第643話 22枚目:ステージ報酬

 で、ログインすると……イベントのステージに行く前のログアウト地点である部屋のベッドだ。自分の格好を確認すると、イベントアイテムと、食べた非常食が無くなっている。後はそのままだ。

 それはまぁいいとして……と、目の前に浮かぶ、珍しく私の視界に追随してこないウィンドウへと目を向ける。


「……なるほど、これがポイント交換画面」


 そこには、私があのステージで手に入れた物の一覧と、恐らくスコアから算出されたポイントが表示されていた。そっけないリストのようなこれが、アイテムを持ち帰る為の交換画面なのだろう。

 それはいいんだけど、なんか、やけに手に入っているポイントが高いし、何より時間制限が無い。この辺りが、途中でリタイアした場合と、最後まで生き残っていた場合の違いなんだろうか?

 ポイントの高さについてはすなわちスコアが高いって事だろうし、色々思い当たる節があるので、とりあえずポイントの所をスクリーンショットに撮って……ちょっとそのまま部屋を移動してみる。


「勝手には付いてこないけど、手で持って運ぶのはあり。普通に部屋からも出れるし持って出る事も出来る。よし、皆に相談しましょう」


 たぶんカバーさんもログインしてるだろうし、情報共有を兼ねて皆に相談だ。

 と、たったか部屋から移動して、恐らく誰かはいるであろう1階の大部屋に顔を出す。今はフリアド内部時間で昼過ぎなので、遅めのご飯を食べているエルルやルディルが居るかも知れない。

 ……と思ったのだが、誰もいない。あれ? と首を傾げ、今度はソフィーナさんがほぼ常駐している厨房へと向かう。今回に限ってはログインのタイミングは同じ筈なので、なんならソフィーネさんもいる筈だ。


「……あれ?」


 が。こちらも無人だった。どういう事だろう、と一応冷蔵庫を覗いてみると、そこでは変わらずルミ達がわちゃわちゃと仲良く働いている。手を振ると振り返してくれたので、私が認識できなくなっている、という訳でも無さそうだ。

 その後、ルディルの研究部屋に行ってみたり、ルフィル達の畑に行ってみたり、ルージュの鍛冶場に行ってみたりしたのだが……見事に誰もいない。メニューを開いてフレンドリストを確認すると、ログインはしてるんだけどなぁ。

 仕方ないので最終手段。図書館或いは記録館に入って、ルールに皆が何処にいるかを聞いてみた。


『どうやら皆様、1時間ほど前に港から船に乗って移動されたようですね。行き先は恐らく、中央の島かと思われます』

「なるほど。ありがとうございます」


 どうやら「第一候補」の島に皆居るようだ。しかし召喚者プレイヤー組を含めてとなると、どういう事だ? ログイン制限が明けるタイミングは同じ筈なんだけどな。

 とりあえず港まで移動、はせずに、西側の扉から海岸が見える崖の所まで移動して、一応周囲を確認。しっかりとポイント交換画面を掴み直して、ダン! と崖を蹴って飛び出した。

 そのまま空気の足場を蹴って海の上を飛んでいく。何故って、船は操作できないからね。エルルやカバーさん任せだったから。操舵も出来るようになるべきかな。


「……エルルとサーニャに怒られる未来しか見えませんね」


 何でだろうなー。と若干現実逃避(ゲームだけど)している間に、中央の島へと到着。一応港があって船が止まっている所に着地した。あ、確かに普段は島にある船があるな。

 それ以外にも船が並んでるって事は、これもしかしなくても「第四候補」と「第五候補」も集まってるって事か? どうした。クランメンバー全員集合とか、何があった? いや、イベント関係だろうけどさ。

 でも流石に「第二候補」がこっちに合流したとかなら、私にもメールの1つぐらい届くよなぁ……。と首を傾げつつ、中央の建物に移動する。


「ルミ達のような、絶対外に出ないメンバー以外は残らず招集が掛かってるって時点で、相当に重要な事だとは思うんですが……」


 もちろん、というべきか、正面玄関すぐのロビーはガランとしていた。なのでそのまま廊下を移動し、『アウセラー・クローネ』専用の会議室へと向かってみる。

 ……ここまで来て、誰もいないと分かった時点で、それこそメールなりウィスパーなりを飛ばせばよかったのでは? とようやく思い至ったが、その頃にはもう会議室の扉が見えてるんだよな。

 よし気付かなかったことにしよう。と、その気付きに蓋をして、案の定大人数が居る気配のする会議室の扉をノックする。


「すみません。集まりがあるとは聞いていなかったのですが、一体何が起こったのですか?」


 …………おかしいな。返事が無いぞ? でも大人数の気配はするんだよな。感知系スキルがメインに入ってるから、勘違いって訳でもないだろうし。

 再度ノックをしてみるが、やはり返事は無い。うん? でもなんか聞き覚えがある声が聞こえるし、っていうかたぶんこれ「第四候補」の声だろうし、気配的にうちの子も全員いるよなぁ。

 仕方ないので扉を開け……おいこら。きっちり鍵が掛かってるとか厳重か。と言っても、流石にこの扉を壊す訳にはいかないしな。弁償できなくはないけど、作って完成するまでの間、セキュリティが下がってしまうから。


「……仕方ありません」


 またエルルには怒られるかも知れないが、一旦廊下を戻って外に出る。そこからぐるっと建物を回り込み、『アウセラー・クローネ』のメインメンバーだから各種セキュリティをスルーして、会議室の窓が見える位置へと移動した。

 そこから【飛行】と空気の足場で、窓から部屋を覗き込む。私をのけ者、あるいは忘れて、皆で何わいわいしてんだー?


「って、窓にもきっちりカーテンが閉められているとか本当に厳重な……」


 ここまでされるともう意地だ。当然ながら窓にも鍵が掛かっていたが、こちらは残念ながら、魔法で解錠できるんだよな。

 もちろん普通に魔法を使えばセキュリティが反応するんだが、まぁ私は『アウセラー・クローネ』のメインメンバーなので。その辺は全部スルー出来る。と言う事で、れっつアンロック!

 カッチン、と軽い音と共に鍵が開く。タイミングよく歓声が上がった所だったので、中には聞こえていないだろう。エルルやサーニャやルシルは聞こえたかもしれないけど。なので、ちゃんとしっかり警戒はしつつするりと中へ、と。


「……ん?」


 で、会議室の中に入ってみると。 普段は四角く繋げられている机と、均等に並んでいる椅子が、端っこに固めて寄せられていた。つまり中央に大きなスペースを開けてるって事なんだが、それはともかく。

 カーテンの下に着地をして見た先で、なんか皆が皆興奮状態なんだよね。いや、一部冷静な人はいるんだけど、それもほほえましいものを見る感じというか、見守りの態勢と言うか。

 そしてその中心に、何が居るのかと軽く目を凝らしてみると……何か、見た事のある感じの毛玉が居てね。


「雲竜族の子供じゃないですか。誰が連れて帰って来たんです?」

「お嬢!?」

「ぅえっ、姫さんいつの間に!?」

「「「!?」」」


 なーんだ、と思うのが半分、そりゃ厳重になるわ、と納得するのが半分。ちゃんと窓の鍵もかけ直して、普通に歩いて近寄りながらそう声をかける。真っ先に反応したのがエルルで次がサーニャ、後の皆は大体同じタイミングだろう。

 まぁ、私が忘れられてるのはそれも納得したけどさ。「第四候補」と「第五候補」のどっちだ? 両方か?

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