第568話 21枚目:雪の城の下

 どうやら金曜日の日中に雪の城地上部分は削り切れたらしく、学校から帰ってきてまず目を通した外部掲示板は「その下」に関する話題で持ちきりだった。……いや、正しく言おう。雪の城を削り切り出て来た「その下」に関する話題で、悲鳴や絶叫を多数含んだ阿鼻叫喚になっていた。

 私がログアウトした時点では、流石に上部分が全部なくなると1階相当の場所でもそれなりに修復速度が落ちるんだなーというのを見ながら雪玉を氷の塊にぶつけていた段階だったので、ちょっと経緯を辿らなければならないけど。

 いやまぁ、ログインすれば、クランメンバー専用掲示板に詳しい経緯が載ってると思うよ? 思うけど、ログイン時間はちょっとでも活用したいじゃない?


「えーと、この辺が昨日の夜だから、ここから先は……こっちか」


 それっぽい場所を探し当てて読み進めていくと、雪の城を崩し切ったその先に、最終的に現れたのは、非常に規模の大きな割れ目の形をした谷――クレバスだったらしい。

 もちろんその上にあった雪の城の事を思えば、幅10mあるなし、長さ数百メートルほどのそれは、むしろ小さいぐらいだろう。結構な弧を描いているらしく、もっと幅の広い所もあるようだが。

 氷の大地、の名の通り、全てが分厚く冷たい氷で出来たあの場所に出来た割れ目。その深さは今の所、その内部に割とぎっしり雪が積もっている事もあって不明なままだ。


「なるほど。高さがマイナスになったら雪玉による攻撃の対象外になるんだな。雪雲はまだ残ってるし、氷の大地が基準だから周りの除雪には使えるみたいだけど」


 そういう訳なので、一旦除雪は諦めて、内部にある通路のような場所を通って探索する事になったらしい。もちろんここにも罠があるし、構造は変わるし、モンスターは神出鬼没だしで、大分難易度は高かったようだが。

 それでも、通路を無視して階段状になるように除雪を続けていく事を並行し、数を頼みに探索を続けていったんだそうだ。雪雲対策に特級戦力が必要な以上、この探索は数の力で攻略できる筈だという読みもあったっぽいな。

 その読みは大体合っていたらしく、クレバスの幅いっぱいに左右から階段を掘る事で穴の深さも増して行けたし、探索自体は順調だったのだが……。


「……あー……」


 どうやら深さが10mを越えた辺りから、ちらほら、白い髪に青い目の、非常に白い肌をした、人型の姿が見えるようになったらしい。

 何故「らしい」かというと、姿を見かけたその全員がほぼ例外なく氷漬け……雪玉1つでは解除できない重度の「ヒット状態」に陥って、身動きが取れなくなるか、そのまま死に戻りしているからだ。

 一部例外、【契約】でテイムした雪像を連れていた召喚者プレイヤーは無事だったが、それでも姿はほとんど捉えられなかったとの事。逃げ足が速い上に、どうも罠の類を無視して動けるみたいなんだよな。


「……何と言うか、ここで来るかー。いや、分かっちゃいたけど。いるだろうなとも思ってたし、いなきゃおかしいし、放置はまず無いだろうなって思ってたし」


 で。白い髪に青い目、非常に白い肌。ついでにその身に着けているのも非常に白い、北国の大陸北半分における民族衣装の、行動だけを見るなら割と敵対する、謎の人型の姿。

 召喚者プレイヤーに限らず、一緒に行動している住民の方も大方は察したその特徴は、ポリアフ様曰くは冷人族である筈との事で……これで、目撃出来次第吹っ飛ばす、と言う事が出来なくなった。

 今は可能な限り捕獲を、そこまで出来なくてもせめて【鑑定】ぐらいは通せないかと奮闘中なようだ。が、その成果がどうかというと……阿鼻叫喚な訳だな。


「まぁ、少なくとも身体は氷属性特化が、氷属性極な環境にいれば、そりゃ強いだろうなぁ……。しかも、こっちは攻撃できないけど、あっちからは攻撃し放題だし」


 とりあえずどういう判定なのか、【契約】でテイムした雪像を連れている召喚者プレイヤーなら問答無用の氷漬けにはされないらしいので、内部探索は雪像連れの召喚者プレイヤーが行い、それ以外は総出でクレバスの掘り出しにかかっているらしい。

 まぁいくらややこしい構造になっていても、外から崩されたら意味は無いだろうし? 数の力が必要って事で、これはこれで正解なんだろう。たぶん。雪雲からの降雪を防ぎ続けているという前提と、掘り出された雪がちゃんと処理されているって前提があってこそだし。

 特級戦力と、新人プレイヤーと、一般プレイヤーが、同じ位にはちゃんと仕事をしてないとうまくいかない状態だからね。


「イベントとしては、たぶん間違いでは無いんだろうけど」


 ただ、ちょっと違和感と言うか、引っ掛かると言うか、嫌な予感と言うか。間違ってはいない、間違ってはいない、と思う、けど。

 ……時間的に、間に合うか? って。そう、ちょっと思うだけで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る