第665話 22枚目:高レア出現

 もくもくと「人工空間獣の種」の端を切り落として宝箱を出している内に、何だかガチャみたいだなぁという感想を抱いていた訳だ。途中から宝箱を開けるチームの方では、誰が一番レア度の高い資料を手に入れるか競争していたし。

 で。ガチャとするなら、何百回も回せばそれなりにレア度の高いものも出てくる筈だ。どのタイミングで中身が決まっているのかは分からないが、数を開けると、資料以外のアイテムも時々出てくるようになった。

 どうやら古代の文明と言うのは大分進んでいたらしく、本命は資料なのだが自分で使う分には便利な効果の付くアイテムの方が嬉しいという状態で、宝箱を開けるのにも熱が入っていた訳だよ。


「「「…………………………」」」


 そんな中でさ。見た目からして重厚感のある、実際解錠難易度も高い宝箱が出てきたら、期待するじゃないか。フリアドの運営はその辺のお約束を外さないし、まぁわくわくするよね?

 流石に難易度が高いって事で、競争は一旦中止、この場に居る全員で協力してその宝箱を開けにかかり、どうやら何段階にも分かれていたらしい鍵と、そこにいちいち仕掛けてある罠でそれなりの被害が出つつも、どうにか完全解錠に成功した。

 ひゃっほい! とハイタッチする召喚者プレイヤー達と、その騒ぎを聞いて興味をひかれたらしいヴォルケの一族雲竜族の子供達が見る前で、たっぷりと時間をかけて宝箱は光へと変わり、


「……すごいですね。あの“影の獣”。もとい人工空間獣とやら。古代の技術だけはあります。制御不能だとしても」

「そうね~。インベントリでは出来ないものね~。……生き物を、生きたまま入れる、なんて~」


 ぽん、と。ここまでのアイテムと同様の演出で、黒い魔法使いのローブのようなものを着た男性が出現したのだ。

 結果として盛大に空気が凍り、この沈黙となっている。流石に異様な空気を察してか、部屋を覗き込んでいる【幼体】と【才幼体】の入り混じったヴォルケの一族雲竜族の子供達も近づいてこない。

 うつぶせに倒れているので顔は分からないが、濃い紫色の髪は背中の中ほどまである上に、ブラッシングの前にシャンプーをしないとどうしようもないレベルでボッサボサのバッサバサだ。


「……でもまぁ、とりあえず、起こしてみるしかないですよね……。と言うか、生きてますよね?」

「呼吸はしてるみたいだから~、生きてはいるわね~。たぶん眠ってるだけだわ~」


 人間種族なのか【人化】しているのかは分からないが、とりあえず見える範囲で人外のパーツは無い。黒い皮手袋と黒い長ブーツを着けているから肌の色も分からないが、とりあえず見た目は身長高めの男性だ。

 ぴくりともしないのでちょっと不安になったのだが、どうやら大丈夫なようだ。そしてその言葉を合図に山賊リーダーさんが近づき、足先でごろりとその男性を仰向けに転がした。

 雑な扱いだが、起きる気配が無いので仕方ない。友好的かどうかも分からないし。ただ、ローブの下もがっつり着込んでてそれが全部黒系統っていうのはまぁいいとして、驚いたのが、その肌の色も同じくらい黒いって事だ。


「……やっぱかー……」

「エルル、まさか知り合いとか」

「初対面だ」


 そしてエルルが、その顔、というか、多分肌の色を見た途端にこれだ。どういう事?

 はー。と、頭が痛そうな顔とため息と反し、私を自分の後ろに下がらせて大太刀の鯉口を切るエルル。おう、警戒態勢越えて臨戦態勢ってどういう事だ。そんな危険人物なの?

 けどぱっと見て分かるぐらいヤバい相手なら、それこそ子供はそういうの敏感だと思うんだけどなぁ……。と、興味津々の目をこちらに向けている子供達に僅かに視線を向けるが、逃げていく様子は無い。


「見た目では分からないし、平和に済む可能性もあるんだが……ダメだった場合が、本当に厄介だからな……」

「ちなみに、どんな感じに厄介なんです?」

「見た方が早い」


 つまり見ないと分かり辛いって事か。なるほど。ちら、と視線を向けると、心得たもので「第五候補」も既に下がって距離を開けていた。山賊リーダーさんを始め、あちらもあちらで護衛が動いている。

 とりあえず護衛の態勢は問題なさそうだ、と、まだ身動き1つしない男性へと視線を戻した。しかし、髪の毛も色が濃いし、全体的に黒い人だな。それにしても住民の人もしくは種族で、こんな肌の色って見覚えが無いぞ? 見たら覚えてるだろうし。

 ある意味今更と言えば今更な疑問を覚えている間に、エルルは私を隠すような立ち位置で、鯉口を切った大太刀の柄に触れた。……瞬間、ビリッと空気に電気が走るような感覚があった。


「っおぉあああぁあ!? 何事!?」


 私は後ろに居たからまだマシだったんだろうが、たぶんこれ殺気を叩きつけたな。ある意味随分乱暴な起こし方だが、さっきまでの無反応っぷりを考えると仕方ないのかもしれない。

 がばっ! と勢いよく起き上がったその男性は、赤紫の目を見開き大慌てで周囲を見回したようだ。その様子を、大混乱になってるなー、と落ち着くのを待ちながら眺めていると、ちょっとずつ落ち着いてきたらしいその男性と、目が合った。

 瞬間。


「天使がっふぁ!!??」

「ダメだったか。お嬢、ちょっと向こうのチビ達連れて別室に移動しててくれ」

「いだだだだだキマってるキマってる!! ギブギブギブ!!!」

「えー……ダメって、こういう……?」

「説明は後でする」

「背中と肩から聞こえちゃいけない音がぁあああああ!?」


 男性、私に飛び掛かる。エルル、男性を床に押さえ込んで腕を捻り上げる。この間……多分小数点一桁か、下手したら二桁秒だ。私じゃ無きゃ見逃しちゃうね。速度的な意味で。

 どうやら私を見る余裕も無くなっているらしい男性を早く解放してあげるべく、さっさと移動するべきなのだろう。そして子供達も一緒にって事は恐らく「ダメだった場合」っていうのが、たぶん、見た目的な意味での可愛いなんだな?

 まぁ後で説明してくれるならいいか。「第五候補」もいるから、『アウセラー・クローネ』としての情報共有に問題は無いし。……いやしかし、本当に意外な展開になったなー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る