第629話 22枚目:洞窟脱出
「――[隠れ騙そうとする一切を詳らかに――サーチング・フレア]!」
ガッッ!! と、至近距離で光が爆発する。普通なら目をやられるところだが、それを持ち前の耐性とステータスで耐えて続けざまに詠唱、光の輪を何重にも重ねた大きな光球を浮かべる。
これでもクールタイムを回す為の時間稼ぎにしかならないので、【光属性魔法】の方から光の玉が飛んでって着弾した時に爆発する魔法を強い閃光の向こうに投げる。結果? 見える訳ないじゃん。
視界はほぼホワイトアウトしているがそれには構わず、即座に地面から手を離して一気に詠唱を進め、思い切り魔力を叩き込む感覚で
「――[ライトランス・ガトリング]!」
本来なら数を撃てばいくらかは当たる、という、面攻撃の為の魔法だ。普段は魔力操作系のスキルとステータスでしっかりと狙いをつけてから撃つのだが、今回は狙いをつける必要は無い。何せ、周囲のどこかに当たればいいからだ。むしろ周囲にバラバラに散った方がいいまである。
放ってすぐに地面に手を当てて、目の前の魔法的照明弾に負けない程の閃光を続けざまに叩き込む。いやー、宿光石は光属性なら攻撃力があっても問題なく吸い込むっていうのが確定してて良かったよね!
【光古代魔法】から光属性の壁系魔法を「宿光石の壁の中」に設置して一気に光を吸わせる。もちろん合間に閃光は叩き込み続けているし、クールタイムを回す為に大きな光球も浮かべている。
「本当に忙しいったら――[エリアライト]! ないですねっ! ――[バニッシュ]!」
これだけやって、それでも周囲全体から削られる分とギリギリ拮抗しているかどうかってところだ。
時々サーニャによる安否確認や、スピンさんによる全体連絡という形で、洞窟の広場に居る
なお途中からあと2つの通路からも光が抜け落ち、闇……というより、影、なのだろう……が迫ってきたらしいが、そちらはサーニャが対応しているとの事。流石「昼」の竜、光関係はやっぱり得意か。
「――[バニッシュ]! とは言え――[バニッシュ]! [エリアライト]! 流石に、朝までは厳しいですかね……っ!? [照らし出せ、暴き出せ]――」
しかし難易度上昇にしても、流石にこれは難易度が上がり過ぎじゃないか? 逃げないとどうにもならない、所謂負けイベントに正面から抵抗しているような気分になって来たぞ?
問題は、もし何かトリガーを引いているか、フラグを踏んでいても、それがさっぱり分からないって事だ。まさか、サーニャを呼び出したのがアウトとか言わないよな。流石にそれはちょっとどうかと思う。
後は通路を拡張した事か? 「縁の組紐」を作った事か? 雲竜族の子供達を洗ってブラッシングした事か? それとも雲竜族の「非実体化」を解除する方法を突き止めたからか?
「――[サーチング・フレア]! さっぱり分かりませんねっ!? [バニッシュ]!」
「ちぃ姫さん! すみませんが雲竜族の子達を連れて、一旦空へ逃げる方向に舵を切りたいと思います! 流石にこのまま朝まで持たせるのは無理なので!」
「だから姫さんごめんだけど、ちょっとそっちの出口の周囲を確保してもらえるかな!?」
「[エリアライト]! 了解です! ――[バニッシュ]! ただ現状、その確認が難しいんですがっ! ――[バニッシュ]!」
「分かりました! こちらで確認及び合図を致します!」
と、考えていると、スピンさんからの要請が来た。おーけー、出口の確保だな。まぁ確保と言っても、サーニャが一瞬飛び出しさえすればブレスで吹き飛ばしてくれるだろう。鱗は全身真っ黒いけど、光属性のドラゴンさんだし。
しかし確保、ある程度の範囲の確保か。なら光を放つ、出来れば設置型、次点で領域型か? 光が強ければなお良し。えーと、クールタイムが明けてるか、連打が難しいって事で候補から外してる魔法はっと。
光、光り続ける。闇を封じる系でもいいか。時間が無いから出来るだけ大きいのを早々に決めた方が良い、つまり詠唱の時間さえ稼げれば後はまぁのんびりしてても良い訳で。
「[降り満ちる光は天の恵み
闇を照らし払う天の裁き
形なき光を刃と成して
示すは秩序の理の形
善に幸を、悪に罰を――ホーリーセイバー]!」
となるとこのコンボがよさそうだな、と判断して、まず前提条件となる無数の光の剣を出現させる。この間もしっかり【無音詠唱】と【並列詠唱】を使い、足元に閃光は叩き込んでいるけど。
私が影を食い止めていたのは、私自身が掘り抜いた直線の手前の場所だ。だから視界がホワイトアウトしていても、優秀な
幾何学模様、あるいは何かのレールのように、3mほどの直径の通路に光の剣が並んだ。筈だ。その状態を維持したまま、次の詠唱に入る。
「[天よりの光よ満ちよ
命を照らし闇から守れ
柔らかく包み傷を癒せ
傷も痛みも害意も敵意も
此処にのみは入り込むこと能わず――サンクチュアリ]!」
同時に、並んでいた光の剣を通路へと突き刺す。ぶわ、と魔力が走る感覚があり――通路全体が、今までより強く、明確に、発光し始めた。
これは光属性で棒状のものを柱、というか目印にして、そこで区切られた範囲、あるいはそれを中心とした一定範囲に発動する、設置型の回復魔法だ。
今回の場合大事なのは総合するとそれなりの回復量になる回復効果では無く、この魔法の発動エフェクトの方だ。何せ
「かなり強力な範囲効果魔法確認、推定“影の獣”、上方出口周辺が一旦全滅しました! サーニャさん!」
「任されたっ!」
そして付け加えると、その発動エフェクトと効果量は、柱とした何かの光属性の強さが係数になる。今回の場合、結構強い【光古代魔法】の
更に言えば、幾何学模様を意識した上で「中心」として発動したので、その辺も込みで大分ブーストが掛かっている。だからスピンさんが合図を出した通り、結構な範囲で推定“影の獣”は吹き飛んだはずだ。
……まぁ問題があるとすれば、これを発動している間は詠唱枠が1つ埋まるって事なんだけどな! 【並列詠唱】があるとはいえ、この連打する防衛戦でそれはちょっと厳しいと思った。だから選ぶ対象から外れていたのだ。
『うっわ、外もすごい事になってる!? けど、光で吹き飛ぶんなら――――!!』
スピンさんの声の、ほぼ直後に私の隣を駆け抜けていったサーニャ。もちろん飛び出して空へ上がるなり【人化】を解いたのだろう。しかし第一声が「すごい事になってる」とは、相当に大変な事になっているようだ。
が。それでも、サーニャだって古代竜族の職業軍人だ。そのステータスの高さは、現代において通常であればお話にならない。
――ガッッッ!!! と、光る床越しでも分かるほどの閃光が、出口の方から届いた。恐らく文字通り、サーニャがブレスで周辺を一掃したのだろう。私が昼間に谷へ叩き込んでいた、あの光の柱といい勝負なんじゃないだろうか。
「上方出口周辺、安全確保できましたっ! 皆さん脱出しますよー!!」
「「「はーい!!」」」
もちろんそうなれば、本来の目的である脱出も可能になる。スピンさんの号令で、それぞれ様々に工夫して雲竜族の子達を抱えた
もちろん私も拾って貰って、一緒に脱出する。おやヘルマちゃんは……あ、うん。変わらず背中に張り付いてるな。良かった。
後は交代で、なんならサーニャの背中に乗せてもらって、一晩の間を空で過ごすだけだ。……うん。流石に空までは届かない、と、思うんだけどな……?
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