第533話 19枚目:見えた背景

 何だかよく分からない、少なくとも「第一候補」の言った「厄介事」という言葉はど真ん中を捉えた問題が発覚した、翌日のログイン。


「…………やるような気はしてましたがやっぱりやりましたか」

「待って何そのほぼほぼ軽蔑に近い冷たい目は!? 違う! 違うから! 何考えてるのかは大体分かるけど違うから待って!!??」


 エルルとサーニャに加えて雪だるま(名前未定)がいるし、そもそも「第四候補」の所に居る使徒生まれのお姉さん達がパーフェクトな防衛戦をしてるって事で、そのまま「第四候補」の砦に部屋を借りてログアウトしたんだよ。

 で、さっそく現状を確認しようと思って、司令部にもなっている雪玉を作るスペースに移動したら、そこにはこう、わらわらという感じでたくさんの動く雪像が居てだな。せっせと協力して雪玉を作ってたんだよ。

 それはいいんだが、その、明らかに新しく増えてる雪像って言うのが、全員1人残らず美女の姿をしててだな? 雪像だからか、そこそこの割合でかなりきわどい格好をしていてだな? その中に混ざって、にっこにこの笑顔で雪玉を作ってる「第四候補」を見れば、こうも言いたくなるだろう?


「現使徒生まれの彼女達の事を考えれば納得しかない訳ですが、いまさら何が違うと?」

「ぐわああああ迂闊だぞ過去の俺! いや後悔は一切してないけど! そうじゃない、そうじゃないんだ!!」

ロリっ子わたし相手にその釈明は色々と誤解を生むと思いますよ」

「何を言っても詰んでる感!!!」


 それでも一応話を聞いて見ると、どうやら検証の一環、というか、その結果だったようだ。

 例えば他の人が作った雪像に「氷晶の核」を埋め込むとどうなるかとか、そこをさらに別の誰かがテイムするとどうなるかとか。そのテイムも【絆】と【契約】で何か違いは無いかとか。テイムした状態で主を変えるとどうなるかとか。

 その結果、作り手と「氷晶の核」の埋め込みは作り手が優位、テイムが加わると特殊ルールの3人決闘が発生、埋め込みとテイムが同一人物ならテイムは成功、一度テイムして以降はそのテイムに使ったスキルに準じる、という事が分かったらしい。


「なるほど。……で? 肝心の美女の雪像ばかりが集まっている理由とは?」

「そこはー、そのー、スキルレベルの関係で最終的に俺のとこに集まる事になったというかー、動くのは良いけど面倒は見切れないって涙をのんだ同志の志を継いだというかー、ほら俺って甲斐性って奴が高いし!? 【契約】と【絆】のスキルレベルとか稼ぐ手段とかを含めたテイム的な意味で!」

「要するに趣味と」

「すげー雑にまとめられたけど否定できない!!」


 まぁ私もうちの子をほぼほぼ可愛いで揃えている以上否定はしないけどさ。使徒生まれの彼女達のヤン属性が刺激されても知らないぞ。

 後は、建物や風景を模した雪像に「氷晶の核」を埋め込むことは出来ないとか、あまりにも架空の生物である雪像は動きがとてもぎこちなくなるとか、完成度や作りこみがそのまま素のステータスに反映されているとか、そういう事も分かったそうだ。

 ちなみに一部行動に必要なスキルは、ちゃんと強度を保って作りこんでないと反映されてないとの事。例えば私はワイバーンの雪像を作ったが、ステータスの暴力でしっかり固めた雪を使っていたおかげで飛んでいる。が、普通は小鳥でもなかなか飛べないらしい。


「いやー、一回見せて貰ったけど、酷いなあの空爆。誉め言葉だけど。お世話係君がワイバーンの雪像連れて、ドバーッと雪玉を落としていくの」

「対空防御は殆ど育っていない世界ですし、エルルなら多少の対空防御なら半分無意識でも回避できるでしょうからね」

「お陰でみるみる内に防衛技術が洗練されてるってさ。すごいな職業軍人」

「エルルは何でもできる系のイケメンエリート軍ドラゴンですから」


 ちなみにそのワイバーンは、エルルと一緒にそういう事をしているらしい。制空権を握るって強いよなぁ。

 ……空を飛ぶと言えば、あの「空飛ぶ箒」の不具合は解決したんだろうか。あんまり外には出ていないし大陸は広いしで、まだ箒に乗って空を飛ぶ人を見てないんだよね。

 でもちゃんと作られた雪像は普通に飛んでいる。この辺も何かありそうな感じか? まだ問題を解決するまでには時間があると言えばあるけどさ。


「1つの原因にいくつもの問題を連鎖させるのがフリアドの通常運転とは言え、中々に面倒ですね……」

「流石にその問題の順番を入れ替えたり数自体を増やしたりする奴らだって動きが取り辛くなったんだし、まー多少はしょうがないだろー。あ、ところで「第三候補」は掲示板見たか?」

「いえ、そう言えばまだ見てませんね。もしかして返事がきましたか?」

「来てた来てた。いやー流石「第一候補」、ちゃんとこっちの欲しいポイントを押さえてくれて助かるな!」


 ともあれとりあえずクランメンバー専用掲示板を見る。美人の雪像によるハーレム状態を楽しむ「第四候補」に意識が持っていかれて、いつもの確認をしてなかったな。

 なになに。あぁ、「氷晶の核」についての検証結果が「第一候補」にも伝わったのか。で、その辺察しの良い「第一候補」は上手い事女神様に気になるポイントをお伺いしてくれたらしい。

 ……とは言え、女神様も万能って訳じゃ無いし、まだ弱ってるからな。以前「氷晶の核」について、「この世界由来ではない」という回答を貰っているのもあり、否定によって幅が狭まる程度の返事があれば上々か。


「……ここで出てきますかー……」


 と、思っていたんだが。

 どうやら、具体的なスキル名が話を聞きだすトリガーになったらしく、そこには新しい単語が出て来ていた。しかもそれは、あのヒラニヤークシャ(魚)イベントで、ヒントとして提示されていた単語だ。

 そう。つまり。


「……冷人族。雪を纏って冷気を操る、この大陸に適応した人間種族」


 どうやらこの「氷晶の核」は、彼らがこの地で生きる為に積み上げた知恵にして手段の1つ、雪と氷を人形として操る為に必要な結晶によく似ているのだそうだ。その割にはこの世界の気配が無いので、女神様も首を傾げていたらしいが。

 当然ながら、彼らが今何処に居てどうしているかは一切不明。まぁ北国の大陸も、隅々まで探索できたとは言えないからね。それを探す為のきっかけが今回の、この「雪祭り」なんだろうし。

 もちろん実際に数名が救出できた北国動物系の獣人族や、未だ竜都の隠された資料室からしか出て来ていない露樹族がまだ残ってはいるが――どうやら、まだ見つかっていない、この大陸に居る筈の種族。その中で最初にスポットライトがあたるのは、彼らのようだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る