第450話 18枚目:準備と始まり

 さて探索という意味では一段落付き、しかし情報が足りない状態で、特級戦力である私がそこから何を始めたかというと。


「すみません、ちぃ姫さん」

「何でしょう、カバーさん」

「どうやら中央の方で、新しく来られた方の装備が足りないという話になっていまして。武器だけでも構いませんので、生産をお願いしても良いでしょうか」

「分かりました。流石に生産人口が足りませんか」

「それに加え、どうやら内側では見つかる資源の量も不足なようです」

「なるほど」


 という訳で、せっせと装備を作っていた。もちろん間に無理のない範囲で探索も挟むし、作るのは誰でも着れるようにサイズ調整が可能な防具か、平均に合わせた武器であってオーダーメイドじゃないんだけど。生産スキルの経験値が美味しい。

 流石にスキル枠が足りないのと危険物を作る気は無いっていうので、【竜○】シリーズは控えに入れっぱなしだ。だから出来るのは、あくまで普通の範疇に収まる装備である。


「とはいえステータスの暴力ですからね。性能もそれに準じた出来になりますよ。素材も上等な上に補正が入るんですから」


 という事なので、順調に『アウセラー・クローネ』の資産というか現金は増えて行っているらしい。どうやって使おうかね、このお金。アラーネアさんに衣装をお願いするのと、エルルの刀代ぐらいしか今のところ使い道が無いんだよな。贅沢な話だけど。

 ……いつの間にかルージュが刀を打てるようになってたみたいで、エルルの数打ちの刀をある程度補修・強化しているっていうのが分かったから、もしかしたらさらに出費が減るかも知れない。

 そんな風に生産作業をしていたんだけど、当然それはボックス様の領域で、中部屋の1つを生産部屋にしてやっていた訳だ。そして作業が3日ほど続き、このイベントも追い込みをかけるタイミング、となった、週末朝のログイン。


「……ん?」


 辺境に位置する為、まだまだ人の少ない場所にあるボックス様の領域、その小部屋でログアウトした寝たので、当然ログイン場所も同じだ。

 周辺探索は召喚者プレイヤー組も含めて全員が揃った時だけという事にしているので、そうでなければ生産作業か、他の場所へ遊びに行っている筈である。

 それが、何だかバタバタと大人数が動いている気配がする。何だ? と思いながら、とりあえず部屋から出ずに掲示板をチェックだ。


「……そう来ましたかー」


 何の事かというと、まぁ、ボックス様ががっちりした防衛拠点という形で自分の領域を点在させてくれていた、その理由だ。そう。超大規模な、この亜空間全体における、モンスターの大量発生……スタンピートである。

 主な発生地点は管理する神が定まっていない領域や、領域同士の境界線らしい。逆に、管理する神がしっかり定まっている場所でのモンスターの出現は、一旦止まっているようだ。

 まぁそうでなきゃ逃げ場が無くなるもんなぁ。と思いながら更に物資や戦況を共有する為の掲示板を見て、現在の状態を把握に掛かっていると、ウィスパーが届いた。


『おはようございますちぃ姫さん。大変な事になりましたね』

『おはようございますカバーさん。そうですね。ある程度予想は出来ていた事ですけど』

『それは確かに。それでは可及的速やかに現状の把握を行いますので、少々お待ちください』

『お願いします』


 ばたばたばたっと部屋の前を誰かが走っていく足音を聞きながら、更に掲示板のチェックを継続。うーん、予想通りというか何というか、外縁に近い程数も強さも上だから厳しいみたいだな。

 ……そして嬉しくない目撃情報を発見。モンスターの中に、あの、多手多足の異形が混ざっていた、というのだ。それも気のせいというには多く、その目撃情報の位置からしておおよそランダムに。

 うん。気にはなっていたんだ。5%以下にしてやったとはいえ、絶対値が削れたわけじゃない。実際表示上では7%ぐらいの“細き目の神々”だって、あれだけの広さを管理領域として保持していた訳だから、ボックス様のように点在させていたところで、その領域があれば分かる筈なのだ。


「動きが無いと思ったんですよ」


 目撃情報が、発見報告が、無いなとは、思っていたんだ。……“破滅の神々”の、管理する領域について。

 第二陣以前の召喚者プレイヤーからはほぼ残らず高いヘイトを稼いでいる上、ストーサーを含めた3つの町で、盛大にやらかした直後だって言うのに。


「……例によっていつもの如く、動きを悟らせていなかっただけみたいですけど」


 今度は何してくれやがった、あのゲテモノピエロ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る