から距離をとった。超巨大な積乱雲から精霊獣を誘い出す側に回っていたサーニャも退避済みだ。


「一応、イベントメール大神からの啓示は届いていませんが……前回届いた分で、既に告知済み、という扱いの場合は、前触れなしに出現してもおかしくありませんからね……」

『それにしても出てくるのが早いな。いや、元々いたのが、危機感を覚えて早まったとかか?』

「前回よりは確実に速いペースで種を回収できましたからね。十分あり得るというのがまた頭が痛い」


 せめてあの箱の塔ぐらいは回収させてくれないかなー、と思いながら見ている前で、ボコボコと湧き上がり続ける“影の獣”は、そのまま嵩を増していく。具体的には、平地の森を呑み込んでいった。

 それだけではなく、超巨大な積乱雲に対する動きも活発になる。これはこのままレイドボスの出現になるか――と思った辺りで、水平線から顔を出した太陽の、最初の光が“影の獣”を照らし出した。

 そこは変わらず、ざわざわとその島中を覆い尽くした表面にさざ波が広がっていく。だんだんと陽の光は強くなり、嵩が増えたからか、それとも太陽に照らされたから、逆にボコボコと湧き出す動きは弱くなっていった。


「うーん……総合すると、島が本来の形を取り戻すまでの、3日目の夜と同じぐらいでしょうか」

『……つまり、昼の間に、少なくとも表面に出てる分は消すんだな』

「もちろんあの空間異常を起こしている部分に潜って、異常の解消を目指しますよ?」

『だからあんまり無茶はするなって言ってるだろ』

「だって必要な事ですし」


 最終的に太陽が完全に姿を見せた時点で湧き出す動きは収まり、島を覆い尽くした“影の獣”の量はそんな感じだった。うーん、削りやすくなるのはいいんだけど、フラグを踏んだとしてどれだ?

 やっぱり空間異常を起こした場所の地面に辿り着く事だろうか。あれが出来れば、こういう状況になっても対処は出来るだろうって判断になってもおかしくはない。実際対処できてるし。

 とりあえず他の召喚者プレイヤーの人達も動き出したし、私はまず山に開けた縦穴に合わせる形で、光の柱を設置する事から取り掛かろうか。

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