第438話 18枚目:3度目の挑戦

 途中で休憩する事が出来るというのはやはり大きく、最初に一時撤退した中腹を過ぎてもまだ全員に余裕があった。山を登れば登るほどモンスターのレベルが上がっているのはどうやら気のせいじゃ無かったらしいが、流石にこれだけ戦っていれば動きや攻撃にも慣れてくる。


「これだけ散々追い回されれば逃げ方の1つも覚えるっつーんですよ!」

「好き放題殴ってくれやがって、俺だって単に殴られっぱなしじゃないんだぞ!」


 という訳で、ここまでひたすら逃げ回り、防御に徹していたフライリーさんとルドルの士気が高い。逃げるだけではなく罠系のそれを含めた魔法で体勢を崩し、守るだけではなく的確なカウンターで弱点を壊していく。

 そして少しでも姿勢が崩れれば、元々火力は十分だ。首がはねられ、殴り潰され、袈裟斬りが入り、急所を打ち抜かれ、部位で切り分けられと、物理火力だけでほとんど殲滅が出来ている。

 そして十分に倒すのが間に合っているという事は、ヒーラーのルチルとルディルの負担も軽減できているという事だし、魔法火力が温存できているという事だ。


「魔力を自然回復に任せて、ポーションを温存できるというのはありがたいわね」

「そうですね。そして自然回復で賄える範囲の動きで済むというのも助かります」


 なので魔法火力担当の2人はこんな感じ。フライリーさん? 魔法スキルだけなら私よりレベルが上の、魔法適性に特化した種族に何を言っているんだ。それこそ種族別の秘奥義みたいなコストが激重な魔法を使わない限り魔力切れはほぼ無いぞ? 私の後輩なのは伊達じゃない。

 ちなみに私は相変わらず後方で双子と一緒に解体担当だ。インベントリへの格納係も兼ねてるからね。いやぁ素材が溜まる溜まる。


「しかしどうしましょうかねこの素材。肉は食べてしまうとして甲殻とか鱗とか、装備を更新するにしてもちょっと量が尋常じゃありませんが」

「神様の神殿で試練に挑むために置いておいても相当な量があるメェ」

「けど売るとそれはそれでまた大変な事になる気がすごくするメェ」

「そうなんですよね。ほとんどが竜に属する素材ですから、性能がいいのは間違いないんですが」


 問題はインベントリから取り出すと山のように積み上がる素材なんだけど。いやぁ贅沢な悩みだ。お金にも素材にも困っていないからこそ出来る悩みだな。私の装備を作ろうと思ったらもちろん消費するべきものが消費されるんだろうけど。

 何か特殊な加工方法とか無いかな。とか考えつつ火山を登っていく。エルル達によれば、1日に数度噴火をして火山弾が飛んでくるらしい。が、その前には地面が揺れるという予兆があるし、戦闘中であってもモンスター達が泡を食って逃げ出すので、急いで隠れれば大丈夫との事だ。

 とりあえず今の所そんな気配は無いので、戦闘と休憩を繰り返しながら進んでいく。そして以前から比べればずっと早い2時間という時間で、亀ドラゴンがほとんどいなくなる高さに辿り着いた。


「さて、問題はここからな訳ですが……まぁ足を止めずに進むしかありませんよね」

「そうだな。ここから先は素材の解体無しで、何なら回収もある程度諦めて進むことに集中した方が良いと思うぞ」

「ちょっともったいないっすけどねー。ちなみに先輩、全部丸ごと回収してったら重量はどんなもんすか?」


 既に張り付き積もった岩石を剥がしていた亀ドラゴンの甲羅の影へ入り、休憩しながら確認だ。フライリーさんからの確認に、インベントリを開いて残りの空き容量を確認。んー。


「ここまでのペースが連続するとして……戦闘の回数で10回を越えると厳しいですかね、このままだと」

「……それは、多分、無理」

「そうですねー。開けた場所だとー、強さは上がるとして一度に集まって来る数も増えると思いますー」

「それでは、少し早いですがここである程度分配をしてしまいましょう。我々のインベントリの容量はちぃ姫さんに比べれば小さいですが、多少は余裕が出来るでしょうから」

「そうだねぇ。そのまま加工もしちゃえばぁ、もっと空くと思うよぉ」

「(・∀・*)」


 なお、火山だけあって天然の竈のようになっている窪みがそこら中にあるので、加工の為の場所には困らない。ルージュも反応したのは、金属装備を補修する事が出来るからだ。主にルドルの。

 という訳でしばらく生産と補給タイム。ソフィーナさんが簡単に料理も作ってくれたので、あのどんぐりクリームで食事バフもかけ直しておく。


「そう言えば、通常の食材で食事効果って付かないんですか?」

「文章で明示されたのは今回が初めてね。まぁ体感なら多分ステータスの成長に関係する補正や、もしかしたらステータスの成長そのものに関係している気はするんだけど」

「だからちゃんとした物食べないと成長に悪いって言ってるだろ」

「宝石美味しいですよ?」

「出来るだけ普通の飯を食ってくれ」


 そう言われたのは手元に隠して溶岩石の小石を食べた後だったんだけどね。カリッカリのあられみたいで思った以上に美味しかったのはこれ、やっぱりティフォン様を始めとした“細き目の神々”の領域だからか?

 これはちょっと気を付けないと際限なく食べちゃう奴だ……と思いながらソフィーナさんが作ってくれたサンドイッチにかぶりつく。焼きたてのお肉がたっぷり挟まれていてうまーい。


「美味しそうに食べてくれるから幾らでも食べさせてあげたくなっちゃうわー。料理人冥利に尽きるわね」

「実際美味しいので料理人の実力ですねぇ」

「ちょっと待ってね。溶岩石でワイバーンステーキ焼くから」

「毒抜きがいるけど、尻尾が一番美味いぞ。先の方ほど難易度も旨味も上がる」

「ふふふ、挑戦してやろうじゃないの」


 溶岩石で焼くワイバーンステーキとか絶対美味しいじゃないか。それもエルルから美味しいとお墨付きのテールステーキだと? 下手すれば金貨が積み上がるレベルの高級料理では?

 まぁ多少毒が残った所で私に通じるとは思えないけど。というか毒が残ってる方が状態異常耐性スキルの経験値としては美味しいまであるんじゃないかな? 毒こそが味的に美味しいって言う可能性もあるし。

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