第608話 21枚目:報酬確認

 さてそんな訳で、「氷砕ハンマー」だけはフライリーさんやカバーさんの手を(文字通り)借りてだが、レイドボスの報酬を確認してみた。

 ぬいぐるみの白熊は思った通り、使う雪によって出来上がる鎖の性質が変わるようだ。ポリアフ様の雪は寒さからの防御だったが、精霊さんの雪は氷属性への耐性、自然に降った雪は水属性への耐性、ついでに私が【水古代魔法】と【氷属性魔法】で降らせた雪はそれぞれ魔法防御と物理防御が上がるらしい。

 と言っても基本的には雪なので、暖かい所に移動すると溶けて消えてしまうようだが。溶けるにしたがって効果も弱くなるのは思った通りだけど。


「……何と言うか、使いどころが微妙に難しいですね。性能自体は結構いいのがまた」

「強化とか組合せとかしようにも、雪っすもんね……」

「元々の溶けにくさを上げるとかが出来ればいいのですが、その辺りはどうでしょうか」

「これといった意思はない、とありますし、その辺の融通が利くとはとても……うん?」


 どうしたもんかなー、と、雪の上に置いているからもくもくと雪の鎖を作り続けているぬいぐるみの白熊を見ながら相談していると、ミニ雪だるまこと、命名:ルミがちょいちょいと服の端を引っ張って来た。

 雪玉をたくさん作って、それでさらにレベルが上がったらしく、かなり器用な事も出来るようになったみたいだ。見た目は変わらないんだけどな。ファンタジーって不思議だ。

 まぁ相変わらず会話方法はジェスチャーなんだけど。さてそれはそれとして、ぱたぱたと氷の棒で出来た腕を動かしているルミは何を言いたいんだろう。……うん? 自分の胸を叩いてる?


「自分に任せろ? ……違う。自分は合ってる? ……微妙。うーん」


 しばらくそんな感じで問答を続け、結論どうしたかと言えば……。


「……そう言われれば確かに、雪像は雪像ですね?」

「質感まであみぐるみしてるからそう思えなかったっすけど、確かに雪で出来てるっすね?」


 イベントで交換したまま余ってた「氷晶の核」を埋め込んでから【絆】でテイムした。う、うーん、作る鎖の効果は平和だったし見た目も、まぁ、これなら可愛いから大丈夫、だと、思うんだけど……レイドボスのミニチュアなんだよなぁ……。

 とりあえず名前は後で考えるとして、そのどうしたって警戒が拭いきれないぬいぐるみの白熊はルミにお任せだ。……何だろう、2人の連携ですごい事になりそうな気がするような。

 で。こう、見るからに貴重品というか、実質回数限定の貴重なアイテムだろこれっていう「氷砕ハンマー」だが。


『ルミル様。そちらの装備品について、お勧めしたい装備の仕方があるのですが、提案させて頂いても良いでしょうか?』

「えっむしろこちらからぜひよろしくお願いします」


 そう。まだイベント期間だし、実は既にポリアフ様の山の北側、北国の大陸の北端に降り積もった雪は残ってたから、雪像を作って捧げて、ナヴィティリアさんの滞在時間を伸ばしてたんだよね。だってちょっとでも一緒に居たいし。

 そしてそんなナヴィティリアさんからの「オススメ」は何だったかと言うとだな。


『サイズ調節用の鎖部分を首の後ろの固定部からベルトへ伸ばし、金具にひっかけるか巻き付けて下さい。その上で、そのハンマーを鎖に触れる位置と高さでベルトへ吊って頂くと……』

「あれっ!? へたっていた「氷砕ハンマー」がみるみる直っていってますが!?」

『魔力とは存外便利な力ですよ。更に、鎖を柄に巻き付けた上から握った上で振るってみて下さい』

「うわすごい、小型とは言えメイスサイズで武器判定なのに振っても壊れない!」


 鎖の長さは(私が小さいのもあって)結構あるが、流石に武器としての戦闘は出来ないだろう。だが、便利なアイテムとして手元で振る分には問題ない。マジでか。「月燐石のネックレス・祝」が有能どころじゃないんだけど!?

 いや理屈は分かる。私が武器を壊すのは、ついうっかりと過剰な魔力を流し込んでしまうからだ。だからその魔力を流し込む部分を制御する事が出来れば、エルルが大太刀を試し振りしていたように武器を壊さず振るう事が出来る。

 うん、いや、確かに、「身に着けた者の余剰魔力を蓄え、不足した時に供給する力がある」って一文があったけど! 余剰魔力ってこの、武器を壊す分もそこに入るの!? そして供給っていうのは特殊効果のある装備の修復も含むの!?


「ルールと合流出来ましたし、これは気合を入れて捧げものをしなければ……! パーツがちょっと足りないから後回しにしていたコトニワ一周年記念ステージを再現した箱庭の作成に取り掛からないと……!!」

「何て言うか、順当に先輩が手に負えなくなっていくっすね……」

「お嬢が真剣に信仰してる神の眷属だから口は出せないが、そろそろ俺らでも抑え込めるか自信ないぞ……」


 フライリーさんとエルルが何か話していたようだが、私は何も聞いてないぞ。

 2回殴れば理論上どんな物でも必ず砕ける便利なハンマーが使い放題になった所で、何と言うか、色物枠か? という印象のかき氷機の検証をしてみたのだが。


「……ハンマーとセット、という前提ですが、これはこれでいい加減ヤバいのでは?」

「流石レイドボス撃破報酬っすね。確か総合ダメージ1位でしたっけ?」

「えぇ。私だけではなく、エルルとサーニャによる雪玉爆撃も込みですけど」

「いや、最初のブレスと俺らが目を離した隙にやらかした分で十分他を引き離してるだろ」


 かき氷機の説明文のうち、セットする物の部分に注目だ。そう、「氷」じゃなくて、「凍った物」ってなってるな?

 色々試してみたんだよ。普通に雪の塊から、海岸に出来始めていた氷、果ては【解体】で余った骨とかの素材まで。雪の塊や、海岸に出来始めていた氷はまぁ、納得できたんだけど。

 ……これ。「凍ってさえいれば」どんな物でも、美味しいかき氷になるみたいなんだよね。


「元が可食物から離れていればいる程、消費する魔力は増えるようですが、私が使う分には誤差ですらありませんからね……」

「これとハンマー持ってたら飢え死にが無くなるっすね……」

「……これは、秘密にしておいた方が良いんじゃないか?」

「そうですね。部外秘と言う事で」


 しかも、素材によっては食事バフも付くと来た。うん。エルルとカバーさんの言う通り、このかき氷機とハンマーのコンボは秘密にしておこう。

 奪いに来られても守れるとは思うけど、争いは少ない方が良いからね。

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