第569話 21枚目:クレバス攻略中

 とりあえず、大体の経緯と状況は分かったのでログイン。改めてクランメンバー専用の掲示板を確認する。……うん。大体大筋は間違ってなかったな。こっちの方が細かい所が色々はっきりしてるけど。

 どうやらエルルとサーニャは雪雲をどうにかするのに忙しく、皆は皆で雪像作りに忙しいらしい。カバーさんは言わずもがな、ソフィーさん達生産組もフル稼働状態だ。

 まぁ生産は追いついて無いだろうな、って事で、掲示板の最後の辺りに書いてあった書き込みに了解の返事を返し、移動する。どこへだって? 決まってるじゃないか。生産拠点だよ。


「水属性の大技のお札を使って一気に除雪を進めるのはセーフなんですね。……推定、冷人族の方々(の身体)が巻き込まれなければいいんですけど」


 火属性はダメでも、水属性で特大の氷にするのは問題ないらしい。雪のままより運びやすいんだってさ。雪像にはできないから、海にぽいする事になるけど。

 どうやら複数のクランが取り決めをした上でチームに分かれて、どこが一番早く深くクレバスを掘り進めるかの競争になってるみたいだ。まぁその方が、単なる作業よりやる気も出るだろうし効率も上がるだろうけどね。

 なお、元々あった氷の大地の氷と、この世界に由来しない(?)雪を凍らせた氷とでは、やっぱり何か違うらしい。大規模に凍らせても、綺麗にそこでひび割れが止まったり剥がれたりして、一緒に動く事は無いようだ。


「まぁ、推定この大陸のテーマである除雪がスムーズかつ素早く進むんなら、手段を選んでいる場合ではありませんが」


 さーて、制御力強化訓練でもある生産作業を頑張るか。しかし現金がまた溜まるな。いっそ、クランハウスの周りにある島をお買い上げしてしまうか? 「第一候補」経由で海の神に相談したらいけないかな。対価がお金とは限らないかも知れないけど。




 という訳で金曜日夜は終了し、土曜日だ。ここからがある意味正念場だが、正直まだヒントも手掛かりもフラグも足りてない気がするんだ。さてどうしたものか。と思いながら午前中のログイン。

 とりあえずは生産を進めて全体の動きを加速するのに集中するか……と、いつもの流れでクランメンバー専用の掲示板を確認し、内部掲示板の内容もざっと見まわして、特に変わった情報や叫びや動きが無いのを見てから生産拠点に移動する。

 どうやらルディルとルフィル達は休憩中のようで、姿が見えなかった。槌の音はするから、多分ルージュは作業してるな。……そして相変わらず、注文票は山積みになっていると。


「ははは。全く、大人気ですね、私達は」


 正しくはその生産物はだが。もうちょっと生産職な召喚者プレイヤーが増えてもいいのに。割と切実に。手が足りない。需要と供給のバランスが大変な事になってるんだぞ。

 それでもまぁ消耗品の不足で全体の動きが止まるなんて事態は絶対に避けるべきなので、よし、と自分に気合を入れ、ついでにバフをかけて作業開始だ。

 と、作業台である机に向き直った所で。


――ォォオォオォォォ――

「?」


 遠くから、風がうねるような、酷く低い音が聞こえて来た。あまりにも遠いものだから、ステータスの暴力である私でも、上から聞こえたのか下から聞こえたのかが分からない。

 この雪に覆われた氷の大地で、基本的に音と言うのは吸われるばかりで響かない。だというのに、どこかに籠るような、あるいは反響を何重にも繰り返したようなその音は、1度で止まらず間隔をあけて何度も聞こえて来た。

 作業に入るのをちょっと止めて、もう一度掲示板を確認する。……それっぽい話は何処にも出てないな。でもこれ、気のせいと言うにはちょっと苦しいぐらいにうるさいぞ。


「少なくとも、昨日の夜まではこんな音は無かった筈だし……」


 誰もいないので素が出たが、首を傾げるしかない。が、放置して良いものでもない気がする。と言う事で、一旦生産部屋を出る事にした。向かうのは、皆が雪像を作っている(筈の)場所だ。

 ここなら誰かはいるだろう、と思って顔を出してみたその場所は、相変わらず賑やかで、私が寄ってきたことで更にその賑わいが増したようだが……おや、どうもうちの子の姿が無いぞ?

 ルディル達もいなかったしどうしたんだ? としばらく周囲を見回していると、残像が見える勢いで私への防衛ラインを構築して見せた推定可愛い好き召喚者プレイヤー達から、うちの子の行動報告があった。


「たぶん、内部時間昨日の夜に帰って行って、そこから見てませんよ」

「普段ならそれこそ日の出る動きに合わせて、揃ってくるはずなんですけど」

「何か頭痛そうにしてなかった?」

「してた気がする。特にショタっ子とくろうさ」


 ……最後に関しては、多分ルチルとルシルかな。どうやら結局【人化】はしないまま過ごしているようだ。まぁ、だろうなとは思ったけど。

 とりあえずはお礼を言って、ルシル達が休んでいる筈の場所へと移動する。しかし、頭が痛そうにしてた、ねぇ。この妙に低い音と関係あったりするのか?

 って事は、日付が変わってから6時間の間にこの低い音は鳴りだしたって事になるけど……とか思いつつ、生産拠点と同じ氷ブロックで出来た建物の、別の階へ向かった。


「おはようございます。調子が悪いと聞きましたが、大丈夫ですか?」


 こんこん、とノックして順番に声をかけていく。個室だからね。……しかし、返事が無いな。

 っていうか、本当に大丈夫か? あれ? もしかして、思ったより大丈夫じゃなさそうな感じかこれ!?

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