第349話 16枚目:作戦相談

『「第三候補」さん、今大丈夫でしょうか?』

『今はエルルが気を引くタイミングなので少しなら』


 そしてその予想を裏付けるように、対ヒラニヤークシャ(魚)レイド戦用のスレッドではなく、私へ直接カバーさんからのウィスパーが届いた。……あぁそうだな、そう言えばあのスレッドにカバーさんやパストダウンさんの名前が出てこなかったな。今更な話だけど。


『では手短に。現在外洋に構築中の包囲網へヒラニヤークシャを移動させることは可能でしょうか。「第四候補」さんも移動側に参戦して頂けるという事なのですが』

『確認してみます。少々お待ちください』


 ……開口一番ぶっとんだ作戦が出て来たなー(遠い目)。そうだな。大地を沈める権能は、大地があってこそ発動できる。じゃあ、大地から引き離してしまえば実質無効化できるじゃないか。確かにな?

 しかし「第四候補」が参戦するのか。ということは、あれが使い物になるようになったのかな? とか思いつつ、まずはエルルにカバーさんからの話を伝える。


『……また何というか、そうくるかって感じの作戦だな』

「相手の手札を確実に1つ封じられるのは大きいですよね」

『他に山ほど言いたいことはあるが、まぁ確かに権能を封じられるなら願っても無いし、このまま殴り続けるよりマシか……?』


 流石エルル。ちょっと頭痛そうにしつつもその有用性を認めてくれた。だいぶカバーさん達に慣れて来てくれたようでありがたいね!

 そしてヘイトがサーニャに移った所で、タイミングを合わせてエルルの背中から飛び降りる。エルルとは打合せ済みだから怒られはしないぞ!


『きゃぁああああああああああああ!!?? おいエルルリージェ姫さん落とすとか何やってんだこのバカぁああああああああああああっっっ!!!』

「サーニャ、サーニャ。打合せ済みです」

『うっせぇ役割分担しての戦闘中に呑気に会話するのは無理だろうが!?』

『姫さん落とすとかおま、おっっっまぁああああああ!!??』

「話を聞いて下さいサーニャ。カバーさん達から提案がありましてですね」


 まぁサーニャから見たらそうなるんだけど。当然実行前にはエルルにもそれはもう大反対されたけど。……パニックに陥ったサーニャを落ち着かせるまで、ちょっと時間がかかったので省略。


『は!? 化身を外洋まで移動させるとか姫さんマジで!?』

「そのつもりで既に外洋に船団が展開してるんですよね」

『はぁ!? うわいつの間にあんな数が!? というかこの辺は近づくと沈むって言われてるのによく来れたな!?』


 ……更に時間がかかったのでもう一度省略。

 最終的には納得してくれたので良しとしよう。納得というか、納得()だったけど。まぁ作戦に沿う形で動いてくれればオッケーである。

 なおエルルの方に戻りたかったのだが、流石に心臓に悪すぎて無理との事でサーニャの背中に居るままだ。すれ違いざま大きく手を振ったので通じてるといいな、と思う。


『お待たせしましたカバーさん。作戦、2人とも了承を貰いました。動けます』

『ありがとうございます。それでは「第四候補」さんにもお伝えしますね』


 という事でカバーさんにウィスパーで連絡だ。ははは。【魔物言語】とはいえあれだけ叫べば船団の方にも聞こえていただろうに、スルーしてくれるカバーさんがありがたい。対ヒラニヤークシャ(魚)レイド戦用スレッドではざわざわしてるけど。おいこら誰だ「やっぱりわんぱく竜姫だな」って書き込んだの。

 解せぬ……と思いつつサーニャとタイミングを合わせて魔法を叩き込む。んー、説明と説得に結構かかったから、安定度80%が見えて来たな。つまり順調に削れてるって事だ。

 さてその協力してくれるという「第四候補」はどこだー? と思いながら氷の大地を見回し始めた所で、何故か再度のウィスパー。うん? 「第一候補」?


『どうしました「第一候補」?』

『うむ。すまぬな「第三候補」。かの化身を外洋に移動させるのだろう?』

『そうですね。その方向で動くつもりです』

『であればだな。少々相談なのだが――』


 続いた「第一候補」の話によると、外洋に移動しきる前に、とあるポイントに化身を移動させてほしいのだそうだ。そしてそのポイントというのが、船(残骸)の山と半海上拠点からほぼ同距離の海、という、かなり寄り道した感じの場所となる。

 うん? 流石に訳が分からない。何でそんなところに? しかも半海上拠点にダメージが入るという特大のリスクがあるのに。しかもそこまで移動させるのはかなり難しいだろう。でかいだけあってノックバックが通りにくいのだ。


『……相当に難しいと言うよりないのですが、どうしてそのポイントに?』

『無理はせずとも良い。移動させるだけで難題故な。無理はせずとも良いのだが――』


 まぁ「第一候補」の事だから、何かしら「そうした方が良い」理由はしっかりしたものがあるんだろうけどさ。ただ、その内容が想像できないんだよね。罠を仕掛けるにしてもどうやってってなるし、誰もそんな暇は無かった筈だ。

 なので聞き返したのだが、「第一候補」は真面目な調子で、無理はするなと念を押してきた。その上で付け加えるように、「そうした方が良い」理由を口にする。


『――我らの妨害をするつもりの手段を、我らが上手く利用するのは、少々では無く胸がすくと思わぬか?』


 ……ほっほーぅ?


『ちなみに、「第四候補」はなんと?』

『うむ。快諾が返って来たぞ。移動の過程で出るであろう余波から拠点を守るのも任せろとの事だ』

『ははは。では私に否やはありませんね。やりましょう』

『くはは。それでは任せる』


 カバーさん(=『本の虫』)経由で無かったって辺りに機密度の高い情報という気配がするが、なるほど察せた範囲で考えるにこれは最重要機密だろう。恐らく知っているのは実行者である私と「第四候補」、それを伝えて来た「第一候補」と、そこに知らせた誰かぐらいの筈だ。

 であればそれ以上に広げるのはやめた方がいいな。さてどうしたものか。エルルならともかくサーニャを説得するのは大変だしなぁ。


『すみません「第四候補」。少しいいですか?』

『いいぞ! あの提案についてか?』

『えぇ。それでちょっと確認しておきたいのですが――』


 また(主にサーニャの)心臓には悪いだろうし、実際その後で滅茶苦茶に怒られる可能性が高いが、仕方ないな。

 必要な条件は「第四候補」に確認して協力をお願いしたし、討伐に向かって本格的に動くとしようか。

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