第561話 21枚目:核の正体

 氷の大地に大群を形成している雪像から引っこ抜いた「氷晶の核」を、女神様の雪の上に置いてみること10分後。


「緊急事態です「第一候補」っっ!!!」

『ぬおっ!? ど、どうしたのだ「第三候補」』


 私は【氷精霊魔法】で作った氷の箱を持って、ポリアフ様の神殿に突撃をかけていた。フライリーさんは氷の大地で戦っている司令部に連絡を入れている為、試してみた場所に残っている。

 どうやら女神様達から何かお話を賜っていたか、あるいはこちらからのお伺いをしていたのか、「第一候補」の姿は祭壇が安置されている一番奥の部屋にあった。

 ざっとその場に視線を巡らせると、ポリアフ様達“雪衣の神々”が4姉妹揃って顕現している。ラッキーだ!!


「これを、いえ、こちらの方を「確認」して下さい! 今すぐ!!」

『うむ? 箱、いやその中の……雪玉か?』

「そうですがそうではありませんっ!」


 失礼は承知の上でそのまま駆け寄り、その場にいた神官と護衛の人達に止められる前に「第一候補」の近く、ひいては“雪衣の神々”である女神様達の御前に、その氷の箱を差し出す。

 厚み1㎝ほど、外寸で20㎝四方ほどの立方体であるその箱は、上の一面が無い事で開いている。そしてその中に、直径10㎝ほどの雪玉が1つ、私が振り回した勢いに負けてころころと転がっていた。

 なお「確認」とは、【鑑定】を始めとした各種スキルを使ってその詳細情報を引き出す事だ。あいにく私ではその「状態」しか分からなかった。だが「第一候補」ならもっと情報を引き出せるだろうし、女神様達が直接みてくれるならもっと確実だろう。


〈そんな……っ!?〉

『……………なんだと』


 真っ先に気付いたのは、やはりというべきかポリアフ様だった。口を手で覆って零れた言葉に続く形で、絶句した、という形容そのままの声で「第一候補」が呟く。

 箱を差し出してすぐ「第一候補」の隣で膝をついた私に視線が集まる。だから緊急事態って言ったし実際ステータスの暴力全開で飛んで来たんだろうが!


「御前に突然失礼いたします。こちらは氷の大地にて召喚者と大規模な戦闘を繰り広げている雪像の群れから入手する事が出来た「氷晶の核」という結晶を、女神様の雪の上に置かせて頂いたところ、このような姿へと変わられました。現在私の友人が、大規模な戦闘を指揮している召喚者に、同じ事を伝えています」


 そのまま、詳しい話を聞く前に私が把握できたことを伝える。……冷静になれ、というかなって下さいお願いします、という念も込めて。

 その念が通じたのか、あるいは冷静にならないとまずいと思ったのか。もしくはもう最低限でも動き始めているという事を知ってか、ポリアフ様達も「第一候補」も、それ以上取り乱す事は無かった。代わりに、もう少し詳細に「確認」しているのか、若干の間があったが。


『…………そうだな。まず、「第三候補」。危急の知らせを、最速で知らせてくれたこと、感謝する』

「いえ、正直私ではお手上げでしたので。他の誰が気づいても、ここへ持ち込まれる案件ではあったでしょうし」

『動きも的確である。指揮を執っている彼らならば、その意味を即座に理解し、徹底させるぐらいは出来るであろう。そうだな、とりあえずまずは、どうして気付いたのだ?』

「以前、雪を用いた祭りを大神が開催しましたよね? その時に大神より頂けた「氷晶の核」と今回の物を比べてみたところ、先程話に出た友人が違和感を覚えたようでして。この世界の物ならぬ雪の上に置くと敵対する雪像になる、ならば女神様の雪ならどうなるのか、と思ったのを試してみた、というのがきっかけです」

『……そうか。その友人とは、妖精族における管理者の資格を持ったものであったな? ならば、その辺りの違いに気付くのも道理だ』


 ふ――――、と、深々とした息を吐きながら納得を見せる「第一候補」。……詳しくない私からすれば、そうなん? という感じなのだが、まぁそういう事なんだろう。何でそうなるのかは分からないけど。

 一旦自分の口元を覆って絶句していたポリアフ様だが、まだちょっとおろおろしながらでも、再度その見た目雪玉を「確認」しているようだ。流石にこの女神様なら詳しい事が分かるだろうから、是非教えてもらいたい。というか、女神様でダメならもうどうしようもないし。


「神前にて失礼いたします」


 同じく「第一候補」も「確認」しているのか、或いはポリアフ様の動きを待っているのか、周りにいる神官や護衛の人達が緊張しながらざわざわしている中、パストダウンさんがやってきて、私と「第一候補」の少し後ろに膝をついた。


「氷の大地において群れを成していた雪像から取り出される「氷晶の核」ですが、現在その核を使われた雪像は存在しておらず、全てが核の形で確保されています。また可能な範囲の内ではありますが、戦闘中に砕かれてしまった「氷晶の核」も確認されておりません」


 恐らく、フライリーさんから司令部に連絡が行くなり即座に、なんなら最優先事項として割り込みをかけて確認してくれたのだろう。ありがたい事だ。そして、分類としては朗報だ。良かった。……いやまぁ、雪像に埋め込んでも取り出せばいいんだろうけどさ。

 いやぁ、まぁ、正直な所、びっくりしたよね。女神様の雪の上に置いて、雪が動くまでは想定内。それが、今の雪玉の大きさと形になった所で止まった時点で疑問符が浮かんで、どういう事だと【鑑定☆☆】したら、


[アイテム:冷人族の魂

説明:何らかの手段によって身体から引き剥がされ、結晶化した冷人族の魂

   “雪衣の冷山にして白雪”の神の力を借りて辛うじて己の正体を取り戻した

   死んではいないが、生きてもいない不安定な状態

   会話を始めとした意思疎通は不可能]


 ……こんな情報が出て来たんだから。

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