第724話 22枚目:ステージ開始

「で、これは何ですか「第四候補」」

「ご希望の超大出力照明!!」

「灯台に使うクラスの光源なのでは?」

「そのぐらいは必要だろ? 超特大の宿光石の塊貰った上に宝石もたくさん追加されたからな! 思いっきりブーストしておいたぞ!」


 形としては、普通にバケツと言って想像する中で一番大きい20Lの取っ手付きバケツに近い。だがプラスチックではなくゴリゴリに金属で出来ているし、その取っ手がとにかくごつい。それ以上に、今の私でそこそこ重量を感じるって時点でかなりの重量物だ。

 取っ手は5段階に角度をつけて固定する事が出来る上に、ベルトを着けて肩から下げる事も出来るらしい。そうだな。こんな重量物、装備品扱いでないと持ち込めないもんな。アイテム扱いでは、確実に重量制限をオーバーするだろう。

 で、肝心の光量は、というと……さっきの会話になる訳だ。念の為誰もいない東の海の方に向けて点けてみたが、光の強さだけなら、下手すればあの光の柱に匹敵するんじゃないだろうか。もはやビームの一種では?


「攻撃力ゼロっていうのが普通に不思議なんですよねぇ……」

「いやー魔法って不思議だよな。これで発熱量ほぼゼロっつーんだからすげー!」

「で、この目盛りの付いたレバーは何ですか?」

「光の角度を変えられる奴だな! 今は一番絞ってあるけど、最大拡散状態でも光量はあんまし落ちないぞ!」


 なお、消費魔力。そして出力の調節能力は無いそうだ。つまり、常に100%の出力で光る訳だな。……“影の獣”に対する為だけの決戦兵器で何も間違ってないっていう……。

 流石にこれは、ステージに入った直後は動きに支障が出る可能性があるが、まぁそれはもう諦めるしかない。……洞窟への入り口が無くなるのは確定だから、【飛行】の代わりに【竜魔法】を入れておくか?

 あれがあれば、身体強化の中で一番倍率の高いやつが使える。それに加えてスキル自体のレベルも【飛行】より高いから、もうちょっとステータスが上がるだろうし。


「ちなみに精霊獣がそっぽ向いたサイズの宿光石で杖作ったんだけど、「第三候補」使う? 光属性の魔法を使ったら威力2割増しな上に、影が出来ない特性が付くぞ☆」

「確実に使い捨てになりますけど、貰います」


 流石にこっちはアイテム枠だな。後で箱詰めしておこう。




 さてそんなやりとりもあった上で、8回目ステージの開始だ。ログインした瞬間に、ずしっと肩にかなりの重みがかかったが、まぁそれは仕方ないし覚悟してきた。問題は、初期地点が何処か、だが。


「……まぁ、私が居るなら私になりますよね」


 何にも見えない。すなわち真っ暗闇。つまり、洞窟の中だ。まぁそうだな。今までの傾向からして洞窟の中が初期地点になるのは、脱出できる可能性のある召喚者プレイヤーだ。私は確実に脱出できるんだから、そりゃ選ばれるだろう。

 まぁスキル用のイベントアイテムがあって、ステータスを最速で戻せるのだから、私にとっても都合がいいのは確かだ。持ち運び可能なサーチライトではなく、前から使ってるランタンを点けた状態でイベントアイテムを回収していく。

 いや、サーチライトは使わないよ。ヴォルケの一族雲竜族の人達に迷惑ってだけじゃなく、そもそもステータスを戻さないと私でもあっという間に魔力が足りなくなる。


「いやぁ、エルルが驚くとか、珍しいものを見ましたよね……」


 一般人間種族だと、数秒も持つかどうか、いや、それ以前に点ける事が出来ないんじゃないだろうか。ステータスというかリソース的な意味で。

 とりあえず洞窟の中を探索し、骨を一か所に固め、イベントアイテムを拾ってスキルを開放していく。今度はレベルがあまり上がっていないスキルまで全て解放した。イベントアイテムが余るのは分かっているからね。

 そこから外に繋がる2つの通路を拡張し、開通する手前でヴォルケの一族雲竜族の人達にかき氷を配る。その上で簡単に事情を説明してから、通路を開けに行った。


「……流石に前回と同じ状況、とは思いたくありませんが……せめて、召喚者プレイヤーの絶対人数が増えていますように!」


 色んな意味で覚悟を決めながら、上向きの通路を殴り抜く。さーて、これで特級戦力わたしがいるのは外にも分かった筈だ。太陽の光を浴びにヴォルケの一族雲竜族の人達が移動するのと入れ替わりに、下向きの通路を殴り抜いた。

 さてここからは、アイテム用のイベントアイテムを探しに行くか、それとも先に南の元凶まで続くトンネルを掘り抜いてしまうか。味方となる誰かが居ると分かっているならトンネルなのだが、それが分からないからな。

 ……今までのパターンで行くと、たぶん、割と高い確率でカバーさんは居る気がするんだよ。エルルに次いで付き合いの長い人だから。というか、絶対時間だけでいっても召喚者プレイヤーの中では割とべったり一緒に居たフライリーさんと良い勝負じゃないか?


「とはいえ、トンネルを掘った先が何かまた変化していないとも限らない訳ですし、やはりうちの子を呼んでから……エルルとサーニャを呼ぶための組紐が出来上がるまでは、ちょっとぐらい探索するべきでしょうか」


 大規模戦闘レイド戦なので、2人共呼ぶのは決定事項である。それに組紐自体はもう大体行きわたった筈だ。召喚者プレイヤーより種族レベルが高いテイム相手がそうそう居るとも思えないし。

 なんて考えていると、無意識にでも出来るようになった気配探知に反応があった。ん? こっち来てる? ってかちょっと待て、めっちゃ速いな!?

 それこそ現実の暴走トラックのような速度で、普通に歩くにもそこそこ苦労する森の中を、こっちへまっすぐ突っ切ってくる気配。何事、と思わず身構えた、その正面に出てきたのは――。


『あぁああああちぃ姫さんですお久しぶりですやったぁあああああ重っ!?』


 軽自動車の中では結構大きい車ぐらいの、艶を帯びて光る黒毛に、毒々しいと言うより上品なイメージの紫色で模様がある、大きな蜘蛛。

 それが、飛び出してくるなりわーいっと前足2つを上に上げて、私を持ち上げようとして、ちょっと踵が浮いた辺りでそれを断念した、というのが今の流れである。なおこの間、1秒弱だ。


「あぁ、ちょっと重量物なサーチライトを持ってますからね……。お久しぶりです、アラーネアさん。というか、【人化】出来ませんでしたっけ」

『いやその8本脚に慣れてしまうとこういう足場の悪い所ではこちらの方が安定すると言いますか現実より転ばずに済むと言いますかスキルの関係上実はこのままの時間の方が長いと言いますか、ともかくお久しぶりです!』


 再度前足2つを上に上げるのは、たぶん万歳してるんだろうな。でっかい蜘蛛の姿では威嚇にしか見えないけど。

 しかし、前にもましてテンションの高さがすごいな。……まぁ、すごいか。このイベントに関しては、アラーネアさん大歓喜だもんな。色んな意味で。

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