第680話 22枚目:交渉模様

 さて、どうしようか。


「僕たち『フリアドジャーナル』は各イベントにおいて最新の情報をお伝えする事に注力していまして常に新しい情報を更新し続けているんですよ! このイベントにおいてはどうしてもタイムラグが発生するのは大変残念なのですがその分可能な限り多く正しい情報を皆様にお伝えしたいと思っておりましてその一環として公式マスコットであるちぃ姫さんの事を取り上げさせていただきたいと思いまして、なにとぞ取材をさせて頂けませんか!?」

「ノー撮影で」

「実に端的っ!? ですが映像も声も無しだと僕の独り言しか映らない訳で誠に遺憾なのですがそれだと狂言を疑われる訳なので静止画の1枚絵でいいので撮影をさせて頂けないかと心からお願いしたいのですが出来ればツーショットで!」

「ノー撮影で」


 よくまぁそこまで次から次へと言葉が出てくるものだ、と一周回って感心するほどにその小人族召喚者プレイヤー……聞いても無いのに名乗った名前はコミュケーターと言うらしい……は私の周りをくるくる回りながらしゃべり続けていた。

 と言うか、撮影を断ってるだけで取材は良いって言ってるんだけどな、と思ったらそういう理由があったらしい。ますます嫌だが? 案件なのだが、コミュケーター……さんはその強い押しを引っ込める様子が無い。

 なお私は公式マスコットになった、もといあのCMを始めてみた直後のログインで、撮影許可を「口頭で直接許可を出した相手(要毎回許可)」に変更している。何気にオプションが増えていたので、これもサイレントアップデートの1つだったのだろう。


「先輩方より先に公式マスコットさんに接触出来たこの行幸を生かしたいんです! どうか僕を助けると思って撮影を許可して頂けませんでしょうか!? お願いします、この通り!」


 で、現在私は他に召喚者プレイヤーが居ないものかと他の大岩に向かっている訳だが、とうとう正面に回り込んで土下座してきた。正直に言うと、面倒。何言ってもきかないのが分かっているからなお面倒だ。


「ノー撮影以外は受け付けません」

「そこを! そこを何とか! 静止画で良いんです、1枚だけでいいんです! どうかお願いします!」

「ノー撮影で」

「公式マスコットさんと出会えたという記念という形でどうか許可を頂けないでしょうか!? 記念です、記念撮影です!」

「ノー撮影で」


 ……『可愛いは正義』の本気具合を知らないから言えるんだろうなぁ。と、思ったりしている。私とのツーショットを撮ったなんてあそこに知られてみろ。どうなるのか私すら想像できないんだぞ?

 そもそも個人名前ではなく記号公式マスコット呼びな時点でまともに相手する気が失せているのを別としても、その内どこかから〆られるだろうしな。具体的な行動が無くても、住民の好感度は間違いなく底辺まで下がるだろう。自業自得だけど。

 土下座しているコミュケーター、さんを避けて先へ進む。……素早く再び前に回り込んで土下座続行。そろそろ割と本気で邪魔になって来たぞ?


「お願いします! お願いしますっ! どうか映像付きの取材をさせて下さい! 公式マスコットさんにここまで迫れるチャンスなんて他では絶対にありえないんです! お願いします!」

「ノー撮影で」


 そりゃこんな姿勢なら誰だって近づける訳ないだろう。私だってうちの子には近づけたくない。さっきから静止画と言いながら映像って言葉が漏れてるから、一度許可したら撮影しまくられるのが目に見えてるし。

 これはもう、さっさと姿を消してしまった方が良いかも知れない。前のステージの「第四候補」ではないが、他からの接触を待たずにさっさと洞窟に行って、ヴォルケの一族雲竜族の「非実体化」を解除する方に向かうべきか。

 木々の隙間から山の方を見るが、そちらで動きがあるようには見えない。……宿光石は、溜めた光の量で硬度が変わる。50%付近なら、普通に掘り進められるはずだ。だから、特級戦力わたしがいなくても山に穴は開けられるのだが、その様子もない。


「より良い記事を出すにはより良い取材が必要なので公式マスコットさんという大物を取材するにはやはり撮影が重要なんです黙って立っているだけでいいのでどうか取材をさせて頂けませんか!?」

「ノー撮影で」


 いや、黙ってたら取材にならないだろうに。ってか、ますますやだよ。完全に加工用の素材提出にしかならないじゃないか。すごいな、さっきから勝手に自爆しまくってるぞ? 私が疑ってかかってるせいかもしれないけど。

 しかし『フリアドジャーナル』か。……ちょっとこれは、帰った後か合流できたら皆に注意喚起しておかないとな。悪意は無いかも知れないけど、善意と良識とマナーも無いだろ、このクラン。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る