第339話 16枚目:想定外の弊害

「…………えぇー…………」


 さてそこそこ分厚かった「託宣/啓示記録兼神器目録」をしっかり読んだ結果、大変頭が痛い事実が判明した。いやまぁ分かってたけどさ、何となく。嫌な予感はしてたから。だからタイトル見てすぐちゃんとしっかり読もうと思ったんだし。

 竜都の運営に必要な資料が一通り揃っているというか詰め込まれているこの小さな部屋の重要度は推して知るべきというやつであり、フリアドこの世界において神及びその言葉というのは決して軽い物ではない事は既に周知の事実だ。

 という事はつまり、この「託宣/啓示記録兼神器目録」っていうのも、当然ながら機密中の機密に相当する、間違いなく重要度が上から数えた方が早い大事な資料、なの、だが。


「……ティフォン様どころか、その奥様のエキドナ様の神器まで最後の引っ越しの時に行方が分からなくなってるとか……!!!」


 こんなん頭を抱えるしか無いだろ! しかも1つ2つじゃないんだぞ!? 悪人面なだけの超絶イケオジであるティフォン様は滅茶苦茶面倒見がいいんだから、直系と言っていい竜族には結構な数の神器をくれてたっぽいのがほとんど失われてるってどういうことだ!!

 頭だけじゃ無く胃も痛くなってきた気がする。何だこれ。どういうことなの。フィルツェーニク君に会った時に現代竜族と古代竜族の違いについてちょっと考察してみたけど、こんな変化球で大当たりするなんて誰が思う!?

 目録であって図鑑ではないので、神器の詳細な見た目や効果は分からない。精々名前とざっくりした種別ぐらいだ。それでも、名前から大体効果が分かる神器ってあるじゃない?


「この「父祖の加護」と「母祖の祝福」とか完全に種族スキルを受ける為の神器じゃないか何でそれが行方不明になってんだ!!」


 思わず声も出るってもんだよ!! どっからどう考えてもこの竜都を放棄する時に何かあったのが原因じゃないか!! あの世界規模スタンピートで現代竜族と古代竜族に分かれたのがこんな形でほぼ確定するなんて知りたくなかった!!

 ……って、いうか、あれか? 最初の大陸では確か、何柱かの神が自ら封印を受ける事でモンスターの被害を食い止めたってバックストーリーがあった筈だから、もしやティフォン様の封印もその一環だったのか? エキドナ様は「第一候補」に聞いて見なきゃ分からないけど。

 で? ティフォン様が封印されたんなら、まぁ直系である竜族にも影響が出るよな? その余波でこの大混乱になったのか? ……というか、もしかして、あの谷底に竜都の1つが時代ごと封印されてるのって、そっちの影響か?


「って事は……あれか? 下手にあの谷底の封印を解くと、大陸に押し寄せた文字通り海を埋め尽くす数のモンスターも一緒にコンニチハする可能性が、ある? ちゃんと大陸全域の全種族、全集落でガチな迎撃態勢整えてからでないと、この世界規模スタンピートが起こった当時の再現で最初の大陸が滅びかね、ない……?」


 …………どうしよう。理が通った。谷底に何で野良ダンジョンがぽこぽこ出現するのかとか含めて全部綺麗に説明できちゃうぞ。

 てことは「十分に有り得る」って事だ。フラグの順番がどうだかは分からないが、早めに分かった所でどうあがいても準備が足りない。流石にこの情報だけでは、特に人間種族の協力を取り付けるのが死ぬほど高難易度だ。

 ……いや。いや待て、ちょっと待て。


「待てよ……いやほんと待て。私がゲームを始めた時の難易度は正直続けてるのが奇跡なぐらいだったし、それは世界三大最強種族なら大体一緒で、つまり運営が「その種族のプレイヤーが居る」事をそもそも想定してなかったら……?」


 非常に嫌だが、嫌で仕方ないが、筋が、通る。私がエルルを引っ張り出せた=封印された竜都に干渉できたのも、妖精族が旧首都現記念公園に逃げて来た=ティフォン様封印解除の余波を受けたのも……全部が全部、「想定外」なら。

 流石に『バッドエンド』のように悪意を持って捻じ曲げたわけではないし想定外と言うならそもそもランダムに混ぜるなと言いたいのはともかく、この場合、問題になるのは。


「………………」


 ティフォン様という楔が「第一候補」によって外され。

 時代の封印そのものが私によって干渉を受けて。

 ……超大規模なモンスターの群れを伴うその封印の。完全解除されるまでのカウントダウンが……既に始まっている・・・・・・・・可能性が、「ある」という事、じゃないか?

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