第715話 22枚目:移動開始

 元々、イベントステージの開始が北からという事で、南に元凶があるんだろうな、という予測はされていた。だから、島の真南に当たる場所に異常がある、という事自体はある意味想定内だ。

 まずサーニャが戻ってきてエルルと交代し、島の真南で合流した形になった召喚者プレイヤー達が北に戻り始めた辺りでルシル達も一旦戻って来た。問題は、戻ってきた皆から聞いた話でな?


「水路? 無かったよ。山も森も海岸も綺麗に繋がって、太陽みたいに丸い形になってたね。上から見た限りだと」

「同じく。真ん丸」

「山から森にかけて、真南に当たる場所を歩いてみたけどぉ、特に違和感は無かったねぇ」

「水路があった筈の場所の森もー、おかしい所はありませんでしたねー。島の端と端がくっついたとするなら、その直線上に生えてる樹は少ない印象でしたけどー」


 水路の痕跡すら無く、違和感も無い、と。これは困った。恐らく、このステージにおける司令部も困惑しているだろう。確かに異常がそこにあるのに、手掛かりらしいものが何もないとは。

 とは言え、水路が消えたとか、水路が出来る前だというのは考えづらい。何せ内海がちゃんと存在しているからね。内海があるからには噴火があった筈で、それならその時出来たという水路もある筈だ。

 ここまでの状況的に、恐らくこれも空間異常なのだろう。……異常が起こっていて、その理由に見当がついていても、どうすればいいのかが分からないから困っている訳だが。


「……流石に、夜まで待てば何か動きがある、と、思うのですが……」

『それはそうであるが、流石にそこまでただ待つというのもな。準備はする、とは言え、あまりに消極的というものであろう』

「時間に制限がついている以上、出来るだけ早く手掛かりは掴んでおきたいところです。……が。パストダウンが現地に向かえていればいいのですが、現状、それも難しいと言わざるをえませんね」


 第三陣以降って事は、『本の虫』の人達のすごさを肌で感じてないって事だからなー。司令部に合流を目指したというパストダウンさんも、多分そんなに口出しできる状態じゃ無いんじゃないだろうか。

 とは言え、私達が表立って動くと、それはそれでいらない刺激をしてしまいそうだし。別に嫌われたり痛くも無い腹を探られたりした所でダメージにはならないんだけど、こういう感情がこじれると後が心底面倒な事になりそうだから、問題になりそうな行動は避けていきたいんだよなー。

 だから、出来れば秘密裏に、こっそり、南側の様子を見に行ければいいんだが……そんな都合のいい方法が、あるか? って話でさ。


「流石にこの人数だと、気配を消すにも限界がありますよね?」

『で、あろうな。それに、いくらこの世界に来て日が浅いとはいえ、我らに比べればの話だ。あちらもあちらで召喚者として己を鍛えているのだろうし、そこまで甘くは無かろうよ』


 そりゃそうだ。というか、そこまでガバガバだったら逆に困る。レイド戦の戦力としてカウントできないって意味で。流石にレイドボス相手にうちの子パーティだけで立ち向かうのは無理があるぞ?

 夜を待つのは最終手段として、出来るだけ早めに現地を確認しておきたい。カバーさんの持っている【鑑定】の派生スキルで確認したら何か分かるかも知れないし、私や「第一候補」が近づく事で何かフラグを踏むかもしれない。

 そもそもレイドボスの情報も足りないのだから、その辺りも含めて少しでも早くイベントの攻略やギミックの確認をしておきたいんだよ。……ギミックがある前提なのかって? 今までの事を考えたら無い訳ないじゃないか。


「まぁその、異常があるのに全く痕跡が見つからないというのが既にギミックの気配もしていますし」

『どのようにして解けばよいのか、見当もつかぬがな。……やはり、何らかの手段で直接その場を確認するより他に無いか』


 で、その手段で悩んでる訳なんだよな。さぁどうしよう?


『……掘る?』


 と。ここで様子見から戻ってきて、【人化】を解除したままのんびりしていたルシルから声が上がった。うん? 掘る?


『洞窟。主なら掘れる』

「…………カバーさん。確か山って全部繋がってるんでしたっけ?」

「内海を囲むように、真南まで綺麗な円を描く形で繋がっていますね」


 相変わらずの調子で、ちょっとスキル外の読解力が必要な喋り方だが、察しがついたのでカバーさんに確認を取ってみる。同じく察したらしいカバーさんから、実質的なゴーサインが返ってきた。

 なるほど。確かに今この洞窟に居るのは私達だけだし、私なら少々の距離は問題なく殴り抜けるだろう。うっかり直線で貫通し無いようにだけ気を付ければいい話だ。


「待って姫さん。別にそれは姫さんがやる必要は無いよね!?」

「私が一番早いです」

「いや…………そうだけどっ!!」


 ワンテンポ遅れて察しがついたらしいサーニャがぎょっとしていたが、反論しかけてそれがベストだと気づいたらしく、頭を抱えていた。たぶんエルルがいたら同じ反応をするか、呆れた深いため息を吐いていただろう。

 まぁそれはそれとして、善は急げ。早めに情報が欲しいのは召喚者プレイヤー組の共通認識だし、方法さえあるならさっそく実行に移すとしよう。

 拳による山中トンネルの開通工事、開始だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る