第604話 21枚目:レイドボス決着

 いやぁ流石エルルだよね。私と違って攻撃回数に制限なんかついて無いし、何より戦う事自体に慣れてるってので、削るスピードが目に見えて違うんだ。かき氷機かな? 塊で吹っ飛ばしてるから違うか。

 そんな勢いで物理・体力両方の意味で削っていけば、もちろんすぐに残り体力1割が見えてくる。回復に加速が掛かってる? だからどうした。っていう、ステータスの暴力が種族特性で納得の火力だ。

 そして、体力が残り1割を切った所で、どんな特殊行動をしたかって言うと。


「うわー、こうなりますか……」


 特殊行動の様子を見る為に「第四候補」は上空に行っているので、砦の防衛手伝いという名目で見学していた私の目の前には現在、ごうごうとうなりを上げて荒れ狂い、その割にその場へとどまり続ける、巨大な雪竜巻が発生していた。

 あの中に「凍て喰らう無尽の雪像」こと見た目白熊がいる、とかではなく、見た目白熊がそのままあの雪竜巻へと姿を変えたのだ。これは酷い。しかも水属性魔法を叩き込んだら、氷になった部分が勢いに乗って周囲に射出されるのだ。最初の周辺被害が大変な事になっていたよ。

 しかもあの雪竜巻、雪雲混じりになっているらしく、普通に雪玉を投げ込むと、氷の塊が発生して射出されるのだ。かといって強行突入しようとすると、同じく混ざっている雪の鎖に捕まってしまう。実に酷い。どうしろと? 案件だ。


「恐らく、あの中にうっすら見えてるあれが、檻兼核なんでしょうけど……」


 とりあえず今は、私が防御力を上げた砦を盾にする形で召喚者プレイヤーを適宜避難、交代出来るようにして、上空から雪玉やスライムの自爆で雪竜巻を削っていっている。

 変わらず雪像型モンスターも吐き出されているので、地上組はそちらを雪玉で迎撃している形になるな。もちろん、飛んでくる氷の塊には注意しながらだが。

 ……多分、強行突入だけなら【王権領域】で防御できそうな感じなんだけどなー。【吸引領域】を重ねて展開すれば、あの雪竜巻自体が「敵」ではあるし行けると思うんだけど。


「ま、エルルが許してくれるわけもないですが」


 いくら設定をいじれば味方は大丈夫とは言え、あんまり気分のいいもんでは無いだろうしなー。すると同行者がいなくなるから単独行動になって、単独行動はアウト対象だ。

 レイドボスが相手では何だかんだと不遇な目に遭う事の多い近接前衛職召喚者プレイヤー達が、武器をしまった状態で半ばやけくそに雪玉を投げまくっているのを見つつ、彼らを飛んでくる氷の塊から守るお仕事をしていると、全体連絡が流れて来た。

 ……どうやら埒が明かないので、雪玉を大量投下して一気に削る作戦に出る様だ。祝日の午前中だが、ここで勝負を決めてしまうらしい。


「まぁ、大型連休の頭という形にした人は結構いるみたいだし、参加人数自体は普段の休みと同じくらいにいるみたいだから、そう不満は出ない……って判断か」


 しっかり造られた砦の屋上、その塀の影に、自分への防御もしっかりかけた状態で隠れる。これだけ天気が(雪竜巻を除いて)良ければ、エルルなら地上の動き位は把握できてるだろうし。

 誰も見てないしと【魔力実体化(○○)】も使って砦の防御力を上げていると、地上組の完全退避が完了したらしい。


――ッッゴゴゴゴゴガガガガガガガガッ!!!

「っと、これはまた派手な……」


 土砂降り、いや、雹か霰が降って来た時の音を何倍にもしたような凄まじい音が響き始めた。がっつり防御力を上げた筈の砦がぐらぐら揺れる振動も伝わってくる。

 私が防御力を強化していなければ、あっという間にこの砦は磨り潰されていただろう。それぐらいの物量的暴力だが、それはそのままレイドボスの体力が削れている、ということを示す筈だ。

 流石に顔を出す訳にはいかないので、実際どれくらいの勢いで体力が削れていっているのかは分からない。まぁ雪雲に当たった分を除いたとしても、これだけ氷の塊が発生しているなら体力、というか、雪竜巻自体も順当に削れている筈だ。


「ん? おや、流石司令部」


 それでも最新の情報を求めて司令部からの連絡掲示板を覗くと、そこにはかなり離れた所から、氷の塊を四方に撒き散らしまくる雪竜巻を映しているライブ映像があった。どうやら撮影班が、距離を取った上で望遠手段を駆使し、その上で防御を固めて撮影しているようだ。

 そこに映っている青い体力バーは、思った通りガリガリと削れる音が聞こえそうな勢いで減っていっていた。残り1割からその半分を切ったあたりから、雪竜巻自体の厚みというか太さというか、竜巻自体のサイズも小さくなっていく。

 やがて、青い体力バーはほぼ真っ黒になり、雪竜巻も、再生の兆しを見せながらもとりあえず一旦視界の邪魔をしない程度に収まった。顔は出さずに動画で、その中央にあった物を確認する。


「…………、雪の鎖で出来た、かまくら……?」


 そこにあった、恐らく「凍て喰らう無尽の雪像」の本体は、大きさを別にすれば、藤籠を伏せて正面に入り口の穴を開けた様な、もしくは籠型の猫ベッドの様な、そんな何となく丸い形をしていた。目を凝らせば、その中には捕まっている召喚者プレイヤーの姿が見える。

 中に救助対象を抱えているから、もし冷人族の人達が残っていれば、ここから更に苦労したことだろう。だが今捕まっているのは召喚者プレイヤーだけだし、そもそも直接触れる必要も無い。

 ちょっとだけ間をおいて、もう一度。どざーっと雪玉の滝が降り注ぎ、その、雪の鎖で出来たかまくらを覆い隠し――


[件名:イベントメール

本文:レイドボス「凍て喰らう無尽の雪像」が討伐されました

   イベント期間内にレイドボスが討伐された為、レイドボスの特殊能力が完全に解除されます]


 以前までの物に比べれば若干短い、それでも確かな勝利宣言が、メールと言う形で届いた。

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