第594話 21枚目:決戦開始

 サーニャは大物相手とは言えただの雪像だからかノリノリだし、私も最前線で空中戦って事で大概テンションが高い。何より、ほら。ステータスの暴力を全開にした攻撃を叩き込んでも、あっけなく一撃でオーバーキルっていうのが無さそう、って言うのが良いよね。

 ざっと掲示板を流し見た限り、雪雲の下では召喚者プレイヤー達も、ようやくまともに殴れるターン&超ド級の相手って事で、ヤる気十分にテンションを上げているようだ。

 そしてそのタイミングで、さっきナヴィティリアさんから聞いた話に対する司令部からの応答があった。合図に合わせて一斉に行動開始、だそうだ。短く応じる返事を書き込む。さて、それじゃあ司令部。号令をどうぞ?


『それでは、これより。レイドボス、「凍て喰らう無尽の雪像」討伐戦――決戦の部を、開始します!』


 キィン、というハウリングにも似た音を伴い、最大限に増幅された声が、低く垂れていたとは言え雲の上である高さまで届いた。それに続く、わっ、という鬨の声も。


「まずは挨拶からいきましょうか、サーニャ!」

『りょうっかい! 別に吹き飛ばしちゃってもいいんだよね姫さん!』

「もちろんです!」


 その声と動きに、下を向こうとした見た目白熊の頭に、私が号令待ちの間にありったけの通常バフを掛けたサーニャのブレスが叩き込まれた。

 流石にサイズ差があるとは言え、それならそれでときっちり目を狙って放たれた白いビームは見事命中、結構な範囲を抉り取る。へえ、吹き飛ばしたからってその破片が雪像や雪雲になる訳じゃ無いんだな。


「[――それは雫であれど深き海

 渦巻き呑み込み、沈めて封ぜよ]」


 その間に、自分への通常バフを掛け終わってから詠唱を進める。今のはダメージとして認識されたのか、大きい分だけ大振りで予兆もひどく分かりやすい腕をサーニャが避けて、その分だけ接近した。

 そして十分近づいたところで、インベントリの準備をしながら詠唱完了。


「[水面の底の底にて、ただ眠れ――ディープシー・ドロップ]!」


 見た目は1mぐらいの水球だが、直訳で「深海の雫」という魔法名の通り、その正体は体積詐欺の超高圧な水の塊だ。それを、開きっぱなしになっている大きな口へとすれ違いざまに放り込む。

 雪像、という特性上、やはり音は伝わりにくいようだが……それでも、ドパンッッ!! という、水風船をつついて破裂させたような音が聞こえた。そのままうっすらとだが、首を中心に雪の鎖の下が凍っていくのが見える。

 意識して魔力ごと【竜魔法】を込めるイメージをしてみたら思ったより威力が上がったみたいだな。はははどうだ、これで首は動かせまい!


「まだまだ、まだまだ上空に気を取られていなければ困ります。最後の最後、削り切られるその時まで、そのまま棒立ちしていなさい……!」


 氷が見えそうな辺りを狙ってサーニャが再びブレスを叩き込み、凍った場所が露出すれば私が雪玉を投げつける。凍った場所が見えなくなれば、水魔法のお代わりだ。

 さっきは【結晶生成】のドレスアップはしてなかったからな。サーニャの前で【魔力実体化(○○)】は使えないから二重バフこそ掛けられないが、まだまだ威力は上げられるぞ?

 とりあえず、インベントリに入ってる雪玉が無くなるまではこの調子で削っていこう。たぶんその内エルルも合流するだろうし、司令部の判断によっては冷人族の人達が上空へ来るかもしれないからね。


「実質他の人達を巻き込まないように特級戦力わたしたちは上空に居るんです。そもそも隔離は完了しているなら、少々派手にやっても問題ありませんね!」

『あれ!? そういう意味で別行動だったの!?』


 間違った事は言ってないぞ。そういう面があるのは確かだから。削る時に削っておくのは基本だからね。レイドボスというのにふさわしい大きさがあるって事は、それだけの体力もあるって事だし。

 だから特級戦力が全力で火力を叩き込む事自体に問題は無い。そうでもないと削り切れない危険があるし、どうしたってあの特殊能力で「凍て喰らう無尽の雪像」内部に取り込まれる召喚者プレイヤーは出てしまうだろうし。

 うん。間違った事は言ってないし嘘もついてないぞ? ……私が最前線で戦いたいっていうのもある、っていうのを黙っているだけで。

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