第422話 18枚目:迷路脱出

 無事マップの中央に辿り着き、そこで改めて「第四候補」が広域捜査(手動)を行う事でマップの全体図が判明した。その途中で迷子になっていた「第一候補」の所の使徒生まれな人達も合流できたので、改めて点呼を取ってはぐれた人がいないかどうかを確認。

 『アウセラー・クローネ』として全員もれなく揃っている(ルールみたいなお留守番を除く)事を確認して、大きさは同じでも四方に通路がある部屋の、中央に設置されていた魔法陣に全員で乗ってみた。

 更に奥地に飛ばされる、という事も考えなくは無かったが、他に選択肢がない上に、現在は日付変更線を挟んだ特殊ログイン時間中だ。流石にそこまで意地悪な仕様にはなっていないだろう、と言うのが総意だった。


「……で、それは実際良かった訳ですが……」

「まぁうん。大体予想通りだよな?」

「そうなんですけど」


 “叡智の神々”の主神は隻眼らしい。そして信者の内優れた力を持つ死者は神の戦士として迎え入れられ、いつか来たる最終戦争に備えてるんだって。まぁ大体元ネタは分かるってやつだな。

 そんな感じだから召喚者プレイヤーの信仰人気も高く、その管理割合は2割強と横並びの最上位に位置している。で、管理割合が多いと干渉できる範囲が広くなるのは当然、実は干渉できるレベルも上がるみたいでな?


「……固有の名前を持つ最上位の神はともかく、神に属していても数が居る相手は普通に居るとか。世界を支え抱える柱である大樹の根を齧る悪竜と竜族が混同されているとか、ほんっともう面倒、ですよ」

「あっはっはー。それでいくと俺は何で敵視されてるんだろうな? やっぱ主神以上の色男は敵対対象なのか?」

「あなたまだ自分の種族開示してないじゃないですか。考察のしようがありません」

「わーぉばっさり!」


 そんな訳なので、エルルとサーニャの機嫌が非常に悪い。まぁ私もそんなに愉快な気分ではないけど。だから現在、柱となる大樹を模したのだろう天突くような巨大な樹の根元に近い木のうろから出て来た私達の事情説明をしているのは、「第一候補」と「第五候補」だ。

 ちょっと遠巻きにしている召喚者プレイヤー達の視線が刺さるようだ。時々「第四候補」は手を振ったりしているようだが、私は生憎愛想の安売りはしないつもりなので。

 撮影対策に周囲を見る事もしていないし、エルルとサーニャがピリピリしている事に加え、ソフィーさん達もちょっと本気の警戒というか威嚇モードだ。私の肩に掴まる形のフライリーさんが震えてる。


「ひぇ……先輩達の人気は分かってたつもりだったっすけど、これは想像以上っす……」

「ははは。公式マスコットというか宣伝キャラになっちゃいましたからね。余計でしょう」

「ひえぇ……」


 なお現状であれば普通に掲示板が使えているので、あの謎の石材が存在する空間の中に居ると通信が阻害……というより、召喚者プレイヤー特典である大神の加護ですら影響を受ける、という事なのだろう。

 既にカバーさん達から情報の提供があり、どうやら私達だけではなく他の召喚者プレイヤーも同じような状態に陥っていたらしい。つまり、あの明るい灰色の石材に囲まれた場所では通信が阻害され、モンスターは一切出てこないって事だ。

 うん。モンスターが一切出てこないのも共通項なんだよな。推定の正体も大体共有されているし、掲示板も「どういう事だ」ってざわざわしている。もちろんその中には、今が特殊ログイン時間だから、というものもあるんだが……。


「この空間自体が1つの試練である筈ですし、その場所以外は普通に戦闘も探索も出来たというのですから、やっぱりあの空間が特殊って事になりますね」

「ですよね。つーか逆に不気味っす。むしろモンスターで溢れるぐらいの方が正しい姿っすよね? 先輩たちが立てた予想だと」

「えぇ。そうなっても一切の違和感はありません。そうじゃないから違和感、という事になる訳ですが……」

「分からんっすねー……。まぁイベも始まったとこですから、そうそう簡単に分かるような物じゃないのかも知れませんけど」


 っていう事なんだよな。だから余計にさっさとこの場を移動して、それこそティフォン様の領域あたりに移動してお伺い立てたいんだよ。あの神様は完全にフリアド世界における土着の神様だし。

 それが出来ないのが、“叡智の神々”の下位神とでも言うべき存在が居て、現在「第一候補」と「第五候補」が説得と説明をしているのに、それに対してごねているからなんだよ。

 そこそこの距離は開けてあるから、聞こえないし分かってないとでも思ってるのかな、全く。


「……だぁれが世界を終わりに導く滅びの使いですか。あのゲテモノピエロと同属性にしてんじゃないっつーんですよ。むしろ抑止力疑惑の秩序側ですし竜族って。人間の中でイキってるそちらより自分を律する事についてはしっかりしてるぐらいなんですが?」

「わぁ先輩が大分怒ってるっすー。……まぁ分かりますけど。人間の子供に羽むしられそうになったり、妖精族だからってだけで近寄ることを拒否されたりしたこと考えれば」

「もう強行突破でも良いのでは?」

「先輩ストップ、ストップっす。先輩がゴーサイン出したら本気で動くと止められない人達が動くっす」


 あいにくばっちり聞こえているし、こちらを蔑みと、そうやって押しとどめているという事に対する優越感が滲んだ目で見ている事も分かっているぞ? 表面上は澄ました無表情を維持しているが、結構腹は立ってるからな。

 あと拠点が出来てちょっとした頃に、街に遊びに行った筈のフライリーさんがしばらく私に張り付いて剥がれなくなったことがあったが、その理由も判明した。それだけで大分手加減する気が失せるんだが。

 それを周りの被害考えて止めに掛かるとか本当良い子。お前らうちの可愛い後輩に感謝しろ? こっちは正面からの強行突破でも構わないんだから。止めれるもんなら止めて見ろ。

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