第531話 19枚目:雪合戦仲間

 しばらくするとサーニャが迎えに来てくれたので、そのまま一直線に「第四候補」の砦へ移動だ。なお「第一候補」は女神様の神殿に籠ってて実質不参加、「第五候補」も氷の大地でアザラシ達の面倒を見ているのでほぼ不参加だ。

 そして先月のイベントでようやく接触出来て『アウセラー・クローネ』への参加が成立し、そのまま開いていた枠に収まった「第二候補」だが、あの転移門を開く為の塗料を渡したっていうのに、未だに合流していない。

 一応連絡というか現状報告は届いているのだが、どうもあちらはあちらで忙しいらしい。主に現代竜族達が、不死族という存在を離さないって方向で。


「まぁ、一度移動したら戻ることは出来なさそうっていうのが一切否定できませんからね……」

「どっからどー考えても不自然な移動だし、大神殿で移動するとパーティメンバーは一緒に行けちゃうし、つまり移動できる人数はいくらでも増やせるし、そうなるとメインストーリーが大変な事になりそうだもんなー。仕方ないな!」


 と言う訳なので、防衛戦という括りで戦力になるのは相変わらず私と「第四候補」のようだ。まぁいいけどさ。

 さて雪合戦だが、基本的に使うのは雪玉で、砦を持っている召喚者プレイヤー及びその関係者が使用する場合に限り当たり判定が発生し、「ヒット状態」という名の氷像になったり、氷の塊になったりするらしい。

 基本的には相手に雪玉を当てた数がポイントとなり、砦は雪玉が当たると、氷の塊になるのと同じ体積と面積が壊れるのだそうだ。そして砦は全体の7割が壊れると全壊判定が下され、そこからは砦を修復するか、新しい砦を作るまで、一方的に雪玉を当てられてしまう。


「んっで、雪像の扱いだけど基本的には召喚者プレイヤーと一緒、死に戻り地点は作った時にポイントの入った場所でー、多分5分に1回ぐらいの頻度でモンスターを引き寄せるチェックが入る感じだな!」

「雪像達は、基本的には知能の低い動物と似たような行動をするんですね。ただし雪玉をぶつける事で経験値が入って急成長する、しかしその挙動はテイム済みと変わらない、と。……思っていたより親切な仕様でしたね、あの「氷晶の核」というのは」

「確かになー。でも雪で出来た像って完全にモンスターなんじゃね? それに扱いも難しそうだし、流石に本式テイムはなーって思ってる奴が多そう」

「でしょうね。……下手に野良に返すのも怖そうなんですが」

「それな!」


 せっせと雪玉を作りながらそんな会話をする。うーん。そうなんだよな。今の所、雪像タイプのモンスターは見かけたことがあっても、雪像が動く感じの動物は見た事が無いからな。だから、動く雪像はすなわちモンスター、って判断になっている。

 ……ただなぁ。フリアドには普通に物質系種族が居るから、その辺ちょっと微妙だったりするんだよな。イベントへの干渉、と受け取っていたけど、「氷晶の核」の仕様は思っていたそれよりずっと平和だった。

 なら……これはちょっと、一応、確認しておいた方が良いかも知れない、か?


「エルル、今のところ一番練度の高い雪像はどの子ですか?」

「急にどうしたお嬢」

「ちょっと気になりまして」

「? まぁいいけど」


 雪玉を受け渡すタイミングで、エルルにそう聞いてみる。しばらく待っていると、ぴょっこぴょっこと跳ねる形で、私の半分ぐらいの大きさの雪だるまがやって来た。……作っておいてなんだが、他と区別がつかないな。


「練度と言うか、連携と言うか、一番呑み込みが早くて咄嗟の対応が早いのがこいつだな」

「なるほど」


 エルルが大量の雪玉をインベントリに入れるのを横に、メニューを操作してイベントページへ移動。何かポイントがかなり増えているから、どうやら雪玉を作っても雪像作りの方にポイントが入るらしい。……確かに雪で作ったものだけどさ。

 まぁポイントが余ってる分には困らないので、さくっと「氷晶の核」を交換する。そしてそのまま、やって来た雪だるまの胴体に埋め込んだ。これで、システム的には一時的なテイム状態になった筈だ。

 うん。ててーん! って感じで氷の棒で出来た手を上げるのは可愛くていいんだけど、本題は此処からでね?


「さて。それではこれからも、よろしくお願いしますね」


 す、と右手を出してみる。握手は形の1つであり、それこそ頭を撫でるとか抱きしめるとかでもいいんだけど、今のところ私はこれで通していた。そしてテイム枠自体にはまだまだ余裕がある。

 だから。「氷晶の核」によってテイム状態(仮)になった目の前の雪だるまが、モンスター分類であれば何も反応と言うか、特段変わった事は起こらない筈だ。ただの握手だな。その場合は【契約書式】の出番だ。

 うん。仮初とは言え命相手に実験するんだから、ちゃんと面倒は見るよ? だからエルルにその能力を聞いて、その中で一番を選んだんだし。……で、結果は、というと。


「!!」

「……「第四候補」、これ、どう思います?」

「何と言うかー、ざ、いんすとーるなう! って感じ!」

「ですよねー……」


 ほっ、と氷の棒な右手を私の右手に合わせた途端、びびびびび、という感じで小刻みに震え出した雪だるま。それを見ながら後ろに声をかけると、いつも通りのあっけらかんとした明るい口調でそんな返事が返って来た。

 えぇー……。こっちの大陸に居る元凶の仕業だと思ってたのに、絶対そうだと思ってたのに。モンスターじゃないって事は、元凶の仕業じゃないって事だ。確定してしまった。

 って事は……どういう事だ?

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