第579話 21枚目:レイドボスの能力

 前にも言ったが、この世界フリアドにおけるドラゴン、竜族のブレスは、着弾地点で爆発する仕様の、本人(竜)の色と同じビームという形をしている。

 正しくはそのブレスの属性らしいので、一部例外(エルルとかサーニャとか)はあるし、私は直前にかけるバフによって毎回色味が変わったりしているが、まぁつまりは色を見ればそのブレスの属性は分かるって事だ。

 で。青色っていうのはこの世界フリアドにおいて「水属性」を示す属性で、紫に近い程お湯に近く、色味が濃いと深海に寄っていき、そして透明に近い程……温度が低い、という事を示すのだそうだ。


『白い色が混ざると氷になりますが、まぁ一応今回は、極端に冷たくても水の範疇に収まったでしょう。たぶん』


 上空で空気の足場に乗り、【人化】を解いたまま巨大なクレーターと、それに負けない大きさの見た目白熊の雪像を見下ろす。

 通常の状態、無属性であれば純粋な魔法攻撃だが、属性付きのブレスはその属性の特徴が大きく出る。なので今回、水属性のバフをかけれるだけかけた状態で撃ったブレスは、ほぼ高圧の水と言っていいだろう。

 で。最初の交戦で分かっていた通り、あの見た目白熊は水属性の攻撃をぶつけられると、雪で出来たその身体が氷に変わり、特殊能力であろう謎の取り込みを行えなくなる。だから遠慮なく、全力で、頭から首を狙って叩き込んだんだが。


『なぁ「第三候補」。やる気出してんのは良いけど、これもうこのまま袋叩きにして終わりじゃね?』

『正真正銘のレイドボスがこの程度で終わる相手なら、今まで苦労してないんですよね』


 とか思いながら様子見、そして掲示板で状況の確認をしていると、「第四候補」からウィスパーが飛んで来た。声でもそこそこ引いてるのが分かるってある意味器用だな。もしくはフリアドのシステム周りが優秀なのか。


『いやでもちょっとおま、あのサイズだぞ? それが、雪像だったのが綺麗に氷像になってんじゃん』


 いやー、自分のステータスの暴力っぷりを舐めてたよね。着弾後爆発する仕様で、水属性ではあったけど水そのものでは無かったからか、それとも「1発」という計算だったのか……うん。空気が入ったのか仕様か、内部に近い程白くはあるんだけど。

 綺麗な氷像に変わったよ。レイドボスが。


『少なくとも身動きは封じられたようで良かったです』

『いや、体力バーを1本と3分の2も吹き飛ばしておいて何言ってんの? 案件だぞ?』

『まだ1本以上残ってるじゃないですか』

『わーぉ。これ本気で体力全部吹き飛ばす気だったな。イベントにならないだろ! わんぱく竜姫!』

『だって前振りの時点で長引けば長引くほど厄介な事になりそうでしたし……』

『あっ良かったやり過ぎの自覚自体はあるんだな』


 ……いや、その、反省はしてる、よ? ちょっと、入れた気合以上の成果(ダメージ)が出て、自分に自分でびっくりしただけで。


『あ~とりあえず「第三候補」』

『はい』

『お世話係君達が、お説教スタンバイしてるから大人しく降りてこような』

『……はい』


 まぁそうなるよなー…………。




 戦闘中という事で短め()なお説教が終わった所で戦場を確認してみると、巨大な見た目白熊は、とりあえず雪像に戻っていた。……何か一回り小さくなってる気がするけど。

 私の状況を察したか聞いたらしいカバーさんから、大体の経緯が書かれたメールが届いていたので、観戦しながら確認だな。一回り小さくなってるのに体力バーはほぼ全快のままとか、どうなってるんだろうね?

 ……バー自体が緑色で、ダメージ部分が赤色って部分に、ちょっと引っ掛かるものもあるし。


「えーと……」


 カバーさんからのメールによれば、私が全力のブレスを叩き込んでしばらくは、召喚者プレイヤー側の司令部が、一気に体力が削れたことによるカウンターがあるかも知れない、と警戒して、動くのを控えていたらしい。

 ところが何分経っても動きらしい動きが無い。これはもしかして何も問題ないのでは? と判断した司令部は、相手の動きが無いのを最大限に活用する為に、あれこれと主に調査系のスキルを試してみたんだそうだ。

 本来なら戦闘しながら調べさせられる予定だったからか、それらは相手の厄介さを考えると割とあっさり成功。大半は「凍て喰らう無尽の雪像」の名前の後に「凍結」の状態異常がついているだけだったのだが、一部、違う表示が出た部分があったらしい。


「足元の凍りきって無かった毛、もとい雪の鎖と、ちゃんと空洞になっている口の中……ってそんな所まで」


 頭の上まで箒で飛んで行って、そこからよじ降りて調べに行ったようだ。無茶するなぁ。……戦闘中に調べる前提になってるのを考えると、相変わらずの運営大神だけど。

 足元に残っていた雪の鎖は、やはりあの「凍てつく縛鎖の雪像」だったようだ。ただしこちらには「これは使用後の~」という一文が無かったので、身に着けさせられれば酷い事になるのは間違いない。

 と言うか、流石の検証班と言うべきか。数名の有志の頑張り()により、大体の効果は掴んだようだ。具体的には身体の何処かに巻いて輪を作れば「身に着けた」判定になるらしく、その場で火属性の魔法を使って氷をとかそうとしはじめたので、慌てて止めたらしい。


「やっぱり火属性を使うと相手の利になるんですね。……で、中身(魂)は「結晶化」という特殊な状態異常により、一切の身動きが取れない状態になっていたと」


 何が最悪かって、この状態異常時間経過で解除されないんだよ。中身(結晶化した魂)を対応する身体にくっつければ解除できる、というのは既に知れ渡ってるから、解除自体は出来るんだけど。

 そしてちゃんと空洞になっている口の方だが、こちらは「凍て喰らう無尽の雪像」の名前の後に、そのものずばり、「特殊能力」の説明があったらしい。……まぁ、戦闘中に調べる必要がある、って前提の事考えると以下略。

 で、その「特殊能力」だが。


「……鎖で引きずり出した魂を自分の回復に回すのみならず、空になった身体を能力ごと雪像としてコピーして無限召喚ですか……」


 うん。だから何て言うか、口の中、っていうより、あの雪像の、体内、って言った方が多分正確な表現になるんだろうね。いやぁ、最初の数人がとりこまれた時点で氷像に変えて良かった。

 なので、頑張って腹にあたる部分の氷を砕いて取り込まれた召喚者プレイヤーを救出、元の状態に戻し、ついでに一緒に居た、未救出だった冷人族の人達も助け出したらしい。

 ……ご丁寧な事に、腹の中は個室の牢屋風になってたんだって。たぶん通常の状態なら雪で出来ていたんだろうって話だし、それで合ってるだろう。何せ、名前にも「雪像」と入っているのだから。


「名は体を表すと言いますが、ある意味ド直球な……」


 で、そこから核らしいものはないか探しながら腹を中心に氷像になった「凍て喰らう無尽の雪像」を壊していったのだが、その壊した範囲が大体全体の3割になったところで、あの低い音が何処からともなく聞こえ出したらしい。

 何か絶対やばい行動の前兆! と察した召喚者プレイヤー達は迅速に退避。クレーターからも出た所で、氷像になった「凍て喰らう無尽の雪像」が勝手に砕けて壊れたらしい。

 そこから山積みになった氷は雪に変わり、再度白熊の形をとって、暴れていると。なお小さくなっているのは、そこまでのなんやかんやで、氷になった一部をクレーターの外まで運び出していた分のようだ。


「そしてその「低い音」が聞こえ始めた時点で、あの緑色の体力バーが一旦真っ赤になっていた、と。……絶対ギミック系ですよね。知ってましたけど」


 色々試しつつ正面戦闘でどうにか出来そうなものか? というのを検証している段階が、現在のようだ。そっちは、ギミックをどうにかしないとまぁまず無理、というのがほぼ確定してきたらしいけど。

 さーて、今回のレイドボスにおける「本体」は、一体どこにあるんだろうね?

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