第603話 21枚目:追加火力

 前々から言っているが、私の場合、嫌な予感だけはどうにもよく当たる。


「さーてお嬢、また色々やらかしたみたいだが……俺は、一切、聞いて無いんだがなっ!?」

「あだだだだだだエルル痛い痛い痛いですっっ!!??」


 木曜日は祝日で、その辺うちの学校はきっちりしているというか融通が利かないというか、連休に挟まれていても平日は平日、逆に唐突な祝日でも休みは休み、という方針だ。もちろん長期休みは別で、その分微妙に休みが多いらしいとか聞いた気がする。

 なので、翌日の午前中にもいつものタイミングでログイン。

 ……して、「第四候補」と合流しようと部屋を出た所で、料理戦争状態で忙しい筈のエルルに捕まった訳だが。


「アレクサーニャが一緒に居るのかと思ってたら、あいつはあいつで俺が側にいると思ってたみたいだしな!? 顔を合わせた時に盛大に混乱してたぞ!!」


 あー! と情けない悲鳴を上げる事になってしまったが、ともかく。どうやらそういう経緯で私がやらかしている……護衛なしで動いている時点で「やらかし」判定になる……と知ったエルルは、様子を見に来たカバーさんに事情を聞いて、任せられた分を一気に片付けて文字通り飛んで来たらしい。

 え、今まで? 周りのペースに合わせてたらしいよ。多分今頃調理場には、下ごしらえの済んだ材料が山積みになっているんだろう。

 なおそこからお説教をされていると、そこそこ経ってからカバーさんがやってきて説明役を変わってくれた。何で遅れたん? ……止める暇も無かった上に追いつくのに時間がかかったか、そっかー。


「――という訳ですので、状況打破の為に必要なご協力をお願いした、という話なのです」

「火力が足りないから、現状の最大火力を動かしたんですよ」

「なるほど分かった。お嬢には「護衛」ってものの定義をしっかり教え直さないとダメだな」

「えー」

「魔力を込めるまではまだ良いとして、何で最前線に出る!! それにちゃんとした装備は身体が出来上がるまで待てって言ってるだろ!!」


 そこから更に怒られてしまった。レイドボスの討伐に貢献してただけなのに。最近海岸にある氷でもちょっと物足りなさを感じてたから、いくら壊しても褒められる氷を砕いてただけじゃないか。魔力を込める作業でまた魔法系ステータスが伸びるから、身体を動かしたかったんだよ。

 ……口に出したらなお怒られてしまった。解せぬ。


「その日に決まった予定で動くのについていくだけでも大分譲歩してるんだがな!?」

「……あー、そうか。本来ならあれですか。数週間とか下手したら年単位で動きが決まっててその通りにしないといけないという……」

「何度でも言うが、それが本来の皇族の姿なんだからな?」


 現実より動きづらいゲームとは。(遠い目)

 いっそ【成体】かその上に進化してしまえばもうちょっとこの辺の過保護(では無いのだろうが、一番的確なのがこれなので)もマシになるんだろうか……と内心で頭を抱える。まぁそれにもものすごい時間がかかりそうなんだけどね。

 当然、本来の成長速度からすれば、驚異的なのは間違いない。万年生きるのが当然の生き物が、それこそ数年の寿命しか持たない生き物と同じ成長速度とは思えないし。


「……で? あれの凍った部分を砕けばいいんだな?」

「まぁそうなんですけど。あ、あの浮かんでる奴の青色が残り1割に近くなったら気を付けてください。何か特殊な動きをする可能性が高いです」

「浮かんで……ってあぁ、あれか。前も思ったが、変わったスキルがあるもんだな」


 便利だけど。と付け加えたので、エルルはこのまま参戦してくれるようだ。確かに安定した火力って意味だと私より確実だし、何より【人化】を解除した時のサイズの違いがある。大きいって言うのはそれだけで火力に直結するからね。

 たぶんここからごねてもお説教の時間が伸びる=私もエルルも動けない時間が増えるだけなので、とりあえず黙る。あー、氷をステータスの暴力全開で砕きにかかるの楽しかったんだけどな。


「お嬢?」

「大人しく魔力を込める作業をしてますよ。実際、割と本気で時間がありませんし」

「…………砦の中に居るなら、まぁ、俺が注意を引いてれば大丈夫か……」


 相変わらずの察し力だが、だから大人しくしてるってば。それでレイドボスが、ちゃんとイベント期間内に、これ以上の被害を出す事なく倒せるんなら、そっちの方がどう頑張っても優先なんだし。

 ……後でティフォン様の試練に行くか。あそこなら問題なく暴れられるだろうし。

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