第492話 18枚目:舞台の構造

 検証班もとい司令部にその情報が共有されると、まぁ当然ながらちょっとした騒ぎになった。あの生き物的な何か、本当に邪魔だったらしい。いやまぁ、邪魔か。近寄ったらモンスターの群れを吐き出すもんな。邪魔だな。

 だが、それが階層の大規模破壊で消えるとはどういう事だ、といろんな可能性が挙げられたが、どれもしっくりこない。これはもう一度階層を破壊して、再現性の有無を確認する事からか。

 と、なった辺りで、地上と、崩壊跡を観察していたグループから、ほぼ同時に連絡が届いた。


「攻略状況に関わらず、複数の塔が崩壊した?」

「と、ほぼ同時に階層が修復された……これはまさか」

「いえ、あり得るでしょう。何せここは「異なる理」がまかり通る領域、外の常識は通用しない」


 そこから、一応確認と言うか裏付けというか。もう一度私が、修復されたばかりの同一地点でもう一度階層をぶっ壊した。さっき大規模破壊やったから更に火力が上がってたよ。

 で、素早く行われた調査によれば、その崩壊が起きた時点でほぼ全ての階から、あの生物的な何かが無くなったのだそうだ。そして更にしばらくして、同じように塔がいくつか崩壊して、階層が修復された。


「ちぃ姫さん。その神器の本来の持ち主からは何か聞いていませんか?」

「……しまった、共有し忘れていましたね。こういう話をお聞きしました」


 これはつまり「そういう事」だよな? とほぼ確定した所で、カバーさんからそう聞かれた。しまったそうだ、ティフォン様から聞いたこの亜空間の仕様を共有し忘れていた。

 元凶がやっているのは、空間を掘り進めるという行動である事、他にもここにくるルートがある事、「異なる理」は敵なのでその一切を破壊して良し! と言われた事をその場で伝える。

 で、少し考えて、別ルートとこの場所の違い……階層ごとに空間が連続しているかいないか……も伝えた。


「なるほど。貴重なお話を有難うございます。まだ若干の疑問点はありますが、おおよその筋は通りました」


 どうやら欠けているピースを埋める事が出来たようだ。司令部にその情報が共有されるなり、中心壁内部でのみ通じる掲示板に、全体に共有されるべき情報が司令部から発表された。


「……あぁ、なるほど。やるべきは手当たり次第の戦闘と破壊、つまり、相手の「穴を掘る」リソースを削る行動でしたか……。……一般召喚者プレイヤーだけだと確実に間に合わなくなったから、大規模破壊が可能な私に、大規模破壊適性のある神器を貸し出す許可が下りたんですね」

「なるほどな。問題は、どっからそんな力を手に入れたか、いや、この分だと手に入れ続けてるかって話だが」

「どこからか供給している存在が居るんでしょうね、どう考えても。……亜空間の拡張は、止まったままなのですから」

「…………あの規模がそのままここに集中してるって事か。……まぁ、なら、確かに、神器ぐらいは無いと削るのが間に合わない……な」


 って事だ。

 ……本来は、リソースなんてほとんど無かっただろう。だからたぶん、あの中央にあるダンジョンも、もっと階層が少なくて、壁や床ももっと脆かったんだ。運営大神の想定としては。

 恐らく、外に出ている塔も、いくつかは「削り用」の、壊れないものがあるんだろう。同じく、この中心壁内部の空間も、もっと小さい想定だった可能性がある。もちろん、この推測が当たっていれば、の、話だが。


「……想定外が起こっても、人員を追加投入できるように、安心してモンスターという形のリソースを削る為に、あの別ルートがあったんでしょうけど、ね。この推測が正しければ」


 ただし、そちらのある意味保険として用意されていた手段は、どこぞの戦闘狂がモンスターを狩り尽くすという想定外で運用できなくなったけど。リソースを「消費する為の元」である扉の階まで辿り着いておきながら、そこから先には進まずそこに留まるとか、普通に想定外だったんだろう。

 さっさと中心部最下層に合流しろ、もしくは出現スポット(扉)を壊すな! と、楽しそうな戦闘狂を見ながら運営大神は叫んでいたのかもしれない。何か申し訳なくなってきたぞ?

 でも、運営ももうちょっとヒントを出した方が良いと思うんだ……。もうちょっと神頼みする人が居る想定だったとか、もしくは出す予定だったヒントが某ゲテモノピエロのせいで潰れたとか、そういう事なら知らないけど。そんな事を思いながら、届いたメールを確認する。


「はい。エルル、お仕事ですよ」

「お嬢……」

「仕方ないでしょう、大規模破壊が可能な人員は限られているんですから。私は地上からあの中央の迷路の破壊、エルルとサーニャは破壊可能な塔の破壊、及びそれに伴って発生する大規模なモンスターの殲滅です」

「……大分言いたいことがあるが、そうなるとそれ以外の召喚者はどうするんだ?」

「多分ですけど、一度外に戻って、あの「裏口」の探索をするんじゃないでしょうか。モンスターが枯れていた原因は元凶相手に楽しそうにしていますから、そろそろ本来の形に戻っているでしょうし」

「あぁ、なるほど……」


 ちなみに「第四候補」と「第五候補」もそっちに向かうらしい。「大神の悪夢」への挑戦は、防壁を維持する為に必要な数が大体割り出せたらしいし、新人の一部も動員されるのかもしれないな。

 ははは、見事にプレイヤー全体が協力しないとどうにもならない構造と難易度だな。その辺の匙加減は流石だよ、ほんとに。

 ……そこに至るまでのヒントが、ちょっと綱渡り過ぎないかなって思うだけで。もうちょっと情報くれよ運営大神プレイヤーそっちが探さなさ過ぎなんだよ! って言われたら反論できないけど。

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