第457話 18枚目:託宣の確認

 しばらくの間悩んでいた「第一候補」だったが、


『しかし分からぬまま実行して、間違っていたら問題であるからな。託宣を齎せたという事は、それなりに繋がりが強くなっているという事だ。よって、個人で建てている神殿に行けば、眷属なり啓示なりで情報を補強してくれる可能性が高いのではなかろうか』


 というアドバイスをくれた。なるほど。お礼を言ってからウィスパーを切り、スピンさん経由でカバーさんに相談してみる。


「今この場所のこのタイミングで神様関係の話は重要度が高いですよねって事で、ちぃ姫さん休憩どうぞ!」

「ありがとうございます。……2択を確定してくるだけなので、そんなにかからない、と、思いたいのですが」


 ぽぽいっと連続で壁系魔法を追加して、一旦小部屋に引っ込んだ。そこからメニューを開き、個人で建てた神殿へと移動。さて、と内部を見回すと、ティフォン様、ではなく、エキドナ様の神殿の所に何か石板がある事に気が付いた。


『言葉足らずな夫でごめんなさいね。投げ込むべきは、祈りの対象が大神となっている方の祭壇よ。神定まらぬ祭壇を投げ込むと、信者が1人もいない神に届いてしまうから気を付けて』


 それってつまりあの世界の滅びを目的としたクランですら信仰されてないガチでヤバい系の邪神って事ですよねエキドナ様!? と、別方向のツッコミどころが判明したが、ともあれ2択がはっきりしたのは良い事だ。

 感謝の祈りを捧げてから、念の為啓示であるその石板をスクリーンショットに撮り、小部屋に戻る。うん。すぐ済んで良かったな。

 そのまま「第一候補」に報告がてら連絡を入れる。邪神がらみな情報がくっついていたのでウィスパーで。


『まぁ祭壇は重量物故、あの世界の果てに放り込めるのはほぼ「第三候補」というか竜族だけであろうがな……』

『不思議な力でこちらからは近づけず、向こうから近づいてくる分には問答無用で呑まれて死に戻りですからね』


 と、確認作業はすぐに一段落ついたのだが、問題はそれをいつ実行するかだ。流石にこれだけ防衛戦やってる中でそんな事をやれば、それはそれは目立つ。それでなくても私はそもそも注目の的だって言うのに、目立ちまくる。

 だからせめてタイミングは見計らわないといけない。という事なのでそのまま壁系魔法を設置する防衛戦の補助は続行だ。出来ればここのボックス様の領域から全員が撤退するまで戦って、逃げ際に投げ込めればいいんだけど。


「実際放り込んだらどうなるかも分かりませんからね……」

「……始祖だからなぁ……」


 なお、今日も護衛をしてくれているエルルにもティフォン様からの託宣及びエキドナ様からの啓示の内容は伝えてある。でもってこの反応だ。慣れというか諦めというか。まぁ結果がどうあれ、悪くはならない(筈だ)からやるけどさ。

 とにかく今は撃退撃退。幸いというか何というか、「本来の外縁」であるティフォン様の領域は私の視力ありきで見える距離がある。実際戦線を下げるとなったら、多分もう1回ぐらいは撤退する必要があるだろう。

 何回投げ込めばいいのか分からないけど、ルイルの為に取っておいてある祭壇以外は全部投げ込むつもりでかかった方がいいだろうし。




 で。翌日午後のログイン半ば。


「うーん、やっぱり謎の圧というか、妙な迫力がありますね」

「本来は人間種族の目でも見えるようになった時点で退いてほしかったんだけどな……」

「仕方ないじゃないですか。託宣を受け取ったのは私で、祭壇をあの向こうに投げ込めるのは私達だけなんですから」

「もぐもぐもごもごもぐ!!(それでも本来なら真っ先に脱出してもらわなきゃいけないのが姫さんだから!!)」

「飲み込んでから喋れアレクサーニャ」

「もごもごもぐもぐもぐ!!(確かにそれはそうだけどこんなに美味しい物をボクに黙って食べてるなんて酷いじゃないか!!)」

「同族補正ってすごいですねぇ」

「あ、今のでも分かったのね」


 後方への支援として壁系魔法を連打してモンスターの群れを削りながら、陽炎の幕の様な壁を見る。ちなみに合流したサーニャが何を口一杯に頬張っているかというと、皆大好きワイバーンテールステーキだ。ソフィーナさんに来てもらって焼き立てをがっついている。

 まぁ私もご相伴に預かってるけどね。壁系魔法だけって限定が付くとちょっとクールタイムが回せないんだよ。あー美味しい。ソフィーナさんがソースを工夫してくれるから更に美味しい。ソースを一周してから塩で食べるとか無限に周回できるんだけど。

 っと、ステーキ美味しいしてる場合じゃないな。モンスターの群れが左右からも来なくなったから、そろそろだ。


「では、とりあえず私が投げ込んでみて様子を見る。必要そうならエルルとサーニャにも投げ込んでもらう、という事で」

「そうだな。アレクサーニャ、いつまで食べてんだ」

「はーいお仕事してねーっと」

「もごもー!?(ボクのお肉ー!?)」

「お前のじゃない」


 軽く確認してから席を立つと、ソフィーナさんがさっさと焼く前のお肉をインベントリに片付け、そのまま鉄板を洗い始めた。サーニャはとりあえず、手元のお皿に積み上がってるステーキを片付けようか。

 とりあえずメニューからインベントリを開き、しっかり名前を指さし確認して「大神の祭壇」を取り出す。念の為取り出してから【鑑定☆☆】して、うん、間違いないな。

 どうやって持ち上げようかと少し考えて、でっかいテーブルのような石の塊の、短い方の辺に回って足の部分を掴んだ。そのまま持ち上げる。空の段ボール箱を持ち上げてる感じだったので、軽く浮かせるようにして角を手前に持ってくるように持ち方を変える。


「さてそれでは第一投……いき、ますっ!」


 そのまま、左手で軽く浮かせてから短い方の辺に当てた右手で押し出すようにして、思いっきり祭壇を投げ飛ばした。

 それにしても石の塊である重量物を空の段ボール箱扱いかーと自分のステータスにちょっと黄昏つつ、重量物らしい勢いで飛んで行った「大神の祭壇」。エルルとサーニャとソフィーナさんも警戒してくれる中、さてどうなるかと見守る先。

 勢いが弱かったか、若干高さ的には下がったものの。無事「大神の祭壇」は、陽炎の幕の様な壁へと触れて――その向こうに、消えた。


「……何か波紋の様なものは出ましたけど……それだけ、ですね?」

「…………そうだな?」

「思ったより何も起こらなかった、かな?」

「でも神様が伝えて来たなら、何か起こりそうなものよね」


 そうなんだよなぁ。とソフィーナさんの言葉に頷きつつ掲示板を覗いてみるが、どうやら各地の戦況にも変化は無いようだ。つまりモンスターの数が減ったり弱くなったりという感じでもないらしい。

 何だったんだ? と思いつつイベントページに移動。んー、探索目標について変化は無いな。増えも減ってもしないし祭壇に関する項目への追記も無い。見事に何の反応も無いな。違う意味で想定外だぞ?


「……とりあえず、一旦ここからは撤退しましょうか」

「そうだな。時間が経つか、他の場所を調べたら分かるとかかも知れないし」

「始祖様からの啓示なら、その領域に行ったら何か変わってるかも知れないね」

「そうね。それに多分、私達が調べるよりカバーさん達の方が早く気付くと思うわよ」

「確かに」


 という訳で、若干消化不良ながらもう少し内側にあるボックス様の領域に撤退だ。月末に週末が重なってるとは言え、明日からまた平日なんだよな。せめて夜のログインぐらいには効果というか変化を確認しておきたいところだ。

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