第674話 22枚目:推測と変化
そこから内部時間で4時間ほどが経過したが、「人工空間獣の種」が溜まるばかりで何も変化が無い。効率的にはものすごくいいんだけど、流石に作業感が強い。
ガチャ券を集めていると思えば何とかモチベーションは保てるが、それにしたって変化が無い。この4時間だけでかなり種が集まったぞ? 本当にどれだけあるんだ。
まぁ、
「効率を上げられる、面白い発見もあると言えばありましたけど」
こう、相手を拘束するタイプの魔法があるじゃないか。鎖だったり箱だったりするやつ。それの、特に水属性と氷属性だな。それを撃つと、どうやらその中に一部が捕まった“影の獣”は、伸ばしたコードを巻き取るみたいにその中へと納まるみたいなんだ。
元が拘束系なので種を逃がす事も無く、これも魔力の扱いに含まれるのか、大火力の光属性魔法で吹っ飛ばしても捕まえている魔法に変化はない。そしてそのままインベントリに入れて「開く」事が出来たので、ちょっと効率が上がった。
なので、周囲に拘束系魔法を連打してから自分を宝石で飾り、全方位を一気に薙ぎ払える光属性魔法を撃つ。そして拘束系魔法を回収する、という方法で種を回収している。
「空間属性の魔法はどうしても詠唱に時間がかかりますからね。単純作業なら無視できない時間でした」
しかし、そろそろ一旦ログアウトしてリアル側からの連絡がこないかどうか確認してみるべきか? テントが出せるのは確認しているし、中に灯りをつけておけば“影の獣”が入り込んでくる事は無いだろう。流石に空間がロックされてしまえば、空間属性の封印魔法で捕まえられる以上は安全だろうし。
ただ問題なのは、この人工空間獣の腹の中――“影の獣”で満ちた場所が、イベント空間の仕様に近いって事だ。イベント空間では基本的にログアウトは出来ないから、ここでも出来ない可能性が高い。
フレンドリストからは、当然だが自分の様子は見れないからな。もしかすると、何らかの「ログインしているけど動けない」という表示が出ているかもしれないし。
「となると、ひたすらに連絡を待つしかない訳ですが……」
流石に通常のログインでスタートしている以上、この場所で時間加速が掛かっているとは思いたくない。いや掛かってたらラッキーだけど、流石にそれは色んな意味でアウトだろう。
それに、エルルやカバーさんが動いてないとも思えないんだよな。今回私に非は無いから怒られる事は無いだろうが、それはそれでエルルやサーニャのメンタルが心配だ。
だから、早くここを脱出して、戻りたい事は戻りたいのだが……。
「その為に出来る事はやっていますし、その上でキリが無いんですよね。さてどうしましょう」
と、言ってる間も拘束魔法は連打してるんだけど。入れ食いだな? この場では開けられないけど。後の楽しみだ。
……魔族の人って事は、持って帰って来た種を開けたら出て来たんだろうなぁ。となると、その辺パニックになってたんだろうか? まぁ混乱はするか。ジェラールさんだって大混乱だったもんな。
しかし、混乱してたからって誘拐するか? って言うのは疑問なんだけど……。
「この場所、というか、この座標が「元々どこだったのか」にも寄るような気がしてきましたね。あの人がどんな仕事をしていた人かとかっていうのも関わるでしょうけど」
……誘拐、ではなく、保護、であったならどうだろうか。あの謝罪の言葉は、保護の為とはいえ、断りなく転移の力を行使する事についてであったら、どうだろう?
残念ながら、筋が通るんだよなぁ。そしてその転移先が“影の獣”に呑まれていて、実質一方通行に、もっと言うなら、帰って来られない場所になっているなんて、当然思いもしないだろう。
となるとやはり、一度ログアウトしてリアル側で状況を聞いてみるべきか……と思ったところで、“影の獣”がざわっと動く感じがあった。うん? 拘束魔法は連打しているけど、それとは方向が違うな?
「うわ暗っ!? というか何だこれ、なんか巻き付いてくるぞ!?」
「あー、カバーさんの予想が大当たりですねー。ごしゅじーん! 無事ですかー!?」
「というか俺達の方がヤバいので早く見つけて欲しい!!」
と、同時に聞こえてくる声。おっとこれは、というかヤバそうだな!?
私は平気なのだがそれはステータスのせいだろう、と自己完結しながら、まず光の剣の詠唱。それを声が聞こえた辺りに飛ばして、続けざまに光る床(範囲回復)の魔法を詠唱。
光の剣を目印として展開する事で、まず足元を確保。床っぽいものがあるのは分かっているからね。
「[光よ包め、囲って守れ
冷たい夜の中にあっても
暖かな昼の光を感じるように
闇を遠ざけ、光を招き
不安を払い安らげる場所を此処に――ハーフ・スフィア・サンライト]!」
で、そこに、半球型の光属性防御を被せるように展開する。これで少なくとも、しばらくは大丈夫のはずだ。
どちらも詠唱枠を使うので種の回収ペースは落ちてしまうが、今は種の回収をするより優先する事がある。
「ルドルにルチル、2人とも、どうやってここに?」
「助かりましたー! ごしゅじん、無事で何よりですー!」
「ほんっとに助かった……! あぁ、あの魔族の人に送り込んでもらった。少なくとも、合流するだけならいけるだろうって……」
「カバーさんの提案でー、エルルさんとサーニャさんも承諾済みですよー」
「なるほど」
私自身もその光で囲われた、臨時の安全地帯へと入る。そして聞こえた声……【人化】してフル装備状態のルチルとルドルに聞いてみると、そんな答えが返って来た。
何があるか分からないから、特級戦力を除けば一番耐性と体力が高いルドルと、魔法全般が得意なルチルの組み合わせだったのだろう。エルルとサーニャは魔族の人への対処に残ったっぽいな。
さて、それじゃちょっと休憩して、話を聞いてみようか。それによってここからの動きが変わるかも知れないし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます