第716話 22枚目:異常確認

 本来の洞窟にうちの子を見張り役兼お留守番として残し、カバーさんの指示に従って、カーリャさんに大体の現在位置を探知してもらう事で進路の微修正をしながら、右から2番目の通路の反対側へと新しい通路を掘る、というか、殴り抜く事になった。

 全力で殴ると確実に貫通してしまうので、力加減を考えながらだ。やってみたら大体2m四方の四角い穴を開ける事も出来たので、現在はその大きさで掘り進んでいる。

 掘り始めた時点でのイベント空間内時間は昼前。宿光石のランタンはシャッターを下ろすと、光は見えないが周囲は明るいという不思議な事になるので、その中で山の中を進んでいった。


「私がランタンを使うと、明るいのは良いんですが眩しくて何も見えなくなりますからね。「第四候補」がシャッターを付けてくれて助かりました」

『まぁ、宿光石に光を蓄積する分には、やはり直接光を当てた方が早いのは確かであるがな。場合によって使い分ける事が出来るなら、それに越した事は無いであろう』


 そんな話をしながら進む事、大体2時間ぐらいだろうか。太陽が見えていれば、天頂から傾いたかなというあたりで、加減しているとは言え掘り抜いた先で、妙なものが見つかった。

 この山は宿光石と普通の岩が大体半分ずつで出来ているらしく、その普通の岩も火山で良く見つかる類の物だったので、その組成に疑問は無かった。大量に出る岩の欠片が全てインベントリに自動で入るので、岩をどける手間が無くて良かったと思ってたぐらいだ。

 なのだが、力加減をしながら掘り進めた先で、この山の岩とは違う色の岩が、四角く組み合わされているものが出て来た。カーリャさんに現在位置を確認してもらうと、ほぼ真南だ。


「……これ、推定であるんじゃないかと言われていた水門なのでは?」

『確かに、他には無かろうが……山の中を進むと出て来たというのはどういう事だ?』

「すみません、ちぃ姫さん。詳しく調べたいので、皆さんを呼んだうえで周囲を掘り出して頂けないでしょうか」


 地上及び空から見る限りでは、山も地面も綺麗にくっ付いて、水路も水門も無かった、という話だが……地中から向かうと、何か違うのだろうか。私と「第一候補」が居る事で、何かフラグを踏んだ可能性もあるけど。

 一番ステータスの高い私がトンネルを走って戻り、エルルに軽く怒られてから、見回りに出ていたサーニャが戻るのを待ってトンネルを引き返していく。ルドルは【人化】を解いて私が抱えたので、帰りもそう時間はかからない。

 で、全員が揃ったところで、水門(推定)の柱自体を壊さないように気を付けつつ、主に内海側へ回り込むように山の中を掘っていくと……。


『うむ。空間が歪んでおるようだな。カーリャが、距離的には既に山から出ている筈だと言っている』

「やはり原因と言うか元凶は此処でしたか。地上でも穴を掘ればいいんですかね」


 水門(推定)の片方の柱の、内海に向いた面がようやく見えた所で、「第一候補」からそんな伝言があった。しかし山から出ている筈って、どんだけデカいんだこの水門(推定)。ダムかなんかか?

 角を曲がった辺りから宿光石の割合が一気に増えて来たので、もしかしなくても宿光石の鉱脈が成長して埋まったのかもしれない。まぁそれはそれとして、光が吸い取られる分だけランタンのシャッターを開けて明るさを維持しつつ、水門(推定)の形を露出させていく。

 そして水門(推定)の柱の、内海に向いた面を半分ほど進んだ時、ゴッッ!! と殴り抜いたその先の景色に、変化があった。


「うっわ。いるだろうなとは思いましたが、これはまた……」

『ある意味凄まじいであるな……こうもひしめいていては、数も数えられんが』


 それは、それなりに……恐らくそれなりに広い筈の空間を、びっしりと“影の獣”が埋め尽くしている光景だ。シャッターを全て開けた、私仕様の宿光石のランタンがあるから、こちらへは近寄ってこないようだが、あまり見ていて気分のいい光景ではない。

 早速動き始めたカバーさんを見送って足元に目を向けると、そこにはほぼ純粋な宿光石の塊がある。それはいいのだが、ランタンという光源があるにもかかわらず、その塊、もとい鉱脈にはほとんど光が蓄積されて行かないようだ。

 ……まぁ、光を消す要因がこれだけあればな。と、もう一度正面の光景に目を向ける。


「というかもしかしなくても、以前私が事故で送り込まれたのはこの中だったんでしょうか」

『可能性は高いであるな。これだけの空間異常、その中心に近い場所であったのは間違いないのであるし』


 とりあえず、あれだな。

 足場がどんな感じになっているかは分からないから慎重に行くとして、“影の獣”を入れ食いで捕獲するチャンスだ。捕縛魔法の連打と行こうか。

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