第503話 18枚目:本戦模様

 さてそのまま順調に塔の群れを削って……いければ、良かったんだが。


「っち、やっぱりちょっと火力が足りませんか!」

「あちらでのビームが発射される間隔が伸びておるようじゃから、効いておらんという訳では無いようじゃがの」

「でも塔自体が即座に元に戻る、つまり減らないって事は、あちらの補給が追い付いている、って事でしょう……!」

「そういう事じゃの。やれやれ、あと一手が削り切れんか」


 ずしゃぁっ、と「第二候補」と足並みを揃えて後退する。その目の前で、最初に生えて来た時と変わらない勢いで、斬り、砕き、壊した塔の群れが生え直していった。当然、即座に雑魚モンスターが溢れ出てくる。

 呼吸を整えながらそれらを迎撃して、タイミングを見て塔そのものに攻撃を加える。アビリティも併用して、阿吽の呼吸とまでは行かないが「第二候補」との連携もかなり精度が上がっているのに、それでも踏み込めるのは3分の1ってとこだろう。

 もちろん、エルルもサーニャも、「第二候補」の使徒生まれの子も、皆で揃って火力を叩き込んで、だ。


「まぁ火力と言っても、魔法は吸収されるのでダメージリソースとしては微妙と言わざるをえませんが」

「そして武技だけで連携しようとすると、息切れして追い返されるという訳じゃな。まぁ息切れせずとも囲まれるのは悪い予感しかせん訳じゃが。さて、どうしたものかのう」

「様子を見ている限り、【王権領域】が効いている範囲は気持ち大人しくなるようですから、少しずつ切り込める深さは上がっているとは言え……この分だと、決着が間に合いませんね」

「じゃの」


 情報を整理しながら息を整え、各種アビリティのクールタイムが明けたのを確認。バフの効果時間が残っているのも確認してから短く声をかけて、再突入だ。

 溢れかえる雑魚を切り払うのはエルルとサーニャにお任せし、「第二候補」が塔を根元付近から切り離す。そしてその浮いた部分を、私が神器で木っ端みじんにするというのが今のところ一番安定しているパターンだ。

 流石に大物だから、瞬時にサイズを判別してアビリティを使わないと間に合わないんだよね。ちなみにこのパターンに落ち着いたのは、私が殴って「第二候補」がみじん切りにしてみたり、私が雑魚を担当して3人が塔に掛かったり、と、色々試してみた結果だ。


「っあぁもう! だから、再生が! 早いんですよ!!」

「再生と言うか再生成のような気もするがのー。回復ではなく作り直しじゃから、「復活」ではなく「復帰」だったのかもしれんぞい」

「嫌になるほど理が通りますね!」


 そして塔を壊すのが間に合わなくなり、退路を断たれそうになって、塔が生えてこない場所まで後退する。さっきからこの繰り返しだ。半分にも届いていない。

 いや。更に火力を上げる方法は、あるんだけど。さっきから使っているのは、通常のアビリティだけだ。さっきから熱を感じる通り、この神器の特殊能力を使えば、現在の比じゃない勢いで相手の領域を削れるだろう。

 ……ただし。その削れ方が成立するのは、その特殊能力を、現在使っているアビリティと同じくらいに連打できた場合、の、話だ。


「何となく感覚で祝詞は省略できそうな気はしますが、たぶんこれ、持っていかれるのが絶対値じゃなくて割合なんですよ」

「それはキツいのう。まぁ実際の火力を見れば軽い部類に入るんじゃろうが。見る限りその熱量による反動のようじゃが、回復で耐えたり、そもそも耐性で軽減できんのか?」

「回復及び耐性系のスキルは全てメインにセットしています。その上で連打は無理と言っているんです。あの群れの只中では、1分以上もへばってられないでしょう」

「1分でほぼ全回復するとなると、確かに回復力が低いとは言えんの。まぁ元より神自身が振るう武器と言うのであれば、その程度で済むのはやはり良心的じゃが」

「悪人面なだけの懐が深くて情に厚い超絶イケオジですからね、ティフォン様」

「絶賛しおるのー」


 ドッ! とも、ゴッ! ともつかぬ音を伴って大規模な破壊を引き起こし、再度後退しながら連打出来る仕様なのに連打しない理由を説明する。

 そうだよ。たぶんこれ、最大値が低いから持ってかれる割合も高いし、火力にも制限が掛かってる気配がするんだよ。おのれ【才幼体】、ロリ姿の原因がこの肝心な時に足を引っ張るか。


「いやだから普通は武器を握るのも護身術を覚えるのも、全部身体が出来上がってからだからな? そんな年で前に出てる事の方がおかしいんだからな、この降って湧いた系お嬢」

「ド正論ですが今現実に困ってるのは確かじゃないですか」

「それはそうだし始祖様から神器を預けられたっていうんなら前に出るのは飲み込むしかないけど、でも本当は後ろに下がっててほしいんだからね!?」

「ここで叩いておかないと、更に悪い状況になった上で逃げられなくなりますからね。むしろ安全性と言う意味では善処してるんですよ?」

「そうだがそうじゃないって言ってるだろうがお嬢!」

「分かってるし飲み込んではいるけど納得は無理だから姫さん!」


 そう言われても、私以上の火力が居ないんだからしょうがないじゃないか。大規模破壊を全力で楽しんでるのも確かだし、ようやくまともに参加できたレイド戦にテンション上がってるのも否定はしないけど!

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