第675話 22枚目:転移先

 どうやら私の出力であり、かつ“影の獣”自身も「既に取り込まれた後」だからかそこまで勢いよく絡んでくる訳でもないらしいので、ひとまず安全は確保できたと言っていいだろう。

 その中でルチルとルドルから聞いた話によれば、私の推測は大体合っていたようだ。すなわち、あの魔族の人は転移をとてもうまく使える人で、パニック状態であった為状況の把握が上手くできず、うっかり逃げ出してしまった末に私の部屋に来たのは偶然。

 その転移の能力から、例の研究所の警備を担当していた人らしく、大混乱のまま竜族の皇女わたしを見つけてしまった為、危機感のままに研究所の貴賓室へ転移させた、と、本人は言っている、との事。


「まぁ研究所自体が呑まれていますからね。どこに転移しても“影の獣”こと、人工空間獣の中というのは避けられなかったでしょう」

「エルルさんとサーニャさんが押さえ込んでー、カバーさんが根気よく説明したら、ようやく事態を正確に把握してくれたみたいですよー」

「ただそこからしばらく、自殺しようとするのを押さえ込むので時間がかかったんだよな……」


 ちなみに、その後は魔族の人自身が突入しようとして、またそれにストップをかけるので時間がかかったそうだ。話が進まないが、事故だから仕方ない、で切り替えられる人が警備では不安だろう。

 そんな訳でさらにそこから相談した結果、ルチルとルドルが様子見というか、偵察を兼ねて送り込まれる事になったようだ。無事合流できれば良し、出来なくても耐えるぐらいは出来るだろう、という事で。

 で、耐える事が出来る=時間経過で助けが来る、という前提な訳だが。


「実はー、大神官さんからー、時間経過で転移する為の魔法を掛けて貰っているんですー」

「俺達の内どっちかに触っていれば発動するから、うまく合流できたら連れて帰れるし、そうでなくても何かヒントになるような物があったら持って帰ってくれと言われてる」

「まぁ騒動自体は伝わってますよね。大事になってますし」


 そういう事らしい。なのでルチルに【人化】を解いた状態で、頭の上に乗っておいてもらう事になった。これで帰れるはずだ。

 もちろん転移で向かった先に何があるかは分からないから、帰還までの時間には余裕がある。メニューの残りログイン時間を見る限り時間の流れに変化はないみたいだから、時計は同じで良いだろうけど。

 で、転移してすぐに合流できて、安全地帯も(私が)確保した。となれば、暇な時間が出来る訳で。


「入れ食い状態の間に回収できるだけ回収しますよ! ルドル、ランタンの持ち込みグッジョブです!」

「……本当に大丈夫なのか逆に不安になって来た」

『ごしゅじんが楽しそうで何よりですー』


 闇属性の壁魔法を設置し、空間属性の封印魔法を掛けると、重い事は重いけど、一応ステータスさえ足りていれば持ち運べるようになる。これはイベント空間で既に分かっていた事だ。

 それより吹き飛ばす方が簡単で早く済むからそうしていただけで、別に吹き飛ばす事にこだわりがある訳ではない。というか、ルドルとルチルが来た以上、巻き込み事故が怖い。

 と言う事で、せっせと闇属性の壁魔法を設置し、周りの闇こと“影の獣”が入り込む動きが緩くなったら空間属性の封印魔法を掛けて、全力で自分にバフをかける事で安全地帯に持ち込み、ルドルがランタンで照らして種を回収する、というやり方をする事にした。


「うわ、魔力がものすごく鍛えられてる感じがする」

『でしょうねー。僕でもそのランタンは使い続けるの難しいですからー』

「通りで……いや下手をすれば命まで削られる奴なんじゃないのかこれ!?」

「だから回復系のバフを目一杯積んでるじゃないですか」

「何かいっぱいかけられたのってそういう!?」


 なお帰還の転移は前兆があるのだそうで、その前兆を確認したら壁魔法の設置を止めて、設置した分を急いで回収する事にしよう。この安全地帯は……まぁ、距離が離れすぎたら勝手に切れるだろうから、放っておけばいいか。

 減らせるチャンスが来たなら減らしておきたいし、かなり望み薄とは言え、“影の獣”に呑まれた何かがそのまま転がっているかもしれない。探索を兼ねた回収だから、必要な事だ。

 ……まぁ、そもそもの原因となった魔族の人は回収した種から出て来たんだし、他にも同様の問題が起きないとは限らないが……そこは、どうにか工夫と警戒とで何とかしないといけないって話だ。


「……今回私に非は無いので、怒られないとは思いますが……エルルとサーニャの、表に出さないだろう精神ダメージが心配なんですよね。特に、私が帰還して緊張が一旦途切れた後が」

『その辺はー、大神官さんも含めてフォローが入ってると思いますがー……。僕らがこっちへ向かう時点で、かなりその辺しんどそうでしたねー』

「あっちはあっちで、事故であっても自分の非を責めてしまう2人ですからね。今後、無茶をしないといいんですけど」

『たぶんそれをごしゅじんが言ったら逆効果だと思いますよー』

「えぇ。どの口が言ってるんだと怒られますね」


 と言う心配と言うか問題もあるが、まぁとにかく、時間までは他にやる事も無いしな。カバーさんや「第一候補」もフォローに入ってくれてるだろうし、何とかなると思いたいところだ。

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