第628話 22枚目:3日目夜

「だから何で嬉々として肉体労働しようとするかな姫さんは!?」

「鍛錬の一環です」

「もうちょっと他に無かったかなぁ!!」


 案の定洞窟の拡張工事についてはサーニャからのストップがかかってしまったが、サーニャも採掘用の道具なんて持っていないので、最終的に許可が下りた。やったぜ。

 ヘルマちゃんは相変わらず私の背中に張り付いたままだが、もしかしたらこの子、非実体状態の時からこうしてたのか? と思う程の馴染みっぷりだ。何がそんなに気に入ったのかは分かっていない。

 それに夜の間は他にやる事ないしなー。光の補充の方も、魔力の回復系スキルや(光属性だけだけど)魔法スキルを鍛えたい箒使い召喚者プレイヤーの人達が頑張ってるから、私がやる事ないんだよね。


「まぁやろうと思えば、ゼロ距離で「バニッシュ」を叩き込むとかも出来ますけど」

「夜は素直に寝ようか姫さん!」


 なお「バニッシュ」とは、強烈な閃光を発するという効果の、初級の出口に当たる魔法アビリティだ。主にゴースト系の相手に猛威を振るう、味方側の閃光対策さえしていれば気軽に振り回せるタイプの便利技である。

 私ならほぼ無詠唱で、文字通り連打できるだろう。それこそ一声かけて、あの迷路みたいに入り組んだ場所の奥に行ってからやれば、誰にも迷惑は掛からないだろうし。

 流石に屋内で魔法的照明弾を撃つのはちょっと、と思うぐらいの気遣いはあるんだぞ、私だって。


「さて、これで大分「宿光石」は集まりましたが――」


 出来るだけゆるやかな螺旋と言う形を壊さないように、主に円を描いている外側を削る形で通路の直径を3mまで広げる。これなら大人の雲竜族だって通れるだろう、と一息ついたところで。


「!?」


 ふぅっ、と、急に、周囲から光が消えていった。


「――[バニッシュ]!」


 即座に地面に手を当てて閃光を放つ。ガッ!! と周囲を塗り潰す様な光が視界を埋めて、ぶわっと周囲に光が戻った。

 が、それも数秒だ。すぐに蝋燭の火が消えるように、通路全体から光が消えていく。どういうことだ――なんて、考えるまでも無い。


「[バニッシュ]! [エリアライト]! っち、時間経過で夜を過ごす難易度が上がるのは想定内ですが――[バニッシュ]! サーニャ!」

「崖の方の入り口から光が消えてってるけど、こっちは召喚者総出で対抗してる! 姫さんは大丈夫!?」

「こちらは現状対抗可能です! 来るなら強い閃光に注意してください! ――[バニッシュ]!」


 サバイバルイベント、後半戦突入。難易度が上がる節目としては、もはや「当然」だろう。しかしあれだけ谷に光を叩き込んで、それでもまだ這い上がって来るとかしつこいなんてもんじゃないな!?

 それでいくと、臨時の司令塔となっているスピンさんと、特級戦力である私が、ある意味対“影の獣”籠城戦に最大限適したこの洞窟に居たのは幸いだろうか。スピンさんからすれば、万が一に備えた安全策だったかもしれないけど。

 強い閃光で闇を追い払いながら次々と光球を浮かべていく。浮かべた端から周囲に吸われていっているが、それで洞窟自体の安全が確保されるなら問題無い。


「全く――[バニッシュ]! ここでもう一度、全滅させておく腹積もりだってんですかね、運営大神は! ――[バニッシュ]!」


 ここで倒れてしまえば、立て直しはかなり厳しいだろう。これだけの勢いで光が消えていくんだ。あの開けた場所や人工物のある場所にあった大岩だけでは、流石に防ぎきるのは難しい筈だ。

 なにせこの洞窟は、周辺の宿光石へ光を分け与える、その源になっていた筈だからだ。その光が消えるという事はすなわち、周囲の宿光石に蓄えられていた筈の光が、全て消されているという事になる。

 だからこそ、洞窟の出口へ通じる通路を拡張する時間、もっと言えばサーニャを呼び出して色々話をしている時間があったんだろうが、宿光石の鉱脈の中にあり、私がたっぷりと光を蓄えていたこの場所で、もうそこまで闇……あるいは“影の獣”が迫っている、という事は。


「どういう理屈か知りませんが、自分が消える代わりに光も消す感じでしょうか!? ――[バニッシュ]! スーサイドアタックとは面倒な!」


 同じ勢いで光が消されていた場合、当然ながら……闇に沈むのは、蓄えている光の量が少ない方が、早い。

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