第585話 21枚目:理由推測

 スピンさんに姿を消す魔法を掛け継いでもらいつつ爆弾の回収を進める。一応「第一候補」にも連絡はしたのだが、この爆弾、邪神の気配が欠片も無いので、そちらからの追跡は無理、との事だった。

 更に言えば、この北国の大陸における南半分は、火山の女神様の領域と言っていい。だから土地自体が火の属性を帯びていて、そこに火属性のものがばら撒かれていても、全く分からないらしい。

 と言う訳なので、地道に1つ1つ回収していくしか無い訳だな。でも戦闘の手を緩めたり、姿を消す魔法を怠ったりして回収しているのが向こうに知られれば、その瞬間に爆破のスイッチが押されるかもしれない。


「だから明らかに人手が必要にもかかわらず、あまり数を投入する訳にも行かないと。全く本当に細かい所まで嫌がらせを忘れないというか、分かっても防げないようにしているというか……」


 戦略的には大正解なんだよな。

 だからせめて「導火線」だけは切ってしまおうと、ある程度の幅で戦場になっていた場所を横切るように爆弾を撤去している訳だが……いや、うん、数が多いな!

 私が自分のインベントリに入れる分には爆発までのカウントダウンがほぼ止まるくらいに鈍化するので、信管と爆破信号を受信する部品相当の魔石と共鳴石を取り出す作業に比べれば手早く撤去できてる筈なんだけど、それでもあんまり進まないってどうなってんだ!


「時々【鑑定】してますが、残り時間が大体同じに減ってるって事は、どこかで作って急いでばら撒いてるって事ですしね……」

「ところでちょっと思っちゃったんですけど、この爆弾、インベントリに入れたまま時間切れになったらどうなるんでしょうか?」

「…………多分、取り出した瞬間に爆発するんじゃないか?」

「わぁ怖い。少なくとも本人は逃げようがありませんね!」

「ばら撒き切れなければ自爆テロ犯、とかもありそうですねそれ」

「本当に性質が悪いな?」


 ほんとにな。エルルの言う通りだよ。

 とりあえず自爆テロの可能性についてはスピンさんがメニューを操作していたので、司令部にも連絡がいっている事だろう。どんどん警戒しなければならない場所と範囲が増えていくが、仕方ない。

 ……しかし、確かに前線の力は削がれているし、解決に手は取られていて、メインストーリーの邪魔にはなっているが……何か引っ掛かるというか、違和感だな。


「しかしそれにしても、一体何が本命の、他の雑多な目的に隠して絶対に達成するべき、一番致命的なダメージを与える為の目的なんでしょうね……?」


 いやまぁ、どれもこれも重要な場所で、やられると大変な事になるのは間違いないんだが。街への襲撃って時点で通すとかなり致命的なんだが。それでも何と言うか、こう……メインストーリーが進行不可になる、そんなダメージを狙ったもの、ではない、気がするんだよな。

 そもそも、今月の月イベントにして、メインストーリーの会場は、氷の大地だ。冷人族の人達がメインで暮らしていて、信仰の主体であるポリアフ様達が居る北国の大陸北部ならともかく、南部に何か関係があるという線は薄い。

 が。実際に襲撃は発生している。もちろん繰り返すが、重要ではないという訳ではない。当然ながら重要だ。超重要だ。実際襲撃が発生している現在、大変困っている。だが……。


「……そうか、だとしたら、タイミングがおかしいんですよ」


 あのゲテモノピエロ達は、恩寵洞窟を探索し尽くしていた。それは罠の分布や密度からして間違いない。と言う事は、火山の女神、“熱岩の火山にして黒煙”の神の状態……推定元凶による堅固な封印状態も認識している筈だ。

 そしてこの爆弾をばら撒くのであれば、わざわざ遠隔作動が可能にしたり時限式にしなくても、あの女神を怒らせるだけで爆発する。何せ、熱を司る女神なのだから。

 1つでも回収し損ねれば被害が出る。そっちの方がこちらから見た被害は甚大だし、回収の難易度は跳ね上がる。だが、現在それは不可能だ。……なのに実行した、という事は。


「今、このタイミングで、「何か」を壊す……「壊し尽くす」必要があった? 1つも無くなれば、或いは一定量を下回ればメインストーリーが実質詰むような、重要な物が?」


 さて問題だ。今回襲撃があったのは、北国の大陸において大きな集落の形として残っている渡鯨族の街と人魚族の街、そして女神の神域に繋がる恩寵洞窟の3ヵ所。

 これらに共通して「一定以上の量が存在する」或いは「余裕を持った量が蓄えられている」物……物資、資源の類とは?


「……山火石」


 街だけなら食料の類も候補に入るが、恩寵洞窟を含めるならばそれしかない。そして現在山火石の新たな供給は無く、大陸の除雪を行って見つかった分の山火石は貴重な燃料としてさっき上げた2つの街に蓄えられている。

 また供給が無いとは言っても、恩寵洞窟の中をよくよく探索すれば、それなりの量の山火石が見つかるだろう。そして山火石は燃料として使われる。すなわち可燃性……燃えるのだ。

 爆薬の面攻撃によって、少しでも火がついてしまえば止めるのは至難の業だろう。そんな熱量が発生すれば、運営からの女神封印維持措置として、どれほどの降雪が発生するのか見当もつかない。


「最悪、再び大陸が雪に閉ざされた上で、暖をとれない状態になる……?」


 うん。

 実はまだちょっと違和感があるんだけど、この時点でいつものように最悪過ぎるんだよな……!

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